紅く染めにし汝が頬に Wallpaper drawn by d-land 亜美ちゃんを見るたび、じっと見つめるたび、 頬を紅く染めて、そっと微笑みをかえしてくれる。 その微笑みの中に、瞳の中に、 あたしへの、想い。 あたし、どうして今まで気づかなかったんだろう? あたしたち、友だち同士でしかないから? それとも、戦いがあたしの目を曇らせていた? いいや、その言い方はおかしい。 あたしを狂わせていた?そう、きっとそう言った方が正しい でも、戦士の務めのせいで、亜美ちゃんの紅い頬に ずっと気がつかなかったなんて、そんなの信じられない。 きっとそれは、愛し愛されることにあたしが臆病なせい。 何をそんなに恐れているのか、うまく言えないけれど。 おそらくそれは、父さん母さんの死にまでさかのぼるんだ。 心の奥で、父さん母さんと同じくらいに、誰かを 好きになるのが怖いんだ。 その人もあたしから去っていってしまいそうで。 心の全てを捧げた人も、すぐにあたしを見捨てていきそうで。 あの「先輩」みたいに。 思わずあたしはクスクス笑う。先輩のことを口にするたび、 亜美ちゃんてば不安そうにあたしを見つめるんだもの。 先輩への思いはジョーク、ただの現実逃避。熱に浮かされた 感情の焦点。盲目の妄想。 あたしの執着の名残。 でもひょっとして、亜美ちゃんの気持ちも、それと同じ? 亜美ちゃんにとっては、ただの一時的な感情? それとも、本気? 亜美ちゃんが見つめる瞳、そのあまりの深い色に あたしは溺れてしまいそう。 どうして、その小さな瞳の中に海のような深淵を 秘めていられるの? 深淵。 そう、亜美ちゃんは深淵。あまりにも深すぎて あたしはまるでつかの間のかげろうにすぎない。 本当に、あたしを思ってくれるの? 首をかしげて疑いを胸に、あたしは決心する。 ゆっくりと立ち上がり、亜美ちゃんの前に進み出る。 そっと頬を染めて、目を上げる。目と目で見つめ合う。 優しい微笑みを与えてくれる。 でも、その瞳を曇らせて、かすかに不安を浮かべる。 ほんの一瞬だったけど、亜美ちゃんはもう気がついてる。 何かがいつもと違うことを。 あたし、なぜすぐに気がつかなかったんだろう? なぜ、こんなに時間がかかったんだろう? 「まこちゃん、どうしたの?」 答えの代わりに、あたしは亜美ちゃんの頬に優しく掌をあて、 ハッと息をのむ声を聞く。 「まこちゃん…?」 こんなに不安な亜美ちゃんの声を聞いたことはなかった。 柔らかく、震えて、瞳を潤ませてあたしを見つめる。 その時、あたしは気がついた。 亜美ちゃんの気持ちに気がつかなかった理由が。 亜美ちゃんがあたしに近づいてこなかった理由が。 あたしと同じように、亜美ちゃんも怖かったんだ。 自分自身の気持ちと、あたしの答えへの、不安。 自分の気持ちを伝えたら、いったいどうなってしまうのか。 亜美ちゃんの恥じらいが、全てを語っていたんだね。 身をかがめると、二人の顔が近づく。亜美ちゃんの吐息が 頬にかかる。あたしは、ゆっくりと微笑む。 「まこちゃん?」 亜美ちゃんの声が震え、はっきりととまどいが顔を出す。 あたしは、せっかちだね、と声をかける。 ヘンだね、亜美ちゃんのことをせっかちなんて思ったことなん かないのに。それとも、あたしの知らない亜美ちゃんが、まだ いるの? まあいいや、それを見つける時間はたっぷりあるもの。 亜美ちゃんのほつれ髪をかき上げて、にっこり笑って囁きかけ る。 「赤くなった亜美ちゃん、とってもきれいだなって、言ったっ け?」 亜美ちゃんの反応は、予想通り。 ほんのり頬を紅く染めて、目をそらす亜美ちゃん。 それを見てあたし、ほっとした。なぜって、もう あたし一人ぼっちじゃないんだってわかったから。 なぜって、もう亜美ちゃんはあたしのもの。 亜美ちゃんも、亜美ちゃんの心もあたしのもの。 そして あたしの心は、亜美ちゃんのもの。 でも、でも、それでもまだ、あたしまだ、 わからないことがたった一つ。 あたし、どうして今まで気がつかなかったんだろう? 完
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