ああっ津名魅さまっ



 魎呼は、ふと目が覚めた。誰かが首筋に沿ってキスしている
感触。気持ちよくって、魎呼はほっと息を吐いた。その人の頭
に、魎呼は手を置いた。目をやると、指先に絡むライトブルー
の髪。魎呼はハッとして目をパチクリさせた。
 あの淡青の着物をきちんと着込んだ津名魅が、魎呼の上から
のしかかり、首筋や肩にそっとキスを加えていたのだ。
 ちらりと視線を投げかけながらも、今はこの気持ちよさばか
りが魎呼を包んでいた。魎呼は、また息を漏らした。

 どう考えてもおかしい夢だけど、こんなに気持ちいいんだも
の…。いつも顔をつきあわせてる、あのお上品ぶった皇女さま
なんかとちがって、女の子とエッチなことしてても全然嫌悪感
を感じないや。もしかしたら、天地とするよりも気持ちいいか
も…。目なんか覚まさなくていい、このままこの夢を楽しんで
いた方がいい…。

 津名魅の手が頬を撫でてくる。そしてその指が魎呼の髪を滑
るように通っていく。津名魅の舌が耳たぶをねぶってくるのを
感じて、魎呼はかすかに喘いだ。魎呼は微笑みながら津名魅の
頭を引き寄せた。そして、ため息をついた。

「魎呼さん、もっと気持ちよくなる方法をご存じ?」
 耳元で津名魅がささやく。

 魎呼は目を閉じた。
「…いいや」
 ぽつりと呟いた魎呼は、本当に眠りの中に落ちていきそうに
なっていた。
「それって、どんなの?」

 津名魅が魎呼の耳たぶに歯を立てた。
「本当はね、これは夢じゃないのよ」

「え、ええっ?」
 魎呼は目をパチパチさせて、よく見なおした。夢は消え去っ
て、部屋の壁がはっきり見えるようになった。津名魅が起き直
って、魎呼にまたがり、穏やかな微笑みで見下ろしていた。

「津名魅!いったい何を!」
 「始まりの船」である女神を、魎呼は押しのけようとした。
だが、両手がベッドの柱に繋がれていることに、魎呼はようや
く気がついた。ショックを受けて、魎呼は目をパチクリさせる
だけだった。

 津名魅がのしかかってきて、そっと口づけし、魎呼の下唇を
ちょっとしゃぶる。
「うふふ、魎呼さん、落ちついてくださいな。私、ひとりぼっ
ちで船にいるのがさみしくって…」

「じゃあ、男どものところに行けばいいだろ!」

 まばたきする津名魅。
「そんなこと、できませんわ」

「なんでだよ!?」

 津名魅が頬を赤らめた。
「だって…男の方なんて、そんな…」

 魎呼は困惑した顔をした。
 そんな魎呼の首筋に津名魅は鼻先をすりつけた。
「でも、魎呼さん…、魎呼さんは女の子ですもの。女の子の気
持ちはおわかりでしょう。これから私たち、どうしたらいいの
か…」

「はなせえっ!」

 津名魅が目を丸くする。
「どうして?」

「アタシは、こんなこと、したかないんだ!」

「でも、ついさっきまで、したがってたくせに」
 津名魅が痛いところをつく。
 そして魎呼の首筋に顔を移していった。その時になってやっ
と、魎呼は自分が全裸にされていることに気がついた。

「いいさ!これでもうおしまい!」
 そう言い捨てて魎呼は、自分の身体を非物質化させようと集
中した、が、何も起こらない。

 津名魅はクスクス笑った。舌を突きだして、魎呼の乳首を愛
撫する。

「魎呼さん、私は、頂神なのですよ。当然、好きなようにあな
たの力を封じることができるのです」

「はなせったら!」
 魎呼が叫ぶ。

 津名魅は再び身体を起こして、魎呼に馬乗りになった。
「いやです」

「言ってるだろ、津名魅!アタシをはなせっ!」

 津名魅がウィンクした。
「い・や」

 ちくしょう、まるでレンガ塀と話してるみたいだ!
「津名魅、今すぐアタシをはなせ!でないと、お前のしでかし
たことを天地に言いつけるからな!」

 津名魅はじっと魎呼を見下ろした。
「そうしたら、天地さんも仲間に入りたいと思うでしょうね」
 津名魅は急に赤面した。

 魎呼はパニックに陥った。津名魅が自分を屈服させて、天地
を追いかけることになったら、いったい天地に何をするか…。

「天地には、手を出すな!」

「それでは、魎呼さんは私を受け入れてくださいますのね?
ね?」
 津名魅はまた魎呼に口づけした。

「…ああ、わかったよ、アタシは…」

 その時、いきなりドアが開いた。

「魎呼さん!もう、何をしてるの?静かにして…」

 中で何が起こっていたのかを目の当たりにして、阿重霞の目
は点になった。

 津名魅が目をパチクリさせて阿重霞に目を向けた。

「阿重霞、助けてくれ!」

 阿重霞は津名魅と魎呼を交互に見つめた。
 
 津名魅が見つめ返した。

 阿重霞は後ずさりした。
「お、お邪魔して、ごめんなさいね」

 バタンとドアを閉めた阿重霞。そして、逃げるように去って
いく足音。

 津名魅は魎呼の額にキスすると、ベッドから飛び降りた。
「お戻りなさい!」

 そう言って、津名魅はドアを抜けて駆け出し、阿重霞を追い
かけていった。

***

 天地は階段を下りて、水を飲もうとキッチンに向かった。そ
のテーブルに砂沙美が座っていたので、天地はハッとした。

「砂沙美ちゃん、何してるんだい?」

 砂沙美は天地を見て、あくびした。
「眠れないの、天地兄ちゃん」

「怖い夢でも見たのかい?」

「ううん」
 砂沙美は首を振った。
「ただ、眠れないだけなの。なぜなのかなあ」

 天地が微笑む。
「じゃあ、ぼくが一緒にいてあげようか?」

 砂沙美の顔がぱっと明るくなった。

「よおし、何かゲームでもしようか?」

「いいよ、あたしがお茶を淹れるから、その間に天地兄ちゃん
はゲームを持ってきて!」

 うなずく天地。
「わかった」

***

「助けに来てくれて、あんがとさん、阿重霞」
 皮肉たっぷりに魎呼は、隣りに全裸で縛りつけられた皇女に
向かって毒づいた。

 魎呼と同じようにベッドに縛られた阿重霞は、それでも魎呼
を睨みつけた。
「ふん、あなたが津名魅のお相手だなんて、想像もしなかった
わ!」

「アタシは津名魅のお相手なんかじゃなあいっ!!」

 津名魅が膝をついて、阿重霞にキスしてきた。
「お二人とも、私のお相手よ」
 そう言って津名魅はニッコリ笑った。

 阿重霞がじたばたもがいた。
「命令です!私をはなしなさい!」
 阿重霞が命じる。

「アタシたち、だろ!」
 魎呼が訂正をいれる。

「も、…もちろん、そうですわ!」
 阿重霞も言う。

 津名魅は皇女の首に鼻をすり寄せた。
「でも、どうして?こういうの、嫌いですか?」

「あったりまえだろ!アタシは、こんなの、金輪際イヤだ!」

「魎呼さんはお好きでしょ」
 と、阿重霞の横やり。

「おいっ!」
 魎呼が抗議した。

 阿重霞が目を回して言い返す。
「魎呼さんなら、驚きませんわ。でも、わ・た・く・し・は、
高貴で、倫理的な性格ですのよ!そんなこと、できるもんです
か!さあ、私をおはなしなさい!」

 津名魅は阿重霞に微笑みかけると、口唇愛撫を阿重霞のお腹
に、そしてさらに下にと移動させていった。

「何をするつもりなの!?やめて!」

 津名魅は、やめなかった。さらに下にと…。

「そんなことしないで!」
 津名魅の舌がゴールにたどり着いた瞬間、阿重霞はいきなり
喘いだ。そして、ハッと目を見開く。

「力を抜いて」
 津名魅の優しい声が囁く。

「そ、…そんなこと、できるわけが…!」
 息を詰まらせる阿重霞。目をギュッと閉じる。そして、かす
かに身を震わせる。

 目の前に出来事に、魎呼は目を白黒させていた。
「あの…その…、阿重霞がいるんだから、アタシはもういいだ
ろ!ほどいてくれたら、アタシ、行くからさ!」

 ぴょんと起き上がって、津名魅は魎呼にいきなり強烈なキス
をした。
 魎呼が目を剥いた。

「そんなに、あわてないで」
 キスを終えてから、津名魅が囁いた。
「魎呼さんは次。ちょっと我慢してね。すぐに戻るから」

「ごゆっくり」
 魎呼はぼそっと呟いた。

「もっと、ゆっくりぃ…」
 そう呟いた阿重霞は、自分で口走ってしまった言葉に気づい
て目を丸くした。
 魎呼もびっくりして阿重霞を見つめる。

 津名魅は阿重霞にニッコリ微笑んだ。
「ご心配なく。急いだりしませんよ」
 再び阿重霞にキスしてから、津名魅は自分の着物の帯を解い
て脱ぎ捨てると、阿重霞の両脚の間に身体を戻していった。

***

 天地は、阿重霞の叫び声を耳にして、天井を見上げた。
 続いて、魎呼の声。

「おおい!いい加減にしろよ!」
 天地は首を振ってサイコロを振った。
「あの二人ったら、いつもケンカなんだからなあ!」
 天地はモノポリーのボードの上の自分のコマを六つ進めた。
「誓ってもいいな。あいつら、ずっとああなんだろうな」

「やった!」
 勝ち誇ったように砂沙美が叫んだ。
「駐車場だよ!天地兄ちゃん、26万5千円の借金ね!」

「ええっ、それじゃあこっちは一文無しだ!」
 愚痴る天地。

「抵当権か何かは?」

「なんにもなし!」

「じゃあ、あたしの勝ちね!」

 天地はため息をついた。また聞こえた魎呼の叫び声に、二人
は上を見上げた。

「やれやれ、二人とも、ケンカは朝まで待てばいいだろうに。
ここに寝られないって言ってる小さい子供がいるのになあ…」

***

 津名魅がまた魎呼にキスする。魎呼は息も継げずに喘いだ。

「これって、気持ちいいでしょう、魎呼さん?」
 津名魅が訊く。
「私、魎呼さんに楽しんでもらいたいのよ。別のことをしてほ
しかったら、言って下さいね」

 津名魅は魎呼の左の乳房を揉みしだき、身を屈めて優しく歯
を立てた。喘いだ魎呼の唇から、低い呻きが漏れた。

「天地さんは、魎呼さんにこんなことしてくれなかったの?」
 からかうように津名魅が訊いた。指を挙げて魎呼の口に差し
入れ、しゃぶらせる。

「天地さまがそんなこと、するはずがないでしょう!」
 阿重霞が口を出す。

 津名魅は阿重霞の方に身体を移し、口づけした。
「魎呼さんには夢を見ていてもらい…きゃっ!」

 起き上がって、自分の指を見つめる津名魅。魎呼が噛みつい
たのだった。
 津名魅は魎呼の髪をつかんで、顔を寄せた。

「そう…、魎呼さんは『乱暴』にされるのがいいのね」
 その声には、怒りなどかけらもなかった。自分のやり方が間
違っていたと、急に悟ったような物分かりの良ささえ感じられ
た。

「あ、あの…、だめ、ほんとに…、ああっ!」
 津名魅は魎呼の髪をグイッと引っ張り、膝をついて魎呼の首
筋にまたキスをし始めたが、今度は少し歯を立てた。快感と苦
痛の入り混じった中で、魎呼は喘いだ。

「こっちを見ないで!」
 阿重霞が叫ぶ。
「私は、乱暴になんてイヤよ!」

 津名魅は動きを止めて、阿重霞を見つめる。
「ごめんなさいね、皇女さまをほったらかしにして」

「あ…、いえ、私は別になにも」

 津名魅は阿重霞にのしかかって、その髪を撫でた。
「あのね、私一人じゃなかったら、もっと気持ちよくなると思
うの」

「な、何をしようと…!?」

 身を屈めて、津名魅は阿重霞の耳をねぶる。
「提案ですわ」
 津名魅が囁いた。
「私があなたにしてあげるように、あなたも私に」

「どうして私がそんなこと…うむうう!」
 声がくぐもったのは、津名魅が阿重霞の顔を自分の乳房に押
しつけたからだった。

「そうよ」
 津名魅が喘いだ。
「とっても上手」
 目を閉じてのけぞる津名魅。

「阿重霞、お前がそんなことまで…!」
 魎呼が叫ぶ。

 津名魅が睨みつけた。
「お静かに!これはあなたへのお仕置きなのです!おとなしく
していなさい!」

 魎呼の血が凍った。ほんのちょっと逆らっただけでも、きっ
ちり仕返しが返ってくるらしい。

***

「美星!だから言ってるでしょ、気のせいだって!」
 廊下を行きながら、清音はパートナーに呼びかけた。

「でも、清音!」
 美星が口答えした。
「あたし聞いたの!誰かが助けを求める声を」

「私は何も聞こえなかったわ、美星」
 清音は真面目に言った。
「ただの夢だったら」

「夢じゃないもの!聞いて!」

 清音は目を閉じてもう一度耳を澄ませた。廊下の奥から、確
かに声は聞こえはした。

「ああ、お願い、お願いだったら!」
 魎呼の声らしい。

「魎呼さんに、何かあったのよ!行きましょ!」
 美星が言う。

「きっと阿重霞さんとケンカしてるか、天地さんに迫ってるだ
けよ。ほっときましょ!」

「でも、清音ええええええっ!」

 うんざりする清音。
「はいはい、…じゃ、確認はしましょ」

 二人は魎呼の部屋に近寄って、ノックした。
 ドアの向こう側の声が止まった。

「あ…、はい?」
 部屋の中から魎呼が返事した。

「魎呼さん?」
 美星が呼びかける。
「大丈夫ですかぁ?」

「あ…、ええと…、う、うん」

 清音がドアを指さした。
「ほらね?大丈夫でしょ」

「なんだか、変よ」
 美星が囁く。
「魎呼さあん、はいりますよぉ!」

「え…、そんなこと、ダメ!」

「行きますよ!」

「頼むから、やめろっ!」

「入りまあすっ!」
 とうとうそう言って、美星がドアを開けて中に飛び込んだ。
その後ろから清音も、パートナーを助けるというより引き留め
ようとして入ってきた。
 だが、中で起きていたことを目にして、二人は立ちすくんで
目を疑った。

 魎呼と阿重霞が、二人ともベッドに全裸で縛りつけられてい
た。
 魎呼は、なぜか革ひものついた首輪まではめられている。
 阿重霞は恥ずかしさに顔を真っ赤に染めていた。

「あ、後でまた、来ますね…」
 清音が口ごもる。
 美星も赤面して、明らかに見てはいけないところへ闖入した
ことに戸惑っていた。二人は、まわれ右した…。

 そこに立っていたのは、津名魅。ドアをばたんと閉めて、鍵
をかける。

「つ、津名魅さん?」
 目をパチクリさせて、美星が訊いた。

 津名魅は、二人にニッコリ笑いかけた。

***

「はい、キングをチェックだよ!」
 砂沙美が宣言した。

 天地は目を回して、砂沙美の方にチェッカー・ピースを渡し
た。
「砂沙美ちゃん、ゲームに強いなあ」
 首を振って天地が言う。

 クスクス笑う砂沙美。
「他のゲームもしようよ」

「うん」

 その時二階から響いてきたドンドンという音に、二人は天井
を見上げた。

「あ〜あ、二人とも、取っ組み合いのケンカまではしてほしく
なかったのに」

 天地がぼやいた。砂沙美も同じ気持ちでうなずいた。

***

「美星…」
 落ち着きをなんとか保とうとしながら、清音が言う。
「ここにこうして立っていながら、今さら言っても仕方ないけ
ど、私が言ったようにすんなり戻って寝ていたら、こんなこと
にはならなかったんだからね」
 清音は、全裸の自分を壁に縛りつけている鎖を引っ張って見
せた。

 離れた場所の壁に、やはり裸で縛りつけられた美星は、ぐす
ぐす泣いていた。
「ごめんなさい、清音…」

「謝ることなんかないんですよ、美星さん」
 ブロンドの美女にそっとキスしながら、津名魅が言った。
「きっと楽しくなれますから。みんなでゲームをしましょう」

「わ〜い、あたしゲーム大好き!」

 やれやれと、清音がため息をつく。
「おバカ…」

「じゃあ、何のゲームをするの…あうっ!」
 美星の声がとぎれた。津名魅が美星の乳首を口に含んだのだ
った。
「あ、…ああん…」

「ふう、とりあえずアタシたちのことは終わりみたいだな」
 魎呼が阿重霞に囁いた。

 津名魅が手を挙げた。その指先には魎呼の首に繋いだ革ひも
が握られていた。美星の乳房から目を離さず振り向きもせず、
津名魅はひもをきつく引っ張った。
 魎呼の首が絞まる。

「ほら、一言多いから…」
 阿重霞が魎呼をたしなめる。

「ほっといてくれないってんなら、うぐっ、ちゃんと言えって
んだよっ!」

 津名魅が二人に向かって振り向いた。
「私が美星さんと遊んでいる間、お二人で楽しんでらっしゃい
な、わかりましたね。お二人とも必要以上にものごとを混乱さ
せるのはお得意でしょ?」

「何だと!?アタシにそんなことできるわけないだろ!冗談じ
ゃない!」
 魎呼がわめく。

「私だって!」
 阿重霞も言う。

 津名魅がまたひもを引っ張った。
「魎呼さん…、阿重霞さんにキスしなさい」

「なに!?」

 津名魅がまたひもを引っ張ると、魎呼が息を詰まらせる。
「キスしなさいって言っているのです!私、お二人のケンカを
見るのはもううんざり!さあ。キスして仲直りなさい!」

「アタシはそんなこと…ゴホッ!」
 また津名魅にひもを引かれて、魎呼の言葉がとぎれた。

「言ったでしょ…キスして、仲直りなさい」
 津名魅の声には、有無を言わせぬ威嚇の響きがあった。

 魎呼はあきらめのため息をついて、阿重霞の方を向いた。
 阿重霞はびっくりして目を白黒させた。

「ちょ、ちょっと、やめて!」
 阿重霞が怯える。

「いいえ、やめませんよ」
 津名魅が否定した。
「それに、皇女さまも首輪をはめられたくなかったら、きっと
キスして仲直りしてくれるわ、そうよね」

 阿重霞が息を呑んだ。魎呼が阿重霞に身体を寄せる。そして
阿重霞の顔を持ち上げると、あの小憎らしい青い髪の女神の逆
鱗に触れないよう、とりあえず軽くキスをしようとした。

 二人の唇が、軽く触れあった。
 その瞬間、津名魅の手が魎呼の後頭部をぐいっと押しつけ、
魎呼を阿重霞から離れないようにした。

「舌も使ってほしいですわ!」
 津名魅が命令する。

「…こんなの、変よ」
 清音が独り言をもらした。

 津名魅が清音に振り向いた。ビクッとした清音は、津名魅が
自分に注意を向けたことに気づいた。

「まあ、かわいそう!ごめんなさい、ほったらかしにしてしま
ってましたね!」

 すばやく考える清音。
「いや、…そんなことないです!私、見てるだけで満足ですか
ら!」

 目をパチクリさせた津名魅は、すぐにニッコリと笑った。
「まあ、そうなの!じゃ、ごゆっくりお楽しみになってね!」

 そう言って、津名魅は魎呼と阿重霞に目を戻した。二人は、
まるで最初から自分の意志だったかのように、舌を絡めあわせ
てフレンチキスにのめり込んでいた。

 清音は、ホッと安堵した。

「でも、清音…」
 美星が口を開いた。

『ああ、神さまお願い!美星を黙らせて!』
 必死で祈る清音。

「たしか清音、前に…」

『お願い、黙って!お願い!』

「たしか前に、あたしとキスした時…」

「な、なに言い出すのよ、美星!!黙んなさいよ!」

「いいえ、美星さん」
 津名魅がそう言って清音を睨む。
「続けて」

「その…」

「ああ、もう、こんなことって…」
 打ちひしがれる清音。

「前にキスした時、舌の使い方が上手いわねって。すごくよか
ったって、言ってくれたの」

「美星ぃ…」
 腹立たしげに、清音は目を閉じた。
「もしこの後に助かったら、あんたを、いいや、あんただけじ
ゃないわ、あんたの家族も皆殺しにしてやるから。あんたみた
いなのが二度と産まれてこないようにね…」

 清音が目を開けると、津名魅のピンク色の瞳がまっすぐ見つ
め返していた。

「どうして言わなかったの、清音さん?」
 微笑みと共に、津名魅が訊く。そして、清音の足元に膝をつ
いた。

「ちょ、ちょっと、やめて!私は…」

 清音の声がとぎれ、喘ぎ声に変わった。津名魅の舌が自分の
一番敏感な場所をまさぐってきたのだ。
 ハッと目を見開く清音。

「美星の!」
 清音が叫んだ。
「美星の…美星の…」
 清音は目をギュッとつぶって、随喜の泣き声を唇から漏らし
た。

「大バカあっ!!」

 清音はまたすすり泣きながら、縛めをピンと張った。
 突然、絶叫して目を閉じた清音の全身が、激しいオルガスム
に硬直した。津名魅は立ち上がると、激しく激しくキスを加え
た。津名魅が清音の瞳を見つめながら、二人は身体を離した。

「気持ちよかった?」
 津名魅の問いかけ。

 清音はまだ激しく息を切らしていた。

「すごい、清音!」

 美星の声に、清音は細い目で睨みつけた。
「美星は、SもMもオッケーだから」
 清音は津名魅に言った。

 「ふえっ?」
 清音の言葉に、美星はとまどった。

 津名魅は微笑みながら、美星に顔を向けた。ちらりと阿重霞
と魎呼に目をやると、二人はベッドの上で激しく絡み合ってキ
スしていた。

「まあ、可愛らしい」

 清音が目をつり上げる。
「ほんと、ラブラブよね」
 嫌味っぽく清音は言った。

「あら、清音さん、うらやましいの?」
 津名魅がまた清音にキスする。
「わかりましたわ」
 瞳に意地悪な笑みを浮かべてそう言うと、津名魅は清音にの
しかかって耳元で何かを囁いた。清音の目が皿になる。

「だめ!そんなの!そんなことしないで!」

 津名魅はニヤリと笑って、手を振った。魎呼の手をベッドの
柱に縛りつけていた鎖がパラリと外れた。すぐに魎呼は両腕で
阿重霞を抱きしめた。だが津名魅が首輪のひもを引いたので、
魎呼と阿重霞は離ればなれになってしまった。魎呼が津名魅を
見上げる。

「こっちにいらっしゃい、魎呼さん」

 津名魅の命令に、魎呼はため息をついて津名魅に近寄った。

「私は美星さんの相手をしますから、あなたは清音さんを喜ば
せてあげてね」

 二人とも、思わず首を横に振った。津名魅は眉をひそめた。
「魎呼さん…清音さんを、悦ばせるのよ…さあ」
 津名魅は魎呼の頭に手を置いて、清音の股間にと導いた。
「私は、清音さんが快感に悦ぶ声を聞きたいの…、さもないと
どうなるか、おわかり!」

***

 砂沙美が手元のカードをオープンした。
「ストレート・フラッシュ!」

 がっくり呻きながら、天地は自分のカードをテーブルに放り
投げた。
「コンピュータが欲しくて貯めてたんだけどな」
 砂沙美が勝ち金を手元にかき寄せる様子を見ながら、天地は
ぼやいた。

「心配しないで、天地兄ちゃん。お金なんかいらないから。こ
れは、あくまでお遊びだよ」

 美星の叫び声に、二人は上を見上げた。
「美星さんと清音さん、ケンカの仲裁に入ったみたいだな」
 天地が言う。

「行ってみようか、天地兄ちゃん?」
 砂沙美が訊く。

 天地は首を振った。
「いいや。二人とも、魎呼と阿重霞さんがケンカしてるところ
に割り込んだら、どうなるかわかっただろうさ。はっきり言っ
て、自業自得だよ。他に手がある?」

***

「ああっ!もうダメぇっ!」
 清音が喘ぐ。背中をのけぞらせ、自分を壁に縛りつけている
鎖がピンと張った。目を閉じ、息を切らす。身をよじって逃れ
ようとしても、魎呼がウエストをしっかり抱きしめていた。

 一方、津名魅は、ぐるぐる巻きにした鞭を手にしていた。
「うふふ、これを使うのも、久しぶりです」

 津名魅は鞭を振り上げてビュッと鳴らし、使い勝手を思い出
しながら勝ち誇ったように笑った。そして、たった一人でベッ
ドに縛りつけられていた阿重霞に向き直った。

「美星さんを調教したら、すぐに戻ってきますから、ね」
 阿重霞の頬を鞭の柄で撫で、そして胸の谷間からさらにお腹
に、そして股間にまで撫でていった。
 津名魅が鞭の柄でクリトリスを刺激すると、阿重霞は思わず
身をよじった。

「待っててくださいね」
 そう約束して、津名魅はベッドで悶えている阿重霞から離れ
た。

「さあ、それじゃ、美星さん…」
 恐ろしさに震える美星。
「私たちは別のゲームをしましょう」

 津名魅が足を踏み出してさらに遊びをエスカレートさせよう
とした、

 その時、ドアが開いた。

 全員の目が、集まった。

 そこに立っていたのは、鷲羽だった。

 鷲羽は目をつり上げて、津名魅を睨みつけた。
「もう、お姉さま、またやってるの!?言ったでしょ、すぐに
アタシが行くからって!」

「でも、鷲羽!」
 ふくれる津名魅。
「とっても寂しかったんですもの。鷲羽は約束しても、すぐ破
っちゃうし!私、どうしたらいいの?」

「はいはい、でもアタシは、女の子を誘拐してエッチすればい
いなんて言った覚えはないわよ。天地殿だったら話はわからな
くもないけど」

 津名魅はため息をついてうなだれた。
「ごめんなさい、鷲羽」

 鷲羽は笑った。
「もういいわよ。さ、お姉さまは船に戻って。すぐにアタシが
行ってあげるから、ね?」

 津名魅の顔がパッと明るくなった。
「うん!」

 津名魅は、美星に近づいてキスした。
「ごめんなさいね、美星さん。調教はまた今度ね」

「え…、はい、けっこうですぅ!」
 美星が答えた。

 津名魅と鷲羽を茫然と見つめる清音と魎呼のもとに近づいた
津名魅は、二人にキスした。
「一緒に楽しめて、嬉しかったわ」

 ベッドに近寄って、阿重霞にもキスした。
「それに、阿重霞さんと魎呼さんがあんなに仲良くなれて、ほ
んとうによかった」
 そして、一瞬のうちに、津名魅は姿を消した。

「さ、アタシも行こうかしら」
 鷲羽が言った。
「アタシがまた遅れたら、津名魅がどんなことになるかわかっ
たでしょ、みんな!じゃね」
 そう言って、鷲羽はドアの向こうに去っていった。

 少女たちは全員、安堵の息をついた。

「さ、魎呼さん、私たちのを外してください」
 清音が命じた。

 魎呼は清音の鎖を外そうとしたが、ふと手を止めた。
「このこと、天地にどう説明しようか?」

 鼻息荒く清音が喚く。
「できるわけないわ。私に関する限り、何も起きなかったの!
さ、早く外して!」

 魎呼が清音と美星の鎖を外すと、二人は逃げるように部屋を
出ていった。いつあの気まぐれな女神が戻ってくるか、わかっ
たものではなかったから。

 阿重霞が魎呼にうなずいた。
「さあ、今度は私のも外してくださいな!」

 魎呼が笑った。
「どうしてそんなに急ぐんだい?」

「な、何が!?」
 阿重霞が鎖に縛られたままもがく。

 魎呼がベッドに乗って、阿重霞の頬を撫でた。
「ついさっきまで、あんなになってたのにさ」
 魎呼がつっこむ。

「あれは、違います!他に仕方がなかったんですもの!」

「まあまあ、皇女さま、けっこうよかったんだろ?」
 魎呼は身体を屈めて、阿重霞にキスし、さらに皇女の首筋か
ら乳房へとキスの列を連ねていった。

「いや、やめて!」
 阿重霞が叫ぶが、魎呼の動きは止まらない。魎呼のキスは、
阿重霞のお腹にまで続いていった。

「津名魅がこうした時には、蹴っ飛ばしそうだったけど」
 いたずらっぽくそう言いながら、魎呼は阿重霞の内股にキス
した。

「ああっ!ねえ、もう、すぐにやめて!」
 阿重霞の息づかいが早くなって、喘ぎに変わる。
「や…、やめて…」
 目を閉じた阿重霞の息づかいが悶え声に変わった。

 クスクス笑いながら、魎呼は舌先で阿重霞のクリトリスを嬲
り続けた。
 阿重霞は喘ぎながら、快感の波に全身を硬直させて低い呻き
声を唇から漏らした。
 魎呼は身体を上にずらして、阿重霞の乳首に歯を立て、気を
つけながら優しく気持ちのいい痛みを与えようとした。

 さらに身体をずらし、魎呼は皇女の耳元に囁きかけた。
「もし鎖を外しちゃったら、阿重霞は逃げ出しちゃうだろ?」
 阿重霞はハッとした。
「そうなったら、アタシ、阿重霞を追いかけるから」
 魎呼が話しかける。
「そして、また縛りあげちゃう」
 魎呼は阿重霞の耳たぶをねぶりながら、答えを待った。

「そ、そんなの…いやよ」
 魎呼は阿重霞の右の乳房を揉みしだきながら、反対側の耳元
に口を移し、繊細な皮膚に舌を突っ込んで愛撫する。

「いやだって?」
 魎呼の囁き。
「本当に?」

 阿重霞が身を震わせた。
「わ、わかりました…」

「よかった」
 魎呼が微笑みをうかべた。
「いい?もし逃げ出したら、追っかけてくからな」
 阿重霞にキスして、下唇をしゃぶる。
「わかった?」

「は…、はい」
 阿重霞が呟いた。

 魎呼はまたキスしながら、手を伸ばして阿重霞の右手首のい
ましめを解いた。阿重霞はすぐに自由になった手を伸ばし、魎
呼のシアン色の髪に指を絡めた。二人はそのままずっとキスし
続けた。

 阿重霞は魎呼がもう片方のいましめも外してくれるのを待っ
ていたが、魎呼は外そうとしてくれなかった。魎呼は阿重霞の
とまどいを見透かして、微笑みかけた。

「だって阿重霞、逃げちゃうもん」

「逃げたりなんかしませんわ」
 阿重霞が訴える。
「お願い、外して」

「だめ」
 魎呼が答える。
「外してほしけりゃ、自分でなんとかしなよ」
 魎呼は阿重霞の自由な手をとって、自分の股間にと導いてい
った。阿重霞が目を丸くする。

「さあ、して」
 魎呼はせがみながら、阿重霞の首筋にキスする。
「ほら」

 阿重霞の指がクリトリスをこねくる感覚に、悦楽の笑みを浮
かべる魎呼。
「はああんっ、いいよ、阿重霞ぁ。もっと、してぇ」
 魎呼は目を閉じ、息づかいを荒くし、さらに激しく悶えた。
「やめないで、もっと!」
 何度も何度も、繰り返す魎呼。身体を密着させ、また阿重霞
に激しく口づけする。二人の唇がギュッと重なり合い、魎呼の
喘ぎ声がこもって響いた。

 魎呼が阿重霞のプッシーの中に指を二本差し込む。
 阿重霞も魎呼の口に中に喘ぎ声を響かせ、さらに激しいリズ
ムで自分の指を動かした。舌を絡め合わせながら、二人は互い
に快感を与え合い続けた。

 突然、二人は身体を離したかと思うと、悦楽の桃源郷に達し
て激しく絶叫した。

 魎呼は阿重霞の身体の上に崩れ落ち、激しく息を切らせた。
横たわりながら魎呼は阿重霞の繊細な首筋にキスし、優しく全
身を愛撫した。ベッドの上で二人、抱擁を交わしながら。

***

「おやすみ、天地兄ちゃん」
 自分の部屋に戻りながら、砂沙美が言った。

「おやすみ、砂沙美ちゃん」
 天地も答えながら、自分の部屋に戻った。魎呼の部屋を通り
かかると、ドアが開いていた。そこには髪の毛をメチャメチャ
にほつれさせた阿重霞と魎呼が立ちつくしていた。

「二人とも、またケンカしたのかい?」
 じとっと睨みながら天地が訊いた。

 二人は天地を見つめ、そして互いの顔を見合わせて、また天
地の方を向いた。二人はうなだれて、黙ってうなずいた。

 天地がため息をつく。
「ほんとうに、二人には仲良くしてほしいんだけどなあ」

「ごめん、天地」
「ごめんなさい、天地さま」
 二人の声が重なった。

「俺、もう寝るよ。頼むから今のままでいてくれよな。これか
ら寝る人がいるんだからさ」

「は〜い…」
 二人の声が、一つになる。
 天地は部屋に入って、ドアを閉じた。

「本当のこと、天地に話したほうがいいかな?」
 魎呼が訊く。

 阿重霞が仰天して魎呼を睨む。
「何ですって!?正気ですの?」

 魎呼が笑う。
「そうしたら、嫉妬して天地も決心してくれるかな〜って」

「その前に、天地さまが心臓麻痺を起こしますわ!」

 ため息をつく魎呼。
「そりゃそうだよな」
 そして、意地悪そうに笑う。
「それじゃ…、またしようか?」

 阿重霞は目を白黒させた。
「そんなこと、イヤです!」

「追いかけちゃうぞ?また縛り上げちゃうぞ?」

 阿重霞が息を呑む。
「そんな…そんなことしなくたって!」

 魎呼が一歩、阿重霞に近寄った。ビクビクしながら阿重霞が
一歩、後ずさる。

 魎呼が身体を寄せて、阿重霞の耳をねぶる。
「今すぐしたいなら、すぐにしようよ」
 魎呼の囁き。

「じゃ、女風呂で待ってるからな〜」
 そう言って、魎呼は姿を消した。

 阿重霞は深いため息をついた。
 なんだか私の人生、ますます複雑になっていくみたい…。


完
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