二人の事情:阿重霞と魎呼



作者注:このお話はOVAシリーズの続きとして書かれていま
    す。
    樹雷時間および銀河標準時の1年は、地球時間の2・
    5年です。


〈…響きわたる大音響…〉

 柾木家は、いまや廃墟と化していた。とはいっても、こんな
ことは決して珍しい状況ではなかった。もしこの家の住人に、
大宇宙が生んだ空前絶後の偉大な天才がいるという事実がなか
ったならば、柾木家は地元の家具屋への負債に永久に苦しむこ
とになったことだろう。

 おまけに、これは今週になって4回目の、阿重霞と魎呼の大
ゲンカの結果だった。今日はまだ火曜日だというのに。

「まだ火曜日なんだよ!!」
 天地は、苦悩の色を見せていた。

「火曜日だ!まだ週が始まったばかりだっていうのに、鷲羽さ
んに家具を新調してもらったのは、もう4回目だよ!」
 天地の苦悩の色が、深まった。

「二人には、もうこの家からしばらく出てってもらいます。二
人は、仲違いを解決すること。でないと、今度またケンカした
ら、もう最後だからね!」

 阿重霞は目を丸くした。
「出ていってもらいますって、どういうことですの?どこに行
けばいいと?魎呼さんは船があるけど、私はどうすれば?」

 魎呼がニヤニヤと笑う。
「アタシを見るなよ、皇女さま」

「二人とも、魎皇鬼に乗ればいいだろ。そこでちゃんと二人の
間の問題を解消すること!」

「でも、天地ぃ!」
 魎呼が、口答えする。

「でも、じゃなあああい!!!」
 大荒れの天地。

 天地の変貌ぶりをずっと見ていた砂沙美は、不安を顔に浮か
べた。
「お姉ちゃんたち、天地兄ちゃんの言うとおりにしたほうがい
いよ。こんなに怒り狂った天地兄ちゃん、見たことないもの」

「わかったよ」
 魎呼は、ちょっとうなだれた。

「ミャオ」
 魎皇鬼もそれに応じる。

「お姉ちゃんたち、二日か三日、りょうちゃんに乗ってて。そ
の間にあたしが天地兄ちゃんをなだめてみるから」

 砂沙美の頭の上から魎皇鬼が飛び降りて、跳ねるように外に
出ていった。
 魎呼がその後に続き、阿重霞ものろのろとついていった。

***

 数分後、二人は魎皇鬼の内部に座って、お茶を口にしながら
互いに睨み合っていた。

 阿重霞が溜息をついた。
「いいですわ、もし妥協点を見つけられなかったらって考えた
ら、私、あなたなんかよりずっと、あの家を追い出されたくあ
りませんからね」

 魎呼は床に寝っ転がって、ぐっと伸びをした。
「そんなこと、できるもんか。こんな頑固者なんかと」

 阿重霞は、自分の身につけた教育を考えた。未来の女皇とし
て、または未来の樹雷皇の花嫁として、阿重霞は「外交術」を
学んでいた。
『さて、どうしましょう?』
 阿重霞は慎重に考えた。
『とりあえず、過去のいがみ合いは水に流したほうがいいでし
ょうね』

「けっこうですわ、魎呼さん。話し合いといたしましょう。あ
なたから先にします?」

 肩をすくめて、魎呼は阿重霞に、そっちからどうぞ、と身振
りで示した。

「わかりました。
 700年前、私はあなたの名前すら知りませんでした。でも
あなたは、わが故郷に侵入し、侵略し、何万年も皇家が住んで
きた皇宮を破壊しました。でも、何よりも許せないのは、私の
婚約者を奪ったことですわ!!」

 阿重霞の怒りの激しさに、魎呼はたじろいだ。
「でもそれって、全部アタシのせいになるのかよ?アタシは神
我人に操られていたんだ。何の疑問も持てずに命令に従うしか
なかったんだ」

「ずいぶんと便利な言い訳ですこと。あなたは命令以上のこと
をしていたじゃない。あなたは破壊を楽しんでいたのよ!!」

 魎呼は、ニヤッと笑った。
「ええと、その、まあ、ちょっとは、な」

 憤然とする阿重霞。

「でも、アタシはそのせいで700年もあの岩屋に閉じこめら
れたんだ。自分の罪はもう償ったはずだぜ」
 魎呼は外部スクリーンに映る星々を眺めた。魎皇鬼は、もう
地球の遙か上空に浮かんでいた。

 目をむいて魎呼は阿重霞に顔を向けた。
「だいたい、お前なんか天地のことを本当は好きでも何でもな
いくせに!ただアタシを困らせたいためだけに天地を追いかけ
てるんだろうが!」

 阿重霞の顔色が変わった。
「そんなことありません!私は天地さまを愛しています!!」

「おあいにくさま、アタシもだよ!!」

 数十本の小型木製ガーディアンが空中に出現した。
 魎呼の周りを電磁フィールドが取り囲んで、火花をたてる。
 戦いは、爆発寸前だった。

 はあっ、とため息をついて、阿重霞は力場を解除した。それ
を見て、魎呼もパワーを落とす。

「どうやら、アタシたちの最後の頼みの綱は、こいつみたいだ
な」
 見た目では何もない空間の中から、魎呼は日本酒の瓶を取り
出した。
「お前も飲むか?」

 阿重霞もまた腰を下ろした。
「いただくわ」

「でさ、アタシへの当てつけに天地を追っかけてるんじゃない
ってんなら、何故だっていうんだよ?」

「皇女である、ということがどういうことかおわかり?はっき
り言って、商品よ。物々交換ですわ。皇女なんて、戦争を防い
だり、同盟関係を強化したりするだけのために結婚させられて
しまう。皇女の価値なんて、取引の材料でしかないの。
 今まで何人もの王子さまだの貴族の子弟だのとお見合いした
わ。みんな私にはよくしてくれた。でも、私だってバカじゃな
いもの。みんなが何を求めているかなんてお見通し。すっかり
うんざりした私は、もう結婚相手なんて誰でもいいから、適当
にまとめてちょうだいって、お母さまにお願いしたの。わたし
もうお終いにしたかったんです。

 幸い、私は遥照さまと婚約しました。私は遥照さまを愛しま
した。そして、遥照さまを私から奪ったあなたを憎みました。
樹雷で2年待ったけれど、とうとう私は遥照さまを探しに旅立
ちました。道を阻むものなど一つもなく、280年も探し続け
ました。遥照さまがこんな短い間にあんなにお年をとられてい
たなんて、思いもせずに。お母さまの船穂さまを、ご覧になっ
たでしょう。樹雷には、あの方の寿命を20倍以上も保つこと
ができる力があります。でも、遥照さまはもう、私と結婚する
にはお年をとりすぎてしまいました」

「なんでだよ?」

「何がですの?」

「年をとったからダメなのか?それって、外見だけが問題って
ことだろ?」

「そうじゃありませんわ!第一、樹雷の法にも反してしまいま
すもの。自分の寿命に見合った方と結婚しなくちゃならないで
しょ。私の人生はまだ始まったばかり、でも遥照さまはもう…。
わたしに、他にどうしろと?」

「おい、話が脱線する前に、天地を愛してるっていう理由を説
明しろよ」

「ああ、そうでしたわ。とにかく、私が遥照さまを追ってこの
星に来て、目覚めてみると、あなたは自由の身になっていまし
た。死刑になるべき告訴をただの一度も受けないままに。
 私は、動転しました…いいえ、言い直しますわ、私は、逆上
しました!そこで私は、ひたすらあなたを追いかけ、この星の
上で発砲し、捕虜までとってしまいました。いくら高貴の身で
あっても、そんなことは厳しく非難されるべきでしたわ。
 でも、それで私はあの方に出会いました。なにより魅力的で、
その上、勇敢で、私があの方をガーディアンに追いかけさせ、
捕まえてしまった時も、あの方は怖れの色すら見せませんでし
た。それどころか、私がしでかしてしまったことにもかかわら
ず、あの方は私を家に迎え入れてくださり、優しさと敬意をも
って私に接してくださいました。何の見返りも求めることなく。

 それが、私が天地さまを愛している理由ですわ。私は天地さ
まの魂を、強さを、そして高貴さを愛しているんです」

 阿重霞は、まだ手つかずだった酒のグラスに目を落とした。
それを一気に飲み干すと、阿重霞はお代わりを求めてぐっと杯
を持った手をつきだした。

 魎呼が、酒をついだ。
「アタシの番だな?」

 うなずく阿重霞。

「5000年もの間、アタシは神我人のために働かされた。ア
タシが誕生してすぐに、ヤツは最初の命令を下してきた。アタ
シがじかに触れることができた人間は、ヤツだけだった。遥照
に封じられるまで、アタシの全てはヤツのためのものでしかな
かった。

 そして、アタシはあの岩屋に封印されてしまった。しばらく
して、アタシは自分のアストラル体を分離して神社の領域内を
移動するやり方を見つけだした。遠くには行けなかったけど、
まるで動けないよりはずっとましだった。
 外に出られるようになった頃、阿知花はまだ十代だったよ。
阿知花とじいさんからは樹雷の力が感じられたから、アタシは
二人が遥照の子孫なんだなって思ってた。二人はアタシには気
づかなかったけどね。でも、天地だけがアタシに…。
 阿知花のお腹が大きくなっていった理由がわからなくって、
アタシ、食べ過ぎなのかと思ったっけ。ある日、神社の社務所
の前で、阿知花の陣痛が始まった。医者が着く前に、天地が産
まれていたんだ」

 魎呼は微笑みながら目を閉じた。
「お前にも見せたかったなあ。アタシ、あんなに素晴らしいも
のを見たことなかったよ。アタシ、子供が産まれるってこと、
知らなかったからな。でも、アタシは天地が大きくなっていく
のを見て、初めて立って歩くのも初めて転ぶのも見て、そして、
阿知花が死んだ時には一緒に泣いて…、アタシ、天地とずっと
一緒にいたいと思ったんだ。

 そのころアタシは、新たな宝玉を創り出そうと少しずつエネ
ルギーを蓄えていった。おかげでアタシの肉体はほとんど朽ち
果てていた。天地があの岩屋に初めて入ってきて、天地の姿を
見た時、アタシは友達になりたくて、抱きしめたくて、手を伸
ばした。でも天地の瞳に恐怖の色が浮かんでるのを見て、アタ
シ、悔しかったんだ。
 自分の肉体を修復して、貯めこんだエネルギーから新たな宝
玉を創り出すと、アタシは天地の後を追った。アタシは、ただ
遊びたかったのさ。学校をぶっ壊しちゃったのはやりすぎたと
は思うけどな。でもさ、アタシ感動しちゃったんだ、天地の強
さと、技と、勇気にさ。アタシ、それまでよりもずっと天地が
好きになったんだ。アタシ、天地の家に戻ってベッドに潜り込
んだ。

 その後のことは、お前も知ってのとおりさ。
 アタシは天地を愛してるだけじゃない。アタシには、天地こ
そが愛そのものなのさ」

 阿重霞が酒を飲み干した。
「なるほど、天地さまへの気持ちはわかりましたわ。でも、私
のことは?」

 魎呼はクスクス笑った。
「お前がアタシに復讐しようなんて思ってるようには見えない
な。アタシだって本当は阿重霞が嫌いなわけじゃないし、今ま
でだってそうなんだぜ。アタシが心配なのは、天地がだんだん
とアタシを捨ててお前だけを選ぶようになっちゃうかもしれな
いってことさ。なんてったって、阿重霞には天地に言うことを
きかせるだけの権力があるからな。アタシには、なんにもない。
せめて二人でなんとか天地を『共有』できれば、アタシは御の
字だって思ってるのさ。だから、天地との初夜は、阿重霞に譲
ってやってもいいんだぜ。天地がアタシのものでもあるってい
うんなら、あんまり気にしないからさ」

「そんなこと、できるとは思えませんわ。私は皇女、あなたは
宇宙海賊。あなたが樹雷に受け入れられるはずがないですもの」

 魎呼は酒の杯を飲み干して、また注いだ。
「やれやれ、この母にしてこの娘あり、って言うだろ」

「それってどういう意味ですの!!!」

「おい、落ちつけよ。お前の母親の美砂樹と、船穂のことを考
えてみろって。たしか樹雷皇が、それまでずっと貴族の中だけ
から婚約者を選んでいたのを止めて、僻地の未開の惑星から連
れてきた女性を皇妃にすえるようにしたんだろ。それと比べた
ら、アタシたちに何の問題があるって言うんだ?それに、聞い
た話じゃ、二人とも何度も仲違いをしかけたそうじゃないか」

 阿重霞は杯を床に置く。
「そりゃあ、最初はそうだったかもしれませんわ。でも、お母
さまと船穂さまは、今では愛しあっていらっしゃいます。実際
に何度も、お父さまがご不在のおりに、お二人が一緒にベッド
の中にいらっしゃるのを、私、見ましたもの」

〈…液体を吹き出す大音…〉

「魎呼さん?大丈夫?」

「あ、ああ、ゴホッ、アタシ、鼻から酒を飲む趣味が、ゴホッ、
あるんだ」
 魎呼はタオルで顔を拭った。
「すまないけど、今のこと、説明してくれるか?」

「どうしてあなたに、そんなことを微に入り細に入り説明しな
くちゃならないんですの?」

「アタシ、樹雷の連中の感覚がわかんねえよ」

「妻たちのあいだでは、よくあることなの」

 魎呼はニヤッと笑って、ねずみを狙う猫のように阿重霞を見
つめた。
「それならきっと、アタシたちもうまくやっていけるな…」

 阿重霞は思わず魎呼から後ずさったが、とうとう壁際まで追
いつめられた。
 四つん這いのまま、魎呼が阿重霞に近づいていく。

「な、…なにをするつもりなの!?」

 魎呼は笑った。
「ご想像のとおりさ!」

 魎呼が密着してきて、阿重霞の上にのしかかった。そして阿
重霞の顔に自分の顔を寄せていく。

 押しのけて逃れようとする阿重霞だったが、魎呼の身体の下
にがっしりと押さえ込まれてしまった。

「完璧だ、そのままでいろよ、皇女さま」

 魎呼は阿重霞に声が詰まるほどのキスをした。二人が横たわ
っていた魎皇鬼の室内の場所が柔らかくなって、ふかふかのベ
ッドのような肌触りになった。そして室内の照明が薄暗くなり、
星明かりがくっきりと二人を包んでいった。

 魎呼は阿重霞の上着を一枚一枚脱がせていき、とうとう一番
下の下着を残すだけになった。

 ニッコリ笑った魎呼の白い歯が、薄明かりの中でキラッと光
った。魎呼が阿重霞の最後の一枚に手をかける。阿重霞の肩に
キスをして、そのキスをだんだん下の方に移動させながら、魎
呼は下着を果実の皮をむくように剥いでいった。

 阿重霞の乳房があらわになった。魎呼の胸よりは小振りでは
あったが、整った形のふくらみの上には、桜色の乳首が固くし
こっていた。

 魎呼は阿重霞の乳首を口に含むと、やさしくしゃぶり、そっ
と歯を立てた。

 阿重霞は微かに喘ぎながら、目を閉じて横たわり、魎呼の愛
撫のなすがままになっていた。ゾクゾクする快感が背筋を駆け
抜けていった。

 いったん手を休めた魎呼は、脱皮するように自分の服を全て
脱ぎ捨てると、再び阿重霞と身体を重ねた。

 魎呼の手が阿重霞の両脚の間に滑り込んでいく。阿重霞はも
うすっかり濡れそぼっていて、魎呼の指はたやすく中に差し込
まれていったが、すぐに無傷のままの処女膜に突きあたった。

『これは、天地のために残しといてやるか』

 魎呼は阿重霞の股間に身体を移動させた。そして阿重霞の秘
部の陰唇を舐めあげ、蜜の味を味わった。さらに舌の先で阿重
霞のクリトリスを刺激していく。

 阿重霞は腰をくねらせて、両脚で魎呼の頭を締めつけながら、
最初のオルガスムを迎えた。

 起きなおった魎呼は自分の体を上手く動かして、自分と阿重
霞の秘所を触れあわせた。二人の少女は互いの脚を絡めあわせ
て、お互いにクリトリスをこすりあわせ、ぶつけあった。

 阿重霞が魎呼の肩をつかんで引き寄せると、固く抱きしめた。
二人は熱くキスを交わし、舌を絡ませた。

 そうして、二人は小一時間も愛し合い続けた。そして、力つ
きた二人は、心地よい眠りの中に落ちていった。


完(とりあえず)
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