永遠に二人は



 弦楽四重奏の練習場所になる講堂に、アスカが入ってきた。
 ヴィオラの音色が流れる中を見回すと、椅子に腰掛けたレイ
が、優しい音色を奏でていた。
 アスカは微笑みながら、立ったまま耳を傾けた。最初は、レ
イがその音楽に情感をたっぷりと注いでいることにアスカは驚
いた。話しかけようと思ったが、できなかった。アスカはただ
傍に座って聞き続けるしかなかった。

 音楽がゆっくりと終わると、アスカは拍手とともに歩み寄っ
た。

「上手いじゃないの、優等生」
 アスカはそう誉めながら、レイの隣に座ると、自分の楽器を
セットした。

 ハッとしたレイが、アスカを見上げた。
「…」
 頬がちょっと熱くなったレイは、しかしすぐ首を振ってその
熱を振り払おうとした。

 アスカが自分のウォーミングアップ用の曲を弾き始めた。レ
イが自分をじっと見つめていることに、アスカは意識しないわ
けにいかなかった。
 アスカの演奏が終わると、レイは自分のヴィオラに目を移し
た。

「アスカ…とっても上手…」
 弦をはじきながらレイが言った。

「あたりまえじゃん」
 アスカが笑う。

 ちょうど中に入ってきたシンジが笑うアスカを目にした。
「やっと綾波と仲良くなったの?」
 腰掛けながらシンジが訊いた。

「誰がよっ、バカシンジ」
 シンジを一瞥してアスカが吼えた。

 その言葉にハッとしたレイだったが、すぐ何も言わずに自分
の楽器に目を落とした。

 シンジが自分の楽器を弾き始めると、カヲルが講堂に入って
きた。シンジの演奏が終わるとカヲルが拍手する。
「カヲル君!」
 シンジがニッコリ笑った。

 アスカは腹立たしげな溜息をついて顔を上げた。
 レイはまた演奏を始めた。アスカは仕方なくまたレイの演奏
に顔を向けたが、今度のレイの演奏にはさっきの感情が感じら
れなかった。

「ふ…ん」
 アスカはちょっといぶかしんだが、すぐ肩をすくめた。楽器
をセットし終えると、自分のパートを弾き始めたが、それはレ
イの演奏と完璧に一致していった。
 シンジとカヲルもすぐ、その演奏に加わった。

 練習が終わって、皆は後片づけをした。アスカはレイに近寄
ると、まだ自分のヴィオラを片づけている少女を見下ろした。

「ちょっとレイ、顔貸してくれない」
 アスカが命令するように言う。

 頷いたレイは、荷物を片づけると素直にアスカの後について
いった。
 シンジとカヲルは肩をすくめて、帰宅していった。

「そうねえ、う〜ん…。あそこに行こうか…」
 アスカは喫茶コーナーがある本屋を指さした。
 レイも頷いて、アスカに続いて入っていった。

 二人は窓際の席に座った。オーダーをすませると、アスカは
レイを見据えた。

「訊きたいことがあるのよ、優等生」
 いきなりアスカが無遠慮に、出し抜けに言った。
 レイは窓の外に視線を向けていた。だがアスカはレイが自分
の話を聞いていると決め込んでいた。
「あのさ、練習の時、わかったんだけどさ。アンタ、一人で弾
いてた時は、その…すっごく情熱的で、感情豊かだったじゃな
い。なんでアタシたちと合奏してる時にはあれがでないわけ?」
 テーブルに身を乗り出してアスカが問いつめる。

 レイはアスカに顔を向けたが、その表情は変わらないままだ
った。
 アスカは一瞬とまどって目をパチクリさせた。

「私にも、わからないわ」
 レイはそれだけ言って、また視線を窓の外に向けた。

 アスカは腹立たしげに溜息を吐いて、頭を抱えるしかなかっ
た。
「なんで一人の時と同じようにあたしたちと演奏しないのよ?」
 ひたすら平静を装ってアスカが言った。

「私…」
 レイは鳥を見ていた。
「わからない…」
 そして、目を閉じた。

 アスカはまた溜息をつく。
「とにかく…アンタはちゃんと同じように弾いてよね」
 アスカは運ばれてきたコーヒーに目をやりながら、とがめる
ように忠告した。

「どうして?」
 コーヒーがテーブルに置かれるのと同時に、レイが訊く。

「それは…その…その方がよく聞こえるからに決まってるじゃ
ない」
 やれやれと思いながら、アスカはコーヒーに口をつけた。

 レイは運ばれてきた飲み物を見ながら、頷いた。口をつけた
レイが、微かに微笑む。
「これ…美味しい…」
 そう言って、レイがアスカを見上げた。

『それよ!感情あるじゃん!』
 アスカは思った。
「ところで、この後なにか用事ある、レイ?」
 身を乗り出してアスカが訊いた。

「家に帰る」
 ぽそりとそれだけ。

 あっけにとられたアスカが、口をポカンと開けたままレイを
見つめる。
「それだけ?!」

「うん…」
 また窓の外を見つめながら頷くレイ。

「それじゃ…うちに、来ない?」
 アスカがニッコリ笑った。
『…なんであたしがこんなこと言わなきゃなんないの?』

「そ、それとも、女の子同士の楽しみとしては、ショッピング
でもどう?」
『…いい加減にしなさいよアスカ、アンタってばもうちょっと
考えてしゃべんなさいってば!この女は、あの綾波レイよ!憎
たらしいファーストよ!忌々しい優等生なのよ!?』

  …そして?
 あたしはレイに感情ってものを見せてほしいだけよ。
  じゃ、アンタの望みはレイと一緒にいることなんだ。
 それが何だって言うの?レイには必要なのよ、誰かが…その、
 そばについていてあげることが。
  それって、「好き」ってことね。
 そんな、違うわよっ!
  違わないわ。認めなさい。アンタはレイを好きなのよ。
 やめてっ!そんなの、聞きたくないっ!
  とにかく…アンタがどうするか決めるのが先ね…。

 コーヒーがこぼれてしまって、やっとアスカははっと正気に
戻った。
「きゃあっ!熱っ!」
 アスカは立ち上がって服を拭った。
「もう、サイテーっ!」
 溜息をついたアスカは、レイが自分を見つめていることに気
づいた。
「な、なによっ?!」

「…だいじょうぶ?」
 立ち上がったレイが、尋ねた。

「うん、優等生、ありがと」
 汚れた服を見やるアスカ。
「じゃあ、新しい服を買いに行こうか」
 アスカはレイを見上げた。
「それじゃ、ショッピング、ね」
 そう言って笑うアスカ。

 レイは頷いて、アスカの後をついて近所の店に向かった。ア
スカがどれほどショッピングの鬼で、どれだけ長時間になるの
かも知らずに。

「じゃ、この服なんかどうかな、似合う?レイ?」
 そう言いながらアスカが、水玉模様のドレスに身を包んで試
着室から出てきた。
 実際その服は、まるでアスカのためにしつらえたかのように
さえ見えるほどに似合っていた。身体の曲線美がふんだんに引
き出されている。

 レイが頷いた。
「とっても…きれい…」
 そう言ってレイは立ち上がった。そして傍に歩み寄って、ア
スカをしげしげと見つめた。
 どうしたらいいかわからなくて、アスカは真っ赤になった。

「な、なにをしてんのよ優等生!?」
 身動きもできずにアスカがわめく。

「すぐ戻るから…」
 ぷいと歩み去ると、レイは可愛い服を抱えて戻ってきた。

 アスカは笑って服を受け取ると、更衣室に駆け込んで着てみ
た。

「ちょっと、レイ!いい趣味してるじゃないの!」
 外に出てきたアスカが、レイのチョイスを誉めた。

 まるでレイの髪のように青いドレス。丈は太股の中程あたり
まで。胸の上まで露出したロー・カットに、細いストラップ。
薄い生地だったので、ボタンを外して着ていたシルクのシャツ
が透けて見えた。

 そっと微笑むレイ。
「どう、気に入った?」
 アスカを見つめながらレイが訊いた。

「うんっ!」
 ニッコリ笑ってアスカは鏡の前でポーズをとった。

「その服、私が買ってあげる」
 お金を取りだしながらレイがあっさり言った。

 アスカが赤面した。
「あ、その…ありがとう、優等生…」
 アスカはポーズをとるのをやめてもじもじした。

 レイはそのドレスと、アスカの新しいドレスにマッチする小
物をいくつか買いこんだ。黒のハイヒール、ハートのロケット
がついた銀のチェーン、同じく揃えたハートのイヤリングに、
指輪に、ブレスレットに、アンクレット。

「ちょ、ちょっとレイ、そこまでしなくっても…」
 アスカが引きつった笑いをうかべる。

「買ってあげたいの」
 いつもの調子の声で、レイは言った。

「それで、楽しいの?」
 そう言いながらも、アスカは一方で、少し離れてレイを見つ
めた。

 レイったら、あたしにプレゼントしてくれるだなんて…まる
 でデートの男の子みたい…
  ほら、嬉しいくせに。
 なによ、贈り物をされて嬉しくない人なんかいないでしょ?
  ホントはレイに、これ以上のことをしてほしいんじゃない?
 そ、それは…。
  ふふふ…。

***

 21日後。

 アスカは医療ベッドに横たわったまま、窓の外を見ている。
 その窓はまだ最後の使徒の返り血に染まっていた。いや、ア
スカはそう思っていた。

「あたしがやられちゃってから、どうなったの?」
 アスカが声に出した。

***

 6日前。

 アスカのエヴァ弐号機は使徒の攻撃で完全に真っ二つに引き
裂かれ、噴き出した血がジオフロントを染めた。
 シンジとレイのエヴァも、ほとんど戦闘不能だった。
 アスカは、暗闇の中へ…。永遠の眠りの中にと、墜ちていっ
た。

「アスカ?」
 レイの声がエヴァのインターカムから響く。
「アスカ!?」
 再び声が切なく響く。
「弐号機の映像…」
 レイは見た。
 生命を失ったアスカのエヴァが、真っ二つになって地に横た
わっているのを。

「いや…」

*

「新たなATフィールドが現れました!凄まじく強力です!」
 NERVの隊員がミサトに向かって言った。

「どこにっ!?」
 叫ぶミサト。

「これは…なんてこった…」
 日向がきっぱりとミサトを見上げる。
「零号機…零号機の内部からです」

「レイがっ!?」
 その時ミサトが見たものは、倒れたエヴァの中から浮かび上
がる小さな姿だった。
 その背からは、6枚の大きな翼が…。

*

「おまえは…殺した…、アスカを、殺した…。私の…私の一番
大切な人をっ!」
 生まれて初めて、レイは感じていた。
 怒り。
 そしてそれが何故なのかもハッキリわかっていた。

 レイはゆっくりと使徒に向かって飛んでいく。使徒のATフ
ィールドを難なくすり抜けたレイだったが、身につけていたプ
ラグスーツは途中で粉々に分解した。

「殺してやる…!おまえは、アスカを殺した…。今度は、おま
えの番…。いや…、死なせない…アスカを死なせたりなんかし
ないっ…。アスカは、戻ってくるっ…!」

 レイは使徒の目と鼻の先に至った。
 使徒は巨大なエネルギービームを発射したが、レイには何の
効果もなく、レイの周囲で四散し、消滅してしまった。

 レイが両手を広げ、使徒の顔面に押し当て、目を閉じた。

*

「使徒の内部に重力点発生!内側に向かって収縮崩壊していき
ますっ!」
 マヤが驚愕にスクリーンを見つめながら言った。

「レイ、止めろ!そいつの情報が必要だ!」
 ゲンドウが立ち上がって言う。

*

「止めない…私は、アスカの仇を討つの…」

 レイの言葉に、使徒は苦痛の中、崩れだしはじめた。
 内部の組織が時間と空間のはざまに向かってゆっくりと無に
帰していく。凄まじい苦痛をもたらしながら、肉も骨も体内に
向かって押し潰されていく。名状しがたい責め苦に、恐怖の悲
鳴があがる。
 そしてまもなく、使徒は消滅した。

 レイはすばやくシンジのエヴァに向かって飛んでいき救い出
した。医療班がすでに到着していたので、アスカのエヴァに飛
んでいって、レイは素手でエントリープラグを外郭ごと引きず
りだすと、傍の地上に置いた。発光するレイの裸身が、真っ暗
なエントリープラグの中を照らし出す。

「アスカ…」

 冷たくなったアスカの頬に、レイは手を当てた。もう片方の
手も反対側の頬に。
 そして、レイはそっと、アスカの唇に口づけして囁いた。

  死はすみやかに去りぬ
  かの魂魄を奪う能わずして
  我が愛が現世に繋ぎたればゆえ
  よこしまは魂魄より去りて
  再びかの人を甦らせよ

「う…うぐぅ…」
 アスカが苦痛に身じろぎして呻いた。

 レイはアスカをその腕に抱きかかえ、NERV本部にと運ん
でいった。

***

 現在。

 アスカは血に汚れた窓を見ていた。
 だがよく見てみると、それは使徒の血ではなさそうだった。
それは、エヴァの…。
 しかしそれはレイの、それともシンジのではない、二人のエ
ヴァはこの医療センターのずっとむこうに…、それじゃ、この
血は…。

「アスカ?」

 小さな声がアスカの耳に届いた。
 振り向くと、レイが扉のところに立っていた。

 笑顔を浮かべるアスカ。
「あ、優等生…。来てくれるとは思わなかったわ」
 アスカはゆっくりと身を起こした。

「ずいぶん元気になったみたいね…」
 レイが傍に腰を下ろす。

「うん…。ねえ、あの戦闘であたしが意識を無くした後、どう
なったのっ?」
 青い髪の少女を見据えて、アスカが訊いた。

「碇くんの壱号機が復活して、使徒を倒したの」
 レイは、嘘をついた。

 顔をしかめるアスカ。
「もう、いいところはアイツが全部さらっていくんだから…。
レイ、アンタは大丈夫なの?ケガしてるじゃないの!」
 レイの腕に巻かれた包帯に、アスカは目をやった。

「私は、だいじょうぶ…。私は…アスカが元気で…うれしいか
ら…」
 レイはうつむいて、顔をほんのり赤く染めた。

「ありがと、優等生」
 アスカは笑った。

 レイは頷くと、立ち上がって、アスカの前に箱を置いた。

 目をパチクリさせてアスカは箱を開けた。
 中には、真っ赤な薔薇の花が一輪と、それに添えられたカー
ド。そこには…

『アスカへ

 薔薇の花が好きだったと思ったから、贈ります。
 …早く、よくなってね…。大好きだから…

 レイ』

 ハッとして顔を上げたが、レイはもういなかった。
 微笑みを浮かべ、アスカは薔薇の香をかいだ。
 甘い香り。アスカは薔薇の香りが好きだった。
 …でも、どうしてレイがそんなこと知ってるんだろう…?

「レイにはいつも驚かされるわ…」
 クスクス笑って、アスカはまたベッドに横たわると、眠りに
落ちていった。

***

 アスカはベンチに腰掛けて、あの薔薇を指でくるくる回しな
がら、微笑を浮かべていた。
 ふと、その脳裏に不思議な光景がフラッシュバックして浮か
び上がった。

  手術台の上に横たわる自分にアスカは気づく。
  微かに目を開く。
  紅い瞳、青い髪、大きな翼をした、光輝く裸の天使が、浮
  かんでいる。

  「レイ…」

  アスカはゆっくりと手を伸ばした。

  レイはアスカの手を握って、かすかに微笑む。
  そしてその手を元通りに下ろすと、部屋の中から消えてい
  った…。

 ハッとして、アスカは頭を振った。
 見ると、シンジが廊下の向こうからやって来た。レイよりも
たくさん包帯を巻いている。

 どうやら今回レイは運が良かったみたいね。たいした怪我も
してなかったし。

「あら、バカシンジ」
 溜息をつくアスカ。

「やあアスカ、ずいぶん元気になったね」
 シンジが微笑む。

「はいはい、アンタのスゴイ腕前には感謝してますってば」
 不満げに呟くアスカ。

「何のこと?」
 不思議そうにシンジが訊く。

「アンタが例のごとくキレてあの使徒をぶっ飛ばしてくれなか
ったら、あたしもその他大勢と同じように死んでいたんでしょ
うからねっ」
 薔薇の花を見ながらアスカが言った。

「ボクじゃない…。アスカ、ボクがあの使徒をやっつけたって
言うんなら、それは違うよ」
 シンジがアスカの隣に座った。

「どういうこと?」
 驚いたアスカがシンジを見つめる。

「使徒を倒したのはボクじゃない。レイだよ」
 それはとっくに周知のこと、といった口調でシンジが言った。

「どうやって?」
 さらに困惑したアスカが目を見開く。

「その…アスカの弐号機が真っ二つになったのを見たレイが、
キレちゃったというか。レイの身体が光り出して、羽根が生え
たんだ。レイは零号機を素手で裂いて飛び出して、使徒の目の
前にまで浮かび上がって、粉々に破裂させちゃったんだ。その
間じゅう、レイは言ってたよ。アスカの仇を討つ、アスカを私
から奪わないで、って。それからレイはボクのところに来て傷
を治すと、アスカの方に行って、アスカを生き返らせたんだ。
アスカはあの時、確実に死んでいたはずだった。でもレイが、
とにかくよくわからないけど、アスカを死の淵から連れ戻した
んだよ」
 シンジが切なそうにうつむいた。

 いっぽう、アスカも完璧に打ちのめされて、床を見つめるだ
けだった。シンジの言葉が真実なのかどうなのかすらわからな
かった。

「レイが…?」
 やっとアスカがそう言った。

「本当だよ…」
 アスカが手にした薔薇を見ながら、シンジが頷く。
「話がしたければ、レイはアパートに戻ってるから」
 シンジがレイの家の方角に親指を向けた。

 アスカは頷きながら、立ち上がった。

***

 翌日。

 退院したアスカはアパートに戻り、リビングに入っていった。
そこにいたレイの姿に、アスカの足が止まった。レイを見つめ
て、アスカは意を決して近づいた。

「レイ?」
 青い髪の少女を見つめながら、アスカが声をかける。

「何?」
 そう言って、レイがアスカに目を向ける。

「シンジが…あの戦いの間に本当は何があったのか教えてくれ
たわ…。本当にあたしは死ぬところだったの?」
 まるでそれが嘘であってほしいかのように、アスカは切なげ
に言った。しかしその声はいつものように無遠慮に。

 レイがうつむく。
「うん…でも…、アスカは私にいろいろ教えてくれた。…愛と
か…優しさとか…。アスカは大切な…ううん、大好きな人。だ
から、失えなかった…失いたくなかったの、アスカ…」

 レイが見上げると、アスカの頬に涙がこぼれ落ちていた。

 立ち上がるレイ。
「わかってる…私もう、アスカからは…」
 立ち去ろうとしたレイに、アスカが顔を上げた。

「ダメ…行かないで…お願い…」
 振り向いたレイの目に、立ち上がったアスカが近づいてくる。
 アスカはレイに近づき、その胸に顔を寄せて泣きだした。

 驚いたレイだったが、その両腕でアスカを抱きしめた。

「レイ…、あたし…あたし、死ぬところだったのに……、あた
しを想ってくれる人のおかげで、死なずにすんだ…」
 しゃべろうとするアスカだが、涙にむせて声に出せない。

 レイはアスカを抱き寄せてそっとあやすようにさする。
「私、アスカには苦しい思いをさせたくないの…」
 耳元で、レイがそっと囁いた。

 レイは…あたしのことを…命を与えてくれるくらいに、好き
 でいてくれたの?
  そうよ、アスカ。さ、言いなさい、チャンスを逃しちゃダ
  メ!
 私も、レイが好き、って?
  そうよっ!!

「レイ、あたし…、あたし、レイが好きよ…。…ああ、あたし
もう、レイを離さないから!」
 脱力したアスカが崩れ落ちるのを、レイは膝をついて支え、
固く抱きしめる。そしてアスカの背をそっと撫でた。

「…アスカ、…私も、アスカが好き…。私、絶対にアスカを苦
しめたりなんかさせない…」
 アスカの手を握りしめて、レイが囁いた。

「レイ…」
 涙に潤んだ瞳で、アスカはレイを見つめた。アスカは微笑み
ながらゆっくりレイに顔を寄せる。

 二人の唇が、そっと触れ合った。だがその口づけには溢れる
ほどの愛がこもっていた。押さえ込まれてきた二人の感情の全
てが、この小さな愛の証で一気に解き放たれた。

 顔を離した二人が、互いに見つめ合う。

「アスカ…どこにも行かないで、お願い」
 両手を組んでレイが懇願した。

 ニッコリ微笑んで、アスカがその手を握りしめる。
「絶対、離さないわ、レイ…。あたしは、レイだけのものよ」
 そう言って、アスカがレイの頬にキス。

「私も…私も、アスカのもの…」
 アスカの頬にキスを返しながら、レイが笑った。

***

 その翌日。

 アスカとレイは一つ部屋で同居することになった。その知ら
せを、ミサトはにわかには信じられなかった。他の人々も不思
議に思ったが、マヤだけはある事情から、二人の決心を陰なが
ら全面的に応援していた。

 アスカは部屋をカラフルに模様替えした。それをレイは心か
ら喜んでいた。

「アスカ、とってもすてき…」
 部屋を見回しながら、レイが言った。
 アスカはレイの腰に手を回して、首筋にキス。
「よかった…」
 微笑むアスカ。

『ぴんぽーん』

 アスカが玄関に出て、扉を開けると、そこにはヒカリが立っ
ていた。

「あら、ヒカリ、いらっしゃい!」
 アスカがニッコリ笑った。

 ヒカリも笑って、身を乗り出してレイの姿を見つける。
「二人とも、こんにちは」
 ちょっとうわずった声でヒカリは挨拶した。
「ねえ、アスカ…その、噂は本当なの?」

「何の?」
 きょとんとするアスカ。

「ええと、アスカがレイと…どうなの?一緒に住んでるって?」
 ヒカリが赤面する。

「そうよっ!」
 アスカはレイに駆け寄って、抱きしめた。
「あたしのレイだもん!」
 ニッコリ笑うアスカ。

「うわあ…」
 赤面しながらも、ヒカリは部屋に入った。
「これ、アスカが模様替えしたんでしょ」
 しげしげと見回すヒカリ。
 レイとアスカは手をつないだまま大きなカウチに腰を下ろす。
「そうよ」
 アスカが微笑んだ。
「アスカのおかげ…」
 レイが静かに付け加える。
 アスカは笑ってレイの手をぎゅっと握りしめた。
 レイも微笑んで、アスカに身を寄せる。

 二人の姿を見て、ヒカリも笑った。
「二人とも、とってもお似合い…ホントにそう思う」
 クスクス笑うヒカリ。

「ありがと、ヒカリ…。ところで、例の腰巾着は?」
 アスカが見回しながら訊く。

「トウジのこと?」
 きょとんとするヒカリ。

「そうだけど」
 アスカが頷く。

「ケンスケくんとシンジくんにつかまっちゃってる」
 ヒカリは溜息をついた。

「だと思った」
 あくびをかみ殺すアスカ。

「あのね、私、二人がどんな様子か見に来たのと、それと、こ
れ…」
 ヒカリは二人に学校のダンスパーティのポスターを手渡した。
「これ、もうすぐなの。二人が一緒に出たら、きっと素敵だな
って思って」

 そうして、ヒカリは帰っていった。
 アスカはレイに笑いかけると、キスした。
 レイもそっとキスを返した。

***

 ベッドの中で、アスカはふと目を覚ました。
 傍らのレイは、すやすや眠っている。
 その愛らしく無邪気な寝顔を、アスカは見つめた。そして顔
にかかったほつれ毛を直してやる。

 レイと一緒にいられる私って、幸せ者ね。
  どう、幸せ?
 もちろんよ!
  もし誰かが二人を引き裂こうとしたら、どうする?
 そんなやつ、長生きなんかさせないからっ。
  レイを幸せにするのよ、アスカ。
 うん…。
  結婚しちゃおうか?
 そうね…あたし、ずっとレイといっしょにいたいな…。

 アスカはレイの額にキスすると、眠ってしまった。

*

 レイは、夢を見た。
 奇妙な乗り物に、レイは乗っている。操縦士は眠っているよ
うだ。
 座席に座っているレイは窓の外を見つめた。そこにはただ、
血の海が広がるばかり。

 紅い…私の嫌いな色…。
  でも、あなたの大好きなあの人の、好きな色よ。
 …。
  あなたが嫌いなのは、紅い色じゃない。嫌いなのは、血。
 …うん…。紅い色を見ると、心の中に何かが…。
  それは、アスカへの愛よ。今までそれに気づかなかっただ
  け。
 そうね…。アスカへの私の想いは、たかが色の好き嫌いなん
 かより、ずっと強いんだもの。
  そうよ…。

***

 翌日。

 アスカとレイは手をつないで登校した。二人とも、うきうき
していた。全く違和感などなさげに、二人は振る舞っていた。
冷笑し、皮肉をぶつけてくる愚か者もいたが、二人は全く意に
介さなかった。

 教室に入った二人だったが、クラス全員の注視に思わず立ち
止まってしまった。

「オーケー、諸君。あたしとレイの噂なら聞いてるわ。じゃあ、
見せてあげる」
 くるりとアスカがレイに顔を向けた。

 前のようにレイをひっぱたくのか、と全員が思った。
 だが目にしたのは、レイに両手を回して、そっとキスするア
スカの姿。
 アスカはレイに笑いかけて、鼻の頭をぺろっと舐めた。

 みんなに向きなおって、アスカはニッコリ笑った。
「噂は本当よ。あたしたちは一緒なの」

 アスカはレイの手をとって、席に連れて行った。
 レイは自分の席に座って、アスカに微笑みかけた。

「じゃあね、レイ」
 アスカはウィンクしてキスする。
 レイもキスを返す。
「アスカもね」
 アスカの手が離れてしまうまで握りながら、レイが囁いた。

 自分の席に座ったアスカが、振り返ってレイに笑いかける。
 微笑みを返したレイが、自分のコンピュータのスイッチを入
れた。あっという間にチャット画面はメッセージの山で一杯に
なった。アスカの方を見やると、アスカも頷いている。苦笑し
たレイが、メッセージにざっと目を通していった。

<ホントにレズなの?>
<どうなってんの?>
<どうしてそんなことに!?>
<どうかしてるわ!>
<変態よ!>
<僕のアスカを返せ!>
<私もまざりた〜い>
<出てってほしいわ!>
<お似合いだと思う>

 レイは全て無視して消去していった。
 そこに、アスカの名前が飛び込んできた。

アスカ参上!>ハーイ!
綾波レイ>いらっしゃい、大好きな貴女。
アスカ参上!>う、うふふ、大好きな貴女、かぁ。きゃーっ、
いい響きぃ!
綾波レイ>ありがとう、アスカ。気に入ってくれてよかった…。
やっぱりアスカもみんなからいっぱいメッセージ届いてる?
アスカ参上!>まあね。まったくもう、いくつかマジでヒドい
のがあったなあ…。
綾波レイ>そうよね…。ダンスパーティーには出る?
アスカ参上!>あったりまえよっ!!!^__^
綾波レイ>よかった。放課後にお買い物に行かない?
アスカ参上!>わーいっ、レイが誘ってくれるなんて!待って
て、ログイン名変えちゃうから!

アスカ参上!はログアウトしました。

レイは私のもの!がログインしました。

レイは私のもの!>お待たせっ!
綾波レイ>お帰りなさい。
レイは私のもの!>ありがと、じゃあ、一緒にショッピングね。
綾波レイ>アスカさえよければ。
レイは私のもの!>もちろん行く〜!
綾波レイ>よかった。私がアスカの服を選んであげたい。
レイは私のもの!>じゃ、レイの服はあたしが選んであげるか
ら。
綾波レイ>すてき。
レイは私のもの!>あ、そろそろ移動して授業の準備ね。じゃ
あね〜、愛してるわ。
綾波レイ>じゃあね、アスカ。私も愛してる。

***

 レイは校門のところでアスカを待っていた。
 アスカは掃除当番だったが、ヒカリが気を使って早めに帰し
てくれた。アスカは学校を出るとレイのところに駆けていった。
そしてニッコリ笑って両腕を回して抱きついた。

「ごめんね、待たせちゃったでしょ」
 そっとキスしながら謝るアスカ。

「平気。」
 キスの後で、レイが微笑む。

 アスカは嬉しそうに笑って、またキスした。レイの口の中に、
ゆっくりとアスカの舌が入ってくる。甘い声を漏らしながらも、
レイの舌がアスカの舌に絡まりだした。アスカはキスしたまま、
レイの手を握る。

「んんん…」
 アスカの声が微かに漏れて、やっとキスが終わった。
「今の、よかった…」
 微笑むアスカ。

「私も…」
 レイもそう言って、アスカの頬にキス。
「ねえアスカ、お買い物に行きましょ」
 笑いかけるレイ。

「OK」
 アスカはレイの手をとると、ショッピングモールに向かって
歩き出した。

*

 店では二人が、たくさんのドレスを見て回っている。
 アスカはすっかり天国気分だった。ドレスの棚から棚へと探
し回った。

「お客さま、何かお探しでしょうか?」
 店員が近づいてきて訊いてきた。

「ええと…あんまりフワフワしてないドレスはどこかな?」
 当たりを見回して、アスカが言った。

「ご自分用の服をお探しですか?」

「ううん、あたしの『恋人』用の服よ」
 アスカはそう言ってレイに笑いかけた。
 レイも微笑みを返して歩み寄ってきた。

「あたしたち、互いに服を選びあってるの」
 その言葉に、レイもアスカの手をとって頷く。

 店員はちょっとびっくりしたが、すぐ気を取り直すと、二人
にシルクのドレスを見せた。

「ありがと…う〜ん…」
 アスカが服を探すと、レイも同じようにする。

 アスカは中から、青いドレスをレイのために選び出した。こ
れ以上ないくらいのローカットで、しかもばっちり上までスリ
ットが入っている。
 レイがアスカに選んだのは、銀のドレスだった。袖口にまで
銀糸が織り込まれ、アスカの背中が大きく露出する。ロングド
レスだが両脇にはスリットが二つ。これもかなりのローカット
だが長袖だった。

「これなんかどう?アスカ」
 その服を手にして、レイが訊いた。

「うわあ、レイ、最高!」
 キスしながらアスカが言った。
「あたしがレイにチョイスしたのは、どう?」

「うん、とってもきれい」
 微笑むレイ。

「じゃあ、着てみて!」
 アスカがウィンクした。

 レイは赤くなったが、頷いた。試着室に入って、着替える。
 外に出てきたレイが、アスカの方に向く。

「うわあ…」
 レイに近づいて、まじまじと見つめるアスカ。
「カ・ン・ペ・キ…」
 アスカはレイをひしと抱きしめた。
「もう、レイったらきれい…」

 レイも嬉しそうに笑って、抱きしめ返す。
「アスカの方がずっときれい」
 そう言ってアスカの耳にキスするレイだった。

***

 二日後。

 ダンスパーティーの会場の講堂に、レイとアスカが入ってき
た。
 二人は手をつないでいる。
 もうダンスは始まっていた。二人は互いに微笑みを交わすと、
ダンスをしている人の波の中に入っていった。

「それじゃ…レイ、Shall We Dance?」
 ニッコリ笑いながら、アスカが声をかける。

「喜んで、アスカ」

 アスカはレイの腰に両手を置き、レイはアスカの首に両腕を
回す。
 二人は音楽に合わせて優雅に踊り出した。
 全員の動きが停まり、二人を注目した。
 一分の隙もなく、二人は完璧な動作でダンスを踊る。

「レイ…愛してる…」
 何よりも愛している少女を見つめながら、アスカは幸せそう
に囁いた。

「アスカ…アスカに出会うまで、私はエヴァのための存在でし
かなかった…。でも、今は…貴女が私の存在理由…」
 レイがそう囁きながら、アスカにキスした。

 瞳に涙を浮かべて、アスカはレイを見つめた。

 二人の動きが停まった。
 アスカが、深く、ちからいっぱい、レイに口づけした。

「レイ…ホントに、ほんとうにごめんね!あたし、レイにずっ
と意地悪で、つらくあたってばかりだった…。でもそれは、レ
イが好きだったから…。どうしてあんなことしちゃったんだろ
う?!」
 アスカはレイの胸に泣き崩れた。

「アスカ…過ぎたことは私、もう気にしない…。私がいま大切
なのは、アスカ」
 レイが優しく言いながら、キスする。
「さ…。何か飲まない?」
 そう言ってレイは、アスカをパンチボウルのテーブルまで連
れて行った。

***

 四時間後。

 家に戻ったレイとアスカは、くたくたになって床に横たわっ
ていた。二人ともドレスを着たままだった。

「ねえ、レイ…」

「何?アスカ」
 アスカに顔を向けて、レイが訊いた。

「服、脱ごうか?」
 ウィンクするアスカ。

 レイは赤くなって笑った。
「うん…」

 レイが服を脱いでパンティ一枚の姿になると、アスカも同じ
ように脱ぐ。
 微笑み合って、二人は身を寄せた。

「これは?」
 アスカがレイのパンティをきゅっと引っぱる。
 レイは真っ赤になった。

 アスカは、ゆっくりとレイのパンティを、自分のも一緒に引
き下ろした。
 身を起こして、アスカはレイの裸身を見つめた。

「レイってば…そんなに完璧な身体のこと、ずっと隠してただ
なんて」
 嬉しそうに笑うアスカに、レイも微笑みを返して同じように
アスカの裸身を見つめる。

「あ、ここ、剃ってるんだ…」
 そう言ってアスカは、指先をレイの柔らかく滑らかなプッシ
ーに滑らせた。
 微かに喘いだレイが、腰を浮かせる。
 アスカは笑って、身を屈めてそっとレイの秘所に口づけした。

「あん…いいっ…」
 プッシーをゆっくりとなぞり、焦らしてくるアスカの舌の動
きを、レイは感じた。レイがよがり声をあげて、また腰を浮か
せる。
 アスカはニヤッと笑って、ゆっくりとレイの中に舌を差し込
み、レイの味を堪能した。

「ううん…、ああっ…。アスカ…、くううんっ…」
 今までにない快感をレイは感じていた。アスカのために、レ
イは両脚を大きく広げた。

「むううん…」
 さらに深く、激しく、アスカは舐め始めた。
 レイは息を切らして大きく喘ぎながら、この初体験を支えて
ほしいとばかりに、アスカの手をすがるように握った。

「ああんっ!アスカぁっ!!」
 アスカの名を絶叫したレイが、アスカの顔に向かってどっと
愛液を溢れさせた。それをアスカは一滴も残さずに飲み干す。
 レイは微かに息を切らしながら横たわっていた。

「どう、よかった?」
 色っぽくアスカが尋ねる。

 レイはゆっくり頷いて、微笑んだ。
「今度はアスカの番…」
 レイは笑いながらすばやく起きあがって、アスカを仰向けに
押し倒した。

 アスカもレイに微笑みかける。
「やさしくしてね…」
 アスカのプッシーをレイが指でなぞりだすと、アスカは喘ぎ
だした。
「そうする…」
 レイがゆっくりと指をアスカの中に挿入していくと、アスカ
の口から大きな喘ぎが漏れた。

 レイは微笑みを浮かべながら、アスカの乳首を優しく吸いつ
つ、指をアスカのプッシーに抽送していく。
 アスカが大きく喘ぐ。

「ああ…、ああん、レイ…。あたし…あたしもう、イキそう…」
 指を入れられたままの腰を激しく動かしながら、アスカが息
づかいを荒くする。
 アスカをイカせようと、レイは指の動きを信じられないほど
にすばやく動かし始めた。

「レイぃっ!!ああ、あたし、イクぅっ!愛してるのぉっ!!!」
 ギュッと目を閉じたアスカの蜜が、胎内から溢れだしてきた。
レイはゆっくりと舐め取り始めながらも、舌でアスカのプッシ
ーを愛撫する。
 アスカは微かに悶えた。

***

 恋人たちは、疲れ切って床に横たわっていた。

「アスカ、いつか、私と結婚して」
 レイはそう言いながら、アスカの指に指輪をはめた。

 アスカは微笑みながら、レイの瞳をじっと見つめた。
「うん、きっと…」
 そう答えて、アスカはレイにキスした。

 これからはずっと二人は一緒だと確信して、二人は眠りに落
ちていった。

 永遠に、誰も二人を引き離せやしない。
 たとえまたインパクトが起きても。
 NERVの命令であっても。
 死が二人を分かつまで、永遠に。


完

 

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