至福の刻 「さあ、行こう、みちる」 ウェディング会場から二人は屋上への階段を登った。 屋上にはすでにヘリコプターが待機していた。みちるはせつ なと抱き合って、頬にキスした。はるかはほたるを抱き上げ、 幼い少女の額に暖かなキスをした。みちるもほたるの頬に手を 当てて、鼻先にキスした。 「愛してるわ、ほたる。せつなママをよろしくね」 「2週間後に、また会おうね、ほたる」 はるかは少女に最後の抱擁をして、そしてやむなく下ろした。 そして、せつなにも抱擁する。 「行ってらっしゃい、二人とも、気をつけてね」 緑の黒髪の美女が、ウィンクして祝福する。 はるかとみちるは手を取り合ってヘリに向かった。風に乗っ て柔らかなメロディが流れてきた。 「きれい、この曲は?」 うさぎがにっこり笑って二人に手を振った。 「二人のテーマ曲よ」 未来の女王が打ちあけた。 ヘリコプターがゆっくりと夜空に上がっていく。みんなは最 初は耳をふさいだが、ヘリが上昇すると新婚カップルに向かっ て手を振った。その想いへの感謝として、みんなの頭上にピン クの花びらのシャワーが降りそそいだ。 ヘリの中で、みちるはほっと安堵の息をついた。 「終わったのね!」 そう叫んで、みちるははるかを愛おしげに見つめた。 「でも、私たち二人の生活は、今、始まったばかり」 みちるは手を伸ばして、伴侶の手を握った。 はるかは笑って恋人に目を向けた。 「だいじょうぶ、気持ちはわかるよ」 はるかはヘリを操縦して、二人のハネムーン・リゾートがあ るラナイ島に針路を向けた。みちるは座り直し、ハイヒールを 脱ぎ捨てて血行の悪くなったつま先を動かした。 「さ、これからは愛する君との二週間のことに集中したいな」 みちるがふとため息をついた。 「はるか、あなた絶対に…」 「みちる、お願いがあるんだ」 みちるの言葉をさえぎって、はるかが言った。 「なに?」 はるかは恋人に、とろけるような視線とすばやいウィンクを した。 「ベッドの上では、お小言は控えめにね」 *** はるかはみちると並んで、ホテルに入っていった。ドアの内 側では、ホテルのマネージャーが二人を待っていた。少し禿げ かかったマネージャーが慇懃に頭を下げると、はるかとみちる もそれにうなずき返した。 「天王さま、本日はあなたさまとお美しい花嫁さまのお二方を、 このマネレ・ベイ・リゾート・ホテルにお迎えできたことを嬉 しく存じ上げます!ヘリポートへの着陸にご不満はございませ んでしたか?」 「ああ、大丈夫、スムーズだったよ」 「それはようございました。私、当ホテルのマネージャーで、 ベイツと申します。ご滞在のあいだ快適に過ごせますよう、ご 要望がございましたらお知らせ下さいませ」 はるかはその人好きのするマネージャーにみちるを任せて、 チェックインに向かった。フロントに向かうはるかの美しい後 ろ姿を、みちるは見つめていた。 「ご結婚、おめでとうございます、海王さま…。おっと、そう お呼びしてもよろしゅうございますか?」 みちるは笑って、 「もちろんです、プロの演奏家としての名前はそのままですか ら」 マネージャーはその温かな手でみちるの手をとった。 「こちらへどうぞ。当ホテルのロビーには、世界中から集めま した名画が展示されております。あなたさまのようなすぐれた 芸術家には、ぜひともご覧いただきたく存じます。実は、当ホ テルの姉妹館である丘の上のホテルには、あなたさまの作品も 展示されておりまして。音楽の才能同様に、私、あなたさまの 美術作品のファンなのですよ」 みちるは赤くなって照れた。 「どうも、ありがとう」 一方、はるかは、この五つ星の最高級ホテルにチェックイン して、ブライダル・スイート・ルームのキーを受け取っていた。 あまりにもあっという間に全てが進んでいってしまったこと に、はるかはまだちょっとぼうっとしていた。 ボクと、みちるは、結婚したんだ! そしてボクたちは今、ハネムーンのさなか! 二週間のあいだは世界の全てのことを忘れて、自分たちだけ のことを想っていられるこの時間を、二人は待ちこがれていた。 *** 二人は新婚の初夜を一生で一度だけの愛の祝祭として最高の ものにしようと、それまでは一人寝で我慢することにしていた。 だから二人は二週間も前から禁欲生活に入って、一度もメイク・ ラブしないでいたのだが、とはいえ離ればなれになることは出 来ずに、寝るときはやっぱり互いの体温を感じながら抱き合っ ていた。それがかえって精神的にすばらしく快かったことに、 はるかはびっくりしていた。 だが、今やはるかは、いつもの慣れてしまったはずの愛の行 為を押さえられてしまったせいで、二人の肉体的なつながりを 今夜こそやっと取り戻せるという気分に、すっかり準備ができ あがってしまっていた。 今夜のことを想像しただけで、乳首が固くなっているのがわ かった。 昨日の夜、はるかとみちるは一緒にお風呂に入って、恭しく 互いの体毛やヘアを剃りっこした。恋人の身体に剃刀を当てて 滑らせていく、危険でエロティックな行為に、二人の自己制御 は限界にまで達してしまった。 餓えたようなみちるの視線に、はるかも同じものを感じてし まっていた。 *** カウンターのうしろの女性スタッフが、はるかの注文したワ イン・リストを持ってきた。ざっと目を通して、はるかは最高 級の甘口の赤ワインを選んだ。 「よく冷やしておいてね」 女性はうなずいて、 「かしこまりました。ルームサービスがお部屋の方にお届けい たします」 「ありがとう」 はるかは広いロビーを見渡して、ようやくホテル・マネージ ャーと一緒に立っているみちるを見つけた。ベイツ氏が絵画の 前で身振り手振りを交えながらしゃべり続けている。恋人に助 け船を出さなきゃ、とはるかは思った。 「おや、天王さま」 はるかが顔を向ける。 「ああ、ベイツさん」 「ちょうど今、奥さまに我々のコレクションのうち、貴重なカ リビアン・エロティックアートをご覧いただいていたところで す」 「それはありがたいけど、今日はボクたちにとって『忙しい』 日なんだ。よければ、このまますぐに部屋に行きたいんだけど」 はるかは丁寧に、しかしきっぱりと言った。みちるがはるか にすり寄って、伴侶の腕に手を滑らせた。 「ああ、それはもう、もちろんでございます。ええ、お二人に お会いできて嬉しゅうございました。素敵な夜をお過ごし下さ いませ」 マネージャーが指を鳴らすと、制服の若者が現れた。 「お客さまを、天王ご夫妻を、お部屋に、ブライダル・スイー ト・ルームにご案内して」 「承知いたしました、マネージャー」 若者ははるかに向かって、 「こちらでございます、お客さま」 *** 二人の荷物は先に運ばれていて、部屋で待っていた。 みちるが部屋を探検している間に、部屋に案内してくれた若 者に、はるかがチップを渡した。 「あ、お客さま、ご注文のワインはすでにお部屋の冷蔵庫に…、 お客さま?」 若者は口を閉じた。はるかが聞いていないのに気が付いて。 「あ、ええと、マネレ・ベイ・リゾートでのご滞在を、どうぞ お楽しみ下さい」 「ああ、そうさせてもらうよ」 はるかは優しく答えたが、その目が花嫁の姿から離れること はなかった。 「そ、それでは…」 若者は咳払いして、すぐに退散した。 ドアを閉じて、はるかは美しい伴侶に向かって振り向いた。 が、みちるの姿はなかった。はるかは豪華なスイート・ルーム のあちこちを探しまわった。 ようやく突き止めた恋人の居場所は、巨大なベッドルームだ った。 ちょうどみちるがナイトスタンドの扉を閉めたところだった。 スーツケースを中にしまったのだろう。 「みちる」 自分の伴侶の繊細な顔立ちに息を呑みながら、はるかが囁い た。 「ボクだけの、みちる!」 はるかは、美しいヴァイオリニストの少女に近づいた。 そんなはるかの手をかわして、みちるはバスルームに駆けて いった。 「うふふ、まだ、ダメ」 はるかに言うみちる。 「はるかのために、いいものがあるの」 「ボクもだよ」 はるかもみちるに笑いかける。 みちるははるかにウィンクして、 「ちょっと、待っててね」 *** 二十分後、みちるがバスルームから出てきた。せつながみち るのために仕立ててくれたネグリジェ一枚の姿で。 はるかはベッドに横たわっていた。細い鎖にぶら下がった婚 約のペンダントをつけて。はるかはまだ黒のドレスパンツをは いてはいたが、もうブラを外して、白いドレスシャツのボタン を一つだけかけなおした姿だったから、はるかの豊かな胸のふ くらみに気づいたみちるの熱い視線は釘付けになった。 はるかは、冷えたワインのグラスを手にして、そっと回して いた。 アクアマリンの髪の美少女は、恋人の熱く燃える視線に心臓 の鼓動を高ぶらせた。 「私だけの、はるか!」 ディナーの時から、みちるの全身はこの瞬間を待ちこがれて いた。長い禁欲生活のせいか、それは最高に甘い瞬間だった。 うっとりするような恋人の身体を目でむさぼりながら、はる かは身を起こした。ワインを飲み干し、グラスをナイトスタン ドに置く。そしてはるかは手を差し伸べて、みちるをベッドの 自分の隣りに導いた。 濃厚なキス。恋人から熱いワインを口移しされて、みちるは 唸った。二人はゆっくりと互いの舌をしゃぶり合いながら、こ れからの期待にうちふるえた。だんだんと、二人はもっと、も っと互いを求めはじめた。 はるかの舌が、みちるの喉の鎖骨の間のへこみに移り、優し く舐めあげる。そして、ナイティの頼りなさげな肩紐の下に細 い指を差し入れて、みちるの腕を撫でさするように紐を引き下 ろしていった。 露わになった乳房が、みちるの荒い息づかいにあわせてかす かに震えた。はるかが触れないうちに、乳首は固くしこってい た。豪華なシルクのシーツの上に、はるかは恋人を仰向けに寝 かせた。震えるような喘ぎを漏らしたみちるの身体に沿って、 金髪の美少女は両手を滑らせて、腰から、滑らかな太股へとネ グリジェを脱がせていった。最後にそっと引っ張ると、繊細な 寝衣はまるで囁き声のようにふんわりと漂いながら床に落ちた。 これからのことを思って、みちるは身を固くした。その時、 冷たいワインの雫がはるかの指先から、みちるのしこった乳首 に降りそそいだ。 「はる、か!」 熱く火照った肉体の上を冷たい雫が転がる感触に、みちるは 叫んだ。 白い歯が小さな乳首の先端を挟み、そして舌が撫でるように 愛撫していく。はるかはみちるの乳首を口に含んでしゃぶった。 みちるの息づかいと、絞り出すような喘ぎ声を堪能しながら、 はるかは心の中で思った。 「ああ、神さま…、ボクはこの世で一番セクシーな女の子と結 ばれたんだ!」 みちるの外陰唇を押し開いて固くなったクリトリスを露わに すると、はるかは恋人の秘部に冷たいワインをほんの少し垂ら した。敏感になった秘所にしたたる冷たいワインに、みちるは すさまじい快感を覚えて身をのけぞらせた。 そしてはるかの熱い唇が冷たい液体を舐め取っていくと、み ちるは息を漏らすしかできなくなった。はるかは小さなつぼみ を引っ張るようにしゃぶって、甘いワインを全て飲み干そうと した。はるかの舌が蛇のようにみちるのヴァギナに入り込み、 柔らかく濡れた肉の壁をまさぐる。みちるは恋人の髪に手を絡 ませた。もっと奥まで侵入しようと、はるかがみちるの両脚を 押し広げた。はるかは後を引くようにその内股を舐めあげる。 そしてその舌先が、露わになったみちるの秘所に達する。細い 指でみちるの陰唇を押し開けながら、はるかは愛する伴侶の濡 れた秘部に舌先を転がした。 何度も嬌声をあげるみちる。はるかがまたじんじんと疼く宝 珠に、繰り返し舌を細かく動かして嬲った。 下腹部を硬直させたみちるの全身に、最初の熱い稲妻が駆け めぐった。みちるは恋人の名前を叫ぼうとしたが、あまりにも 強烈なオルガスムのために、口から出たのは熱い喘ぎ声だけだ った。 舐めるのをやめて、はるかは腫れあがった秘部に口づけした。 みちるが両腕を開くと、はるかはその中に飛び込んで、伴侶を 固く抱きしめた。はるかの体重が全部小柄な少女の上にかから ないように、二人は横に並んで転がって、しばらくそのまま、 たった今のメイクラブの快感に浸っていた。 一息ついて、今度はみちるが激しいキスとともに抱きついて きた。はるかの口に深く舌を滑り込ませると、ワインと混じり 合ったはるか自身の味を感じた。 幸せなため息を漏らしながら、みちるははるかの細い首にキ スを移した。 みちるはそのまま、婚約の宝石を吊るす細い鎖がつけた首筋 のあとに歯を立てた。心地よさげな喘ぎとともに、はるかはみ ちるの巧みな唇の動きに身体をのけぞらせた。 みちるのキスはだんだんと下に移動し、はるかのシャツにた どり着いた。みちるの繊細な指が、さっとボタンを外すと、天 井のファンが送ってくるかすかな冷気が、はるかのしこった乳 首をそっと撫でた。みちるはその片方を舐め、もう片方を手の ひらで巧みに揉みしだく。舌で濡らした乳首に、みちるはそっ と手を当てて、疼く乳首に触れるか触れないかというくらいに 優しくさわった。はるかは悦びのよがり声をあげ、胸を反らし、 更なる刺激を求めた。だがあいにく、みちるは乳房をほうって おいて、はるかの滑らかな肩から整った腕を抜いて、ドレスシ ャツを脱がせた。 はるかの上半身を全て脱がせてしまうと、みちるは次に恋人 のドレスパンツに目をやった。緑の髪の妖精が、滑らかな動き で、ズボンと下着を脱がせていく。愛する伴侶の服を脱がせる のにぐずぐずしてはいられなかった。はるかにはもっと甘美な 拷問が待っているのだから。 みちるはナイトスタンドに手を伸ばし、あらかじめ置いてお いたものを手に取った。そして、みちるがはるかのヴァギナに 指を出し入れさせると、あまりの快感にはるかはベッドの上で のたうち回った。 指を引き抜くと、みちるは、ゼリーを思いっきりチューブか ら絞り出して手で受けた。そしてそれをはるかの中に塗り込ん でいった。 みちるの指がもたらす甘い刺激に、はるかは腰をくねらせた が、いきなりみちるが手を止めてしまった。不満げに甘え声を 漏らしたはるかは、何も言わずに激しくキスをした。 その直後、はるかに何かが押しつけられて、胎内に入ってこ ようとした。冷たい樹脂の感触に驚いたはるかが身をよじる。 最初、はるかは身を固くしてその侵入を拒もうとした。 だが、だんだんと力を抜いていくと、ちいさなパールロータ ーははるかの中に入っていった。 低い呻きをあげながら、はるかは頭のうしろの枕を両手で握 りしめた。試しにその物体をキュッと締めつけると、その感触 にはるかは柔らかな喘ぎ声をあげた。焦点を失ったはるかの目 に、みちるが何かを持って自分の脇腹や下腹部、そして敏感な 秘部にと滑らせていくのが、ぼんやりと見えた。みちるは目を 閉じて、再び絶頂に達しようとする快感を堪能した。みちるは 小さな機械の動きのスピードを上げた。 「きれい、きれいだわ」 みちるが囁いた。 しゃべる限界を超えて、はるかはもう呻くだけだった。 悶えるはるかの身体の上に、みちるははるかの股間に手をや ったまま、その身体を重ねた。恋人の脚でがっちりと固定され たみちるが、互いの乳房を丹念にこすりあわせていくと、痛み にも似た興奮がほとんど頂点にまで達しそうになった。 突然、ベッドからはるかが身を持ち上げた。両足と肩だけで 二人分の重みを支えて。 強烈なオルガスムからようやく立ち直るまで、みちるはキス と愛撫を繰り返した。そしてみちるはぬるぬるになったおもち ゃを伴侶の胎内から取り出し、タオルでくるんで床に置いた。 はるかがみちるの隣りに横たわると、みちるは恋人の背筋に そっと指を這わせる誘惑に抗えなかった。 敏感になりすぎた背中に感じる快感に、はるかは身を震わせ た。みちるは両腕でギュッと伴侶を抱きしめて、はるかの耳元 に口を寄せた。 「愛してるわ、はるか」 「愛してるよ、みちる」 暗い部屋に、二人の囁き。 はるかはみちるの手をとって、繊細な指を絡めあった。はる かの髪の生え際に沿って、みちるがキスを加えていく。急に今 の姿勢が物足りなくなって、はるかは身体をずらして、伴侶と 面と向かい合った。みちるは視線を合わせて微笑む。二人は身 体を休めながら、暗がりの中で互いにこれまでの日々と愛を囁 きかわした。 「はるか、私、あなたと初めて出会った瞬間に、好きになった の。でも、こんなに幸せになれるなんて、夢にも思わなかった」 「みちる、君がボクを強くしてくれたんだよ」 はるかが真摯に語る。 「自分でも気づかなかったボクの中の空白を、君が埋めてくれ たんだ」 「ああっ!」 みちるはため息をついて、はるかの鼻の上にキスした。二人 はぴったりと寄り添って満ち足りた気分で横たわった。真実の 幸福に満たされて、みちるは思わず笑った。 恋人の甘い笑い声に胸が締めつけられて、はるかの目に涙が にじんだ。 一度や二度じゃない、あやうくみちるを失いそうになった瞬 間が、走馬燈のように心に浮かんだ。 この忌まわしい記憶を、今この瞬間に魂の伴侶がそばにいて、 自分のものになっていてくれている現実で振り払おうと、はる かはみちるをもっとそばに抱き寄せた。 みちるがもたれかかった。 「はるか、もう疲れちゃった?」 「そうでもないよ。それに、興奮しちゃって眠れそうにない」 「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」 みちるはベッドから転がるように降りて、はるかがつかまえ ようとするのをすり抜けてバスルームに跳ねるように駆け込ん でいった。 はるかの耳に、水の流れる音が聞こえた。数分後、はるかの 伴侶は目を妖しく輝かせながら、再び姿をあらわした。みちる ははるかの手をとって、暖かな愛の巣から楽しげに押し出した。 みちるがはるかを連れて行ったバスルームには、豊かなお湯 といい香りの石鹸の泡に満たされた巨大なバスタブが据えられ ていた。はるかはその中に飛び込んで、熱いお湯にほっと息を 吐いた。 また姿を消したみちるが、贈り物のバスケットを持って戻っ てきた。この部屋を提供してくれたはるかのアメリカのスポン サーからのプレゼントの品。 中にはキャビアとシャンパン、そしてゴーディヴァのチョコ レートボックス。普通、アメリカのお菓子は日本人の好みから すると甘すぎるものだが、普通とは違うはるかはその甘さが大 好きで、そのことをみちるはよくからかっていた。 みちるはバスタブの端に座って、シャンパンをグラスに注い だ。はるかはもう金色の箱を手にしていた。箱のふたを開けな がらも恋人の顔から目を離さずに見つめているフィアンセの姿 に、みちるはくすっと笑った。 小さな皿の上にチョコを載せたそのお菓子のスタイルは、開 いたハマグリの貝殻にクリーミーなトリュフをつめた料理を模 していた。(閉じたハマグリは、日本では結婚に縁起のいい食 べ物だそうだ。スポンサーのチョコレート会社が気をきかせた のにちがいない) その一つをぽいっとひと口に放り込んだはるかに、みちるは 目を丸くした。 (いくら小さいとはいえ、一口でなんて…) そしてはるかは、みちるに箱を渡した。 女流ヴァイオリニストは、眉をひそめて首を振った。 「それ、甘すぎるんだもの」 「ふふ、君ほどは甘くないさ」 はるかは泡だらけの腕でみちるを抱きしめ、そのまま高く笑 う少女をお湯の中に引っ張り込んだ。きゃあきゃあはしゃぎな がら、みちるははるかの首筋に濡れた唇でキスしたり、歯を立 てたりした。 絡み合ったせいで、みちるの手のグラスからシャンパンがこ ぼれてしまった。はるかはグラスを手にとって飲んだ。みちる も一口飲んでから、はるかの頭の向こう側に腕を伸ばして危な くないところにグラスを置き直した。 そのせいで、みちるの腕から泡がはるかの顔に落ちてしまっ た。その泡を、はるかはフッと吹き飛ばした。二人ともすっか りいい気分になって、はるかは手にいっぱい泡を集めて、みち るの頭に泡の冠を作ってやった。二人はひとしきり泡をつけあ ったりしてふざけあった。 いつの間にか、はるかの顔は白い髭だらけのようになり、髪 や耳に泡を付けられたみちるは緑色に染められたプードルみた いになってしまった。二人はその姿に笑いころげて、やっと立 ち上がるとシャワーで泡を洗い流した。 みちるはヘチマのスポンジを泡立てて、はるかの鍛えられた 全身を磨いた。膝をついて、みちるの柔らかなお腹にキスを加 えるはるかの金色のショートヘアを、みちるは泡立てた。はる かの身体を洗い終わると、みちるはスポンジを手渡して交代す る。はるかの身体は洗われてすっかり濡れていた。 みちるの髪を泡立てながらも、はるかは隙をみて両手をみち るの柔らかな乳房やそのほかの敏感な性感帯の上にと走らせた。 みちるの豊かな巻き毛からすっかり泡を洗い流してしまうと、 二人はバスタブから出て、互いに身体を拭き合った。はるかは みちるの艶やかな肌に両手を滑らせて、大きな乳房を手で包ん だ。 「昨日の夜から、こうしたかったんだ」 甘え声ではるかが囁く。 「よく言うわ」 悪戯っぽく答えたみちるの股間に、はるかの手がすっと滑り 込んできて、みちるはハッと息を呑んだ。振り向いたみちるが 唇を近づけて、燃えるようなキスを交わしあう。 絶妙のブレンドに溶け合った、シャンパンと、チョコレート と、そしてはるか自身の味を、みちるは堪能した。 「おいしい…」 キスをやめてみちるの首筋に鼻を擦りつけたはるかに、みち るがそう囁いた。 「え、なんだい?」 興奮にぼうっとしたはるかが、そっと訊き返した。 「ね、ベッドに」 みちるが甘えて答える。 はるかはみちるを抱えあげて、バスルームから運び出し、布 団の上にそっと横たえた。 二人は手を互いの脚に滑らせて、熱くなった秘肉を刺激し合 った。細やかな動きの指がじんじんと疼くつぼみの上を滑らせ ながら、二人は舌を絡ませあった。激しく抱き合って上に下に と転がるうちに、みちるの喘ぎ声が頂点に達しようとしてきた。 「ああ…いい…、はるか、もっと、もっとして…」 その声に応じて、はるかはさらに動きを早めた。みちるの瞳 がとろんとしてきたのに気づいたはるかは、股間への刺激をさ らに激しくした。みちるがイッてしまう寸前に、はるかは手の 動きを止めた。愛するパートナーの口から震えるような呻き声 が漏れたが、不満の色は見せずに、二人はまたキスを交わした。 みちるの手が再び、はるかの濡れそぼった秘肉に攻撃を始め た。最後の瞬間、みちるよりもほんの一、二秒遅れてはるかが 絶頂に達したが、二人ともそんなことには気づかなかった。 「ああんっ!」 慣れ親しんだ熱いものが全身を駆けめぐるのを感じて、はる かは喘ぎ声をあげた。 一方、みちるはゆっくりとした脈動が全身を流れていくのを 感じながら、ただそっと呻き声を漏らした。 全てに満たされた、二人のセーラー戦士。 はるかが掛け布団を引いて、二人の身体の上にかけた。はる かとみちるは二本のスプーンのように身体を重ねるように抱き 合って、互いの愛に包まれながら、満ち足りたまま夢の世界に 漂っていった。 *** 翌朝、目覚めたみちるが最初に目にしたのは、優しい顔で見 つめるはるかの姿だった。 「おはよう、みちる」 愛する伴侶へのみちるの返事は、唇に熱いキス。 夜の間に二人の髪は乾いていたが、はるかの髪はぼさぼさに あちこち逆立っていたし、いつもは完璧に整ったみちるの巻き 毛も、信じられないほどめちゃめちゃに絡まっていたが、二人 とも気にはしなかった。 全ては二人が愛し合った結果なのだから。 とはいえ今日は二人で外出する予定だったから、やがて二人 は軽くシャワーを浴びることにした。 手をとりあってバスルームに入った二人。降りそそぐシャワ ーを浴びるみちるの後ろで、はるかは立ちつくしたまま恋人の 裸身をうっとりと見つめていた。 「はるか、シャンプーとってくださる?」 手を伸ばしたはるかは妙な形のボトルを持ち上げた。 「ディープ・シャイン、か」 はるかが字を読み上げる。 「このシャンプーは、海藻の成分からできています、だって」 はるかは笑いながらみちるにシャンプーを手渡した。 「君にぴったりだね」 アクアマリンのロングの巻き毛をみちるが泡立てているうち に、はるかが小さなバッグをのぞき込むと、中は香水入りのオ イルやバブル入浴剤でいっぱいだった。 「どこでこんなに手に入れたんだい?」 はるかはその一つを開けて、匂いをかいだ。 「美奈子ちゃんが、結婚祝いのパーティーでプレゼントしてく れたの」 みちるが何気なく答えた。 はるかはすぐに話題を変えた。あの件についてはあまり触れ たくなかったから。 (訳者注:未訳の第2話で、みちるがみんなとパーティーを楽 しんでる間、はるかは独り合点で「東京に隕石が落ちる」とい う報道(実はフィクション)に振り回されて、ひどい目にあっ ていた) はるかがスポンジにお湯を含ませて、自分の身体を泡立てた ころには、みちるはもう髪をすすいでいた。それを終えると、 みちるはシャワーを手にとってはるかの身体を洗い流した。 悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、セーラー・ネプチューン はシャワーのスイッチをマッサージモードに切り替えた。手の ひらで受けて確認してから、みちるはそれを金髪の恋人に向け た。 背中に当たるお湯は予想していたが、その強い勢いの水流を いきなり股間に当てられて、はるかはあわてた。お湯がクリト リスに当たると、金髪の美少女レーサーは思わず腰を前にひね った。 「何するんだよ」 はるかは叫びながら、みちるからシャワーをひったくった。 「驚いた?」 みちるがクスクス笑いながら言う。 「君だって、どんな感じがするかわかるだろ」 「はるか、女の子ならみんな知ってるわよ」 「はあん、そうか、君がいつも長湯なのは、このせいなんだな」 「そんな、その、私ははるかに愛してほしいけど、はるかがお 出かけの時は…」 笑いながらはるかがみちるを見下ろす。 「それじゃあ、ふうん…。そんなに気持ちいいの?どんなに複 雑な快感が味わえるのか、説明してくれる?」 疑わしそうに、はるかは恋人にシャワーを返した。 「よろしくてよ、いま、証明してあげるわ」 みちるが声を落として、甘く囁いた。 「横になって、楽にして」 しかたなく、まだいぶかしそうな顔で、はるかはお湯を張っ たバスタブに横たわった。その脚の間に、みちるが膝をついて 座る。 熱いお湯の流れが敏感なクリトリスに当たると、最初は身を よじっていた金髪の美少女は、しかしすぐに甘い喘ぎを漏らし た。秘密の宝珠を絶え間なく刺激する水流に、はるかはたちま ちイッてしまった。絶頂にひきつったはるかのヴァギナに、み ちるは指を差し入れて、さらにお湯の勢いを強めると、はるか はまたイキながら全身をのけぞらせて絶叫した。 あまりの快感にはるかは驚いた。もう二回もイッてしまった のに、身体はまだ求めていた。今までに味わったことのない強 烈なものが身体の中に沸き上がってくるのを、はるかは感じて いた。乳房が疼き、ものすごく熱いものが下腹部に集まってき た。みちるははるかの濡れそぼった胎内に指を出し入れしてい る。 はるかの力強い両手が、バスタブの両脇を死にものぐるいで ギュッとつかんだ。 「あ、ああああっ!み、ちぃ、るぅうう!」 一瞬、世界の全てが真っ暗になり、はるかのスレンダーな鍛 えられた身体がバスタブからのけぞり、全身を引き裂くような オルガスムに痙攣して何度も何度も身をよじらせた。 その快感がようやく静まった頃には、セーラー・ウラヌスは バスタブの中で動くことも出来ずに横たわっていた。何度も押 し寄せたオルガスムに、その下腹部は張りつめていた。刺激さ れすぎたクリトリスとヴァギナから伝わるかすかな快感の余韻 に満たされて、はるかは身震いした。もう、真正面にいるはず の愛する伴侶の姿すら朦朧としてよく見えなかった。まるで、 暗いトンネルの遥か彼方の出口に、みちるは居るようだった。 愛液に濡れた指を引き抜いて、みちるは恋人にそっとのしか かって優しく口づけした。 「だいじょうぶ?」 「う、うん」 かすれた声の返事が返る。 みちるは身を起こして座り、美しい伴侶を見下ろした。はる かのきれいなピンクの乳首が、お湯のきらめきに包まれていた。 深い瞳の色の中に炎をくすぶらせて、みちるはこれ以上ないほ どに満ち足りた表情を見せた。 「気持ちよかったでしょ?」 ちょっと気恥ずかしくなって目をそらしながら、みちるが訊 く。 起き直ったはるかが逆に身を寄せて、恋人の顔や首筋にいく つも熱烈なキスの雨を降らせた。 「ああん、すてき」 みちるは息をついて、熱愛するパートナーのセクシーな旋風 に包まれるままに身を任せた。 *** 楽しみいっぱいのお風呂の後、二人の少女はシルクのローブ を着てリラックスしていた。はるかの整った身体は極上の黒の ローブに隠され、みちるの繊細なボディラインの曲線は白のロ ーブに包まれていた。はるかは椅子に深く腰掛け、自分を見つ めるみちるをその膝の上に抱いていた。 みちるは、ルームサービスが届けた朝食から、バターたっぷ りのクロワッサンをちぎって食べさせた。 はるかがそれを食べると、みちるも自分でちぎって食べる。 「今日は君のしたいことをしよう。何がいい?」 みちるはパンを食べながら考えた。そして、その瞳がぱっと 輝いた。 「ねえ、シュノーケル・ダイビングに行きません?」 はるかも笑う。 「いいよ、その後は『ロッジ・アット・コエレ』でディナーな んてどうだい?」 「ステキだわ」 「あそこには五つ星のレストランがあるんだよ」 また一口クロワッサンを食べさせてもらいながら、はるかが 教えた。そして、みちるの指についたクリームバターを夢中で 舐める。 「明日は、はるか、何をしたいの?」 「そうだな、山の方にハイキングに行こうか」 「それも楽しそうね」 みちるも賛成した。そして、こう続けて言った。 「あ〜あ、ここはハワイですもの。きっとビーチにはかわいい 女の子がいっぱいいるでしょうねえ」 その口調に不安を感じて、はるかは伴侶の手をとって指を絡 ませ合った。 「どうしたの、みちる?」 用心深く、はるかが訊き返す。 みちるはまだうつむき加減だったが、声には笑いが混じって いた。 「私、はるかがかわいい女の子が大好きなの、知ってるもの。 でも、ここにいる何週間のうちに、もしはるかが私のそばで誰 かに見とれてたら、私、あなたに何をするかわかりませんこと よ」 『はあん、それが原因か』 はるかはほっとして、みちるの手を放すとその顔を持ち上げ て瞳を見つめた。 「みちる、そりゃあボクは、他の女の子とふざけて君をからか ったりするけど、でも、本当は誰だって君とは比べものになん かなるわけないよ。ここにいる間ずっと、ボクの本当の気持ち を見せるつもりさ。本当だよ、みちる。ボクは君から一瞬だっ て目を離さないからね」 みちるが声を詰まらせた。 「はるか!」 ほっと安堵の息をついて、みちるは愛する人を両腕で抱きし めた。 はるかも抱擁を返す。 「ボクの君への気持ちを、疑わないでおくれ、絶対に。でも、 そんなこともう決してしないって約束はしたくないな。だって、 嫉妬したみちるって、とっても可愛いからなあ」 みちるは笑いながら、はるかの膝から降りた。アクアマリン の長い髪をかき上げて、伴侶に向き合った。 「誰が、私が嫉妬したなんて」 そんな言葉を残し、みちるは朝食の部屋を出た。残りの人生 を共にしていこうとはっきり誓った魅力的な少女をじっと見つ めたままのはるかを残して。 バスルームに行こうとするみちるが、はるかに向かって肩越 しに悪戯っぽくウィンクした。愛する人が自分を追いかけてく るのが、予想した通りとばかりに、みちるは笑った。 *** ホテルのロビーに下りてくると、はるかはみちるをメインロ ビーに待たせて、一時間以内にシュノーケル・ダイビング・ツ アーに参加する予約の手続きに向かった。 「おはようございます。海王さま」 陽気な声が響いた。 「おはよう、ベイツさん」 「ああ、私のことはお気軽に、ノーマン、とお呼び下さい」 「そうですか、では、ノーマンさん」 「ところで、お二人の、今日のご予定はお決まりでございます か?」 「はるかと一緒に、シュノーケル・ダイビングに行こうかと」 「シュノーケリングですか、それはすばらしい選択です。ご存 じですか?マネレ・ベイにはイルカの群が入ってくるんです。 お客さまが幸運なら、イルカと一緒に泳ぐことができますよ」 みちるの瞳が期待と嬉しさに輝いた。 「本当ですの?」 小太りの紳士はみちるに暖かく微笑んだ。 「そうです、お嬢さま。貴女さまが海の友に巡り会える最高の 幸運がありますようお祈りします。思いますに…」 「みちる」 ベイツ氏の言葉をハスキーな声がさえぎった。小柄なマネー ジャーは振り向いてはるかにお辞儀した。 「おはようございます、天王さま。ここでの滞在はいかがなも のかと、奥さまに伺っていたところでした」 「最高ですよ」 「それはようございました」 そこにレセプション係のクロークの女性が控えめに手を挙げ て合図すると、ベイツ氏はうなずいた。 「ええ、恐れ入りますが、私は失礼いたします。素敵な一日を お楽しみ下さい」 「あなたもね、ノーマンさん」 みちるは微笑んで、去っていくマネージャーの背中に呼びか けた。 「あれ、今、ノーマンさんって?」 からかうようにはるかが訊く。 「そうよ、あのね、はるか、ほんとのこと言うとね」 みちるは笑い出したが、すぐにおすまし顔になった。 「ノーマンさん、私とかけおちしませんかって」 「ほんとかよ」 あたりさわりなく、はるかが言う。 「そうよ、でも、私がどれだけはるかを愛しているか説明した ら、ノーマンさん、わかってくれて潔くあきらめてくださった の」 「よかったよ。でなかったら、ノーマンさん…」 「なあに?」 「ボクが墓碑銘を書いてやるところだった」 ひきつった笑いではるかが言った。 プッと吹きだして、恋人をその腕に抱きしめるみちるを、は るかは微笑みながら見下ろした。 *** 一時間半後、鏡のように美しい海原を、みちるは滑るように 泳いでいた。はるかもそのすぐ横を泳ぐ。二人は一緒に、遠浅 の海の底を探検していた。 水面の下は、全くの別世界だった。小さな魚が影の中から出 たり入ったりするたび、銀鱗が射し込む陽光にきらめいた。ま るで自分もみちるも二人だけの小さな世界に一緒に迷い込んだ ような気分を、はるかは感じていた。 悠々と水を掻いていると、何かが砂の海の底で光ったのに、 二人は気が付いた。二人ともシュノーケルから大きく息を吸っ て、正体を確かめに潜った。 さすがに海はお手のもののみちるの方が、先に底に着いた。 みちるがはるかの目の前に示したものを見て、金髪の少女はマ ウスピースをくわえた口に笑いを浮かべた。それは、25セン トコインだった。 みちるも目を細めて恋人に笑いかけた。 その時、はるかの肩越しに見えたものに、みちるは目を丸く した。 人食い鮫が寄ってきて食いちぎられそうなのかと思って、は るかもゆっくりと振り向いた。そのそばで大きく泡が沸き、み ちるの脚ひれが大きくキックしていったのが見えたかと思うと、 緑の髪の少女がいきなり姿をあらわした一頭のイルカのそばに 寄っていったのを目にして、はるかはびっくりした。 イルカはみちるの周りを興味深そうにくるりと回り、そっと 鼻先をすりつけてきた。はるかもそのそばに近寄ると、すぐに 群れの他のイルカに鼻をすりつけられた。 みちるが海の上にあがると、イルカもその後についてきた。 すぐにはるかも顔を出して、シュノーケルの水を吐きだした。 イルカもその真似をして潮吹き穴から水を吹き出したので、は るかはまた驚いた。マウスピースを吐き出して、はるかはお茶 目なイルカのしぐさに陽気に笑いかけた。 恋人の姿に目をやると、右側に顔を出していたみちるが泳い で近づいてきた。 「すごいわね」 「信じられないや」 はるかの声には、自然への畏敬が隠せないようだった。 一頭のイルカがまっすぐ二人に向かって、スピードを上げな がら接近し、そしてその目の前で、大きく自らジャンプし、二 人の頭上にすばらしい弧を描いた。 はるかとみちるは水に漂いながら、水上にハイジャンプした り二人の周りを回ったりするイルカたちのエンターテインメン トを、彼らが水中に戻っていくまで眺め続けた。 みちるがブルーグレイの生物に向かって話しかけると、イル カも楽しそうにみちるにおしゃべりしているようだった。はる かは愛する伴侶に笑いかけた。 「ねえ、まるで君の言ってることが本当にわかってるみたいだ ね」 イルカの賢さに驚きながら、はるかが言った。 みちるは新しい友だちの口を撫でた。 「きっと、本当にわかってるのよ」 「大変だ、ボートから離れすぎたみたいだな」 自分たちがどこにいるのか初めて気が付いて、はるかが言っ た。 「うふふ、心配いらないわ」 みちるは笑って「ほら、見て」 みちるはマウスピースを外して肺いっぱいに息を吸い込んだ。 そして、泳いでいるイルカの背びれをつかむと、陸地に向けて 引っ張っていかれた。 はるかは残っていた仲間のイルカを笑顔で見つめた。 そして、遠ざかっていくみちるを指さした。 「君も、行けるかい?」 そう訊くと、イルカはうなずいたように見えた。 「よおし、でも、ふざけるのは無しにしてくれよ」 はるかはそう注意して、シュノーケルを口にくわえなおした。 ゴムのような質感の背びれをはるかがつかむと、嬉しそうにキュ ーッと鳴いて、イルカは出発した。 *** ボートが岸に戻ると、疲れ切ったカップルはよろめきながらビ ーチに横になって、陽光の中でくつろいだ。気のきく伴侶に日焼 け止めを塗ってもらったはるかは、喜んでみちるにもお返しに塗 ってあげた。 暖かな浜辺で、穏やかな波の音を聞きながら二人は横たわった。 少女たちは一緒に日光浴しているだけで、もう満たされていた。 ふと、みちるが静寂を破った。 「ディナーの予約、何時だったかしら?」 「7時だよ」 朦朧としたはるかの声。 「今、何時かしら?はるか」 「ううんと、5時」 「もう、シャワーハウスで身体を洗って用意しなきゃ」 「もし君がこの疲れた筋肉で動けるんなら、ね」 「私だって、動きたくなんかありませんわ」 みちるも笑いながら白状した。 いきなり、みちるは両手を空に突き出した。まるで、何かか ら力を補給するかのように、繊細な人差し指で高く天を指して。 「でも、行かなくちゃ」 腕を倒して、はるかのお腹をポンッと叩く。 「ああん、でも、ダメだわ」 はるかはクスクス笑って、身体に力を入れて動かし、脚を反 転させて立ち上がると、手を差し伸べてみちるを引っ張り起こ した。 二人は潜水器具を集めて、持参のロングバッグにしまった。 中には、ディナー用の正装とトラベラーズ・チェックも一緒に 入っている。 腕を絡めて、二人はビーチを後にした。 二人は一緒に小さなビーチシャワーの下に立って、互いに水 をかけあいながらはしゃいだ。 はるかはショートヘアの砂を洗い流すと、一つキスを交わし て身体の水を拭い、ディナー用の服を着るために行ってしまっ た。みちるはまだそのまま髪をシャンプーして塩気を洗い落と した。 はるかはさっさと白レジャー・スーツを着込んで、シャワー 室の出入り口を出ようとした。 その時、いきなり安っぽいプラスティックのカーテンの前に、 人影が現れた。髪を振り乱した大柄な女が、ギザギザの付いた 巨大なナイフを振りかざして! ホラー映画のBGMを脳裏に浮かべて、はるかは、ばっとカ ーテンを開いた。 「あれっ、ノーマンさん!?」 はるかは息を呑んだ。 「こんにちは、天王さま。今夜はお客さまのためにハワイ式宴 会『ルアウ』が開かれます」 そう言いながらマネージャーは、ぶよついた腰に巻いた腰ミ ノをヒラヒラさせながら腰を振った。 「これからバーベキューが始まりますので、みなさまにお知ら せに参ったところでございます」 手にしたナイフをかざしながら、そう言い加える。 「ところで、お美しい花嫁さまは?きっと、有名なハワイ風・ 子豚の丸焼きなど、お気に召すのではないかと」 邪悪な形のナイフで肉を切る動きをしながら、そんな誘いを かけてきた。 黒髪のかつらをかぶってフラダンサーの格好をしたマネージ ャーに、はるかは目を丸くした。 「あ、あの、すごくいいんだけど、でもみちるとボクは丘の上 のホテルにディナーの予約をしてるんだ」 「おお、ロッジ・アット・コエレですね。あそこは、カジキの グリルが最高ですよ!では、夜を存分にお楽しみ下さいませ、 天王さま」 「あ、ありがとう」 フラダンスをしながら去っていき、他のお客に挨拶してパー ティーへの誘いをかけていくマネージャーを、はるかは茫然と 見つめていた。 『うう、昔のサスペンス映画いっぱい見ちゃった気分』 はるかは思った。 「はるか!」 新妻の、咎めるような低い声が聞こえた。 はるかはあわてて取り繕うように振り向いて、みちるを抱き 上げた。 「愛してる」 みちるの顔が、微笑みに輝く。 「私も、愛してるわ、はるか」 *** シャトルバスに乗って丘の上のホテルに着いた二人は、さっ そくカップル用のロマンティック・シートに座っていた。 キャンドル・ライトにみちるの姿が揺らいだ。はるかは、た だ見つめるだけだった。この美少女が、自分の伴侶である事実 に、ただうっとりとしていた。みちるの方も同じ気分になって いることなど、夢にも思わずにいた。みちるが手を伸ばして、 はるかの手をとり、そっと握った。 ふたりはノーマンのおすすめに従ってカジキ料理をオーダー した。あの小柄なマネージャーの言葉は正しかった。最高の料 理。 「みんな、ちゃんと帰ったかしら?」 みちるが声に出していぶかしがった。 はるかが眉をひそめた。 「どうでもいいさ。ぼくらは今ハネムーンなんだから、君がボ ク以外の人のことを気にするんなら、ボクはもう知らないから ね」 「私はただ、ディナーらしい会話をしようとしただけですのよ、 はるか」 みちるははるかに笑いかけて、それから澄まし顔で目をそら した。 「じゃあボクも、ディナーらしい会話ってやつをしようかな」 はるかが身を寄せてきて、低く熱い口調でみちるの耳元に囁 いた。 そのとたん、セーラー・ネプチューンは顔と言わず全身まで も真っ赤にして、目にも熱いものがきらめきだした。 ウェイターが絶妙のタイミングをはかって戻ってきた。 「他にご注文はいかがですか?デザートなどは?おすすめは…」 「チェックを、お願いしますわ」 息を詰まらせながら、さえぎるようにみちるが答えた。 *** 二人がハネムーン・スイートに戻った頃には、もう夜も更け ていた。 はるかがパティオの扉を開けると、海の潮風が部屋に吹き込 んできた。そのあいだに、みちるは自分たちの潜水器具をバス ルームに置いた。 戻ってきたみちるは、ゆっくりと室内を周りながら、服を脱 いでいった。 ふざけながら脱いだ服を一枚一枚はるかに放り投げると、は るかも笑いながら同じように服を脱いでいった。恋人の裸身を 見つめて幸せなため息をつきながら、みちるは微笑んだ。 「どうしたの?」 はるかが手を差し伸べながら尋ねる。 「だって、誰かがいきなり部屋に入ってくる心配をしないで裸 で歩き回れるなんて、なんだかとっても開放的な気分なんです もの」 恋人の腕の中から踊るように逃げながら、みちるが答える。 はるかは、ヴァレンタイン・デイにほたるが早く帰ってきた あの日を思い出しながら笑った。 (訳者注:原作者の別の短編に、この展開がある) またみちるをつかまえようとしたはるかだったが、パートナ ーは再び抱擁から逃げ出した。 その笑顔には、かすかにためらいが浮かんでいた。 「どうしたんだい?」 「なんでもないわ、はるか。ただ、こうしてずっとはるかを見 ていたいだけなの。だって、お楽しみの時間は後でもたっぷり あるでしょ」 はるかがにやっと笑った。 「期待してくれて、いいよ」 二人は抱きしめ合いながら、シャンパンを傾けつつ、いまま でのこと、そして二人の未来を語り合った。 夜のとばりが下りて、部屋がちょっと寒くなったので、はる かは暖炉に小さな火をくべた。みちるも一緒に、暖炉の前の床 に座った。 抱き合って、キスする二人。長い時間が過ぎて、ようやくみ ちるが離れて息を吸った。 「のどが渇いちゃった」 そう囁いて、みちるは分厚いカーペットの上に不安定に置い ておいたシャンパン・グラスに手を伸ばそうと這った。それを 飲んで、グラスを置き直したみちるは、いきなり取り乱した。 背中を触った手が、背筋からお尻までの曲線に沿って滑ってい ったからだ。 はるかはみちるの背中を撫で上げると、後ろからのしかかっ て自分の腰をみちるの柔らかなお尻に優しく押しつけた。 みちるの乳房が重たげに揺れるのを、恋人の温かな手が後ろ から包み込んだ。身体を起こそうとしながらも、みちるはこの ままの姿勢でどうやったら二人とも満たされるのかわからなく て、伴侶の抱きしめる中で始終身体を動かそうとした。 「だーめ、逃がさないよ」 「はるかぁ」 すねたようにみちるが呟く。 ピアニスト向きな細いはるかの指が、みちるの乳首を刺激し、 摘み、疼かせると、乳房に血流が巡ってきた。みちるは、身を よじって悶えた。 はるかは片腕を回してみちるの両方の乳房を包み、一方の乳 房の下の腕を前後に動かして刺激し、もう一方の乳房を指先で 強く引っ張った。そしてもう片方の手をみちるの開いた太股の 間に滑らせていき、湿ったあそこを弄んだ。 みちるは、夜露に濡れた白百合のように花開いていた。 「すごく濡れてるよ、みちる」 耳元ではるかのハスキーな声が囁く。 「ああん」 華麗な海の妖精は、もうそれだけしか口にできなくなってい た。 はるかはみちるの敏感なあそこを、羽毛のように軽やかに愛 撫した。セーラー・ネプチューンが、その快感にお尻をくねら せて、柔らかく快感に満ちた手の感触に悦んでいた。 さらにはるかは、自分の指で上下に軽く撫でてから、陰唇の 内側にも差し入れた。 みちるの口からはもう、絶え間ない喘ぎ声しか発せられなく なった。みちるの世界は、はるかの巧みな両手が自分の股間に もたらしてくれる魔法の世界だけになってしまっていた。鼻に 嗅ぎとれるのは、自分とパートナーとの混じりあった愛液の麝 香のような匂いだけになり、それが自分の下腹部の奥をさらに 強烈に疼かせた。 はるかはみちるの全ての動きにあわせて、時折、はるかの汗 に濡れた前髪がみちるの背中を払った。はるかの二本の指が、 みちるの胎内の奥底に差し込まれ、みちるの腰の動きに合わせ て出し入れされた。セーラー・ウラヌスの柔らかな秘肉がぐっ しょりと濡れて、高く突き上げられたみちるのお尻に当たって 跳ねる。 みちるは、肉体の昂揚に狂ったように燃え上がっていた。あ まりに刺激的なはるかの手と、首筋をしゃぶるはるかの唇から、 みちるは逃れようとした。 あまりにも気持ちよすぎて、あまりにも激しすぎて。 もう、…私、逃げな…きゃ、ああ、もう…ダメぇ! 恋人の抱擁から、みちるは這い出そうとしたが、そうはいか ずに、胸から床に倒れ伏してしまった。 はるかの手は愛撫をやめようとはしなかった。 みちるのしこった乳首がふかふかのカーペットに押しつけら れて、その表面にすりつけられるたびに、まるでザラザラの舌 で舐められるような感触が伝わった。 「ああああん!」 みちるは絶叫し、両脚が硬直してその間に割り込んできたは るかの身体を締めつけた。みちるははるかの身体の下で跳ねま わり、エクスタシーに全身がひきつった。 はるかは手が痛くなるまで指を動かしたが、やめようとも思 わなかった。 みちるの蜜が滴る秘部が、まだはるかの指を捻るように締め つけ、セーラー・ネプチューンのクリトリスもまだ濡れた陰唇 から顔を出していた。 はるかの手は小さな蕾を刺激し続け、伴侶の濡れそぼった陰 部に指を深く入れ続けていた。 はるかの身体の下で、みちるは大きく身をのけぞらせ、たっ ぷり30秒はそのまま固まったまま、オルガスムの大波を乗り 切ろうとしていた。 はるかも自分自身の身体が痙攣する感覚を楽しみながら、恋 人の身体を抱きしめ続けていた。絶頂というほど強烈ではなか ったけれど、おかげで全身の緊張が解けていった。 はるかが上に乗ったまま、みちるは崩れ落ちた。力尽きた身 体に、慣れ親しんだ恋人の重みが心地よかった。回復したはる かは身体を転がして上から降りたが、身を震わせたままの恋人 から手を放すことはなかった。 みちるは、すすり泣いていた。 「みちる、だいじょうぶ?」 みちるはしばらくしゃくり上げるだけだった。 その時、暖炉の灯りを浴びた美しい恋人の姿を、はるかはじ っと見つめていた。 みちるの全身全てが、愛し合ったばかりの少女そのものだっ た。 固くしこった乳首、暖炉の灯りにきらめく秘所、そして絶頂 の余韻に浸ってまだバラ色に染まったままの肌。 その姿にはるかは覆い被さって、優しく口づけをした。 みちるが恋人のショートヘアに手を滑らせると、結婚指輪の 宝石が炎の光を映し出してきらめいた。 「ああ、最高にすてき…。でも私、もうくたくた…」 みちるがはるかの肩に顔をすり寄せると、美しい恋人はさら に強く抱きしめた。 みちるは青い瞳をパチパチさせて睡魔と戦っていた。 「眠っていいよ、みちる」 はるかが優しく伴侶に囁く。二人の心臓の鼓動がだんだん落 ちついてくると、はるかの目もうとうとと閉じかかった。 「はるか」 「なんだい?」 金髪の少女が眠たげに呟いた。 「私、あなたの手が好きよ。これからもずっと…」 完
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