夢と知りせば

 

「それじゃ、な!アリス!」

「…早く帰りなさいよ」
 そう言った私の声が、どこか沈んでいたのだろうか。

「ん?どうした?名残惜しいのか?」
 魔理沙がイタズラっぽい目つきでニヤニヤすると、決まり悪
くなった私は頭に血が昇ってしまった。顔が真っ赤になってい
るのが自分でもわかった。

「ばっ…バカねっ!さっさと出てってよ!」

 魔理沙はあっけらかんと笑いながら、素早く箒にまたがると、
私の弾幕をひょいひょいと避けて、ビューンと飛び去ってしま
った。
 私はバタンと扉を閉めて、溜め息をついた。

 こんなつもりじゃないのに…。

 急にどっと疲れが襲ってきた。この前紅魔館で魔理沙と起こ
した小競り合いが、後から身体に響いてきた。それくらい大変
だったのに、魔理沙は楽しげだった。私は目を閉じ、頭を振っ
て我を保とうとした。

 私が魔理沙よりも弱いっていうの?しっかりしなさいアリス!

 眠りを招くベッドに、私はフラフラと歩み寄ったが、その前
にしなきゃならないことがあった。私は薬瓶を手に取ると、錠
剤をいくつか取り出した。
 魔法の研究や弾幕戦でひどいストレスに襲われた時、永遠亭
の薬師・八意永琳から薬を処方された。わずかな試作品から残
った新薬で、たった二錠で精神安定をもたらす睡眠薬だった。

 薬はよく効いたが、奇妙な副作用があった。…永琳によると、
精神の安定を得るために、脳が受けた刺激によって貯め込まれ
たプラスのエネルギーを吐き出す必要がある。
 その結果、服用者は全て…不思議な夢を見るのだ。

 とても、不思議な夢を。

 それが副作用にとどまる限りは、何の問題もない。だが、そ
の夢を見た後の私は、しばしば眠る前よりもずっとヘトヘトの
状態で目覚めてしまうのだった。

 私はベッドに倒れ込むようにして仰向けになると、その薬を
じっと見つめた。

 もう一度試してみようかしら。…どんなに良い夢を見ても、
目を覚ましたらただの夢…それが辛くてしかたなかった。

「でも、もういっぺんだけ…」
 誰にともなくそう言って、私は薬を飲み、一気に水で流し込
んだ。私はベッドに横たわり、薬の効き目とともにゆっくりと
眠りに落ちていった。まぶたが重くなり、だんだんくっついて
いき、視野が霞んで、暗くなっていって…。

***

 コッ、コッ。

「よお、入るze!」

 扉が開く音に、私は顔を上げた。魔理沙がついさっき出て行
った扉からスタスタ入ってきた。

 ああ、私もう、眠ってるんだわ…。

 そう思いながら私はベッドに横たわったまま、両腕をぐっと
伸ばした。

「ねえ魔理沙、ここに来て…」
 そう言って私がニッコリ笑ったので、魔理沙は急に足を止め
てしまった。

「え?」
 不思議そうな顔をして魔理沙が私を見つめる。

 だって、これは夢だもの、私の好きにできるんだから。いつ
もとは違うけど、とっても楽しい気分。
 私がベッドをぽんぽんと叩くと、魔理沙が歩いて来て、ベッ
ドにちょこんと腰掛けた。

「アリス?どうかし…」
 言いかけた言葉を魔理沙が呑んだ。私が魔理沙の膝に頭を乗
せたから。私は魔理沙の膝の感触を楽しみながら、目を閉じて
至福を感じる。

「お、…おい、悪いものでも食べたのか?だze?」
 私のおでこに魔理沙は冷えた自分の手を当てた。
「風邪をひいているようには見えないけど」

「私はいたって健康よ、魔理沙」
 私は手を伸ばし、魔理沙の頬を撫でて温もりを味わった。そ
れから魔理沙の髪に指を滑らせた。

 魔理沙がビクッとして身を引いた。

「な、なにをするんだze!」
 叫ぶ魔理沙。
「こんなことっ…」

「気持ちよくない?」
 私は手を引っ込めると、さっき魔理沙が私にしてみせたよう
にイタズラっぽく笑いかけてやった。魔理沙が顔を真っ赤にし
たのがわかった。
 魔理沙は目を背けようとしたけれど、私は魔理沙をじっと見
つめ続けた。

「…ヘンだze」
 呟く魔理沙。
「こんな妙な気分、いたたまれないんだze…」

 魔理沙のカラメル色の瞳の奥で、二つの相反する感情が渦巻
いているのがわかって、私は内心ほくそ笑みながら、自分自身
の気持ちにも気づかされた。

 でも、夢の中なら、ずっと必死に隠し続けてきたこの気持ち
も外に出したってかまわないわ…。

 私はまた手を伸ばして、魔理沙のあごに手を当てると、魔理
沙の顔をこっちに向けさせた。反射的に魔理沙は私の手を掴ん
だけれど、次にどうしたらいいのかわからないまま、その手を
握ったままだった。

「あ、アリス…」

「魔理沙、私に任せて。魔理沙が何を感じているのか、教えて
あげるわ」
 私はまた手を魔理沙の髪に滑らせながら、魔理沙の顔を引き
寄せた。私から決して目を逸らさせないように。顔と顔の間が
ほんの数インチになって、さすがに魔理沙が抵抗し始め、その
顔に不安が浮かんでいるのがわかった。

「アリス、だめ…」

 互いの距離の間合いを測ってから、私は激しく唇を重ねた。
頭の中で花火が炸裂し、光に照らされ、そして消えていった。
私の夢が驚きになった瞬間。魔理沙の唇に触れた私の唇に純粋
な想い。無垢な、甘い口づけ。私の、本当に本当の、ファース
トキス…。

 唇が離れたとたん、急に唇が乾いて冷えてしまったような気
がした。魔理沙の顔は至福に溢れていた。顔が真っ赤だったけ
れど、どんな気持ちなのかはわからない。魔理沙は何か言おう
と口を開きかけたけれど、また閉じてしまった。しばらくして
ようやく、かすれた声で、ぽつぽつと言葉を絞り出した。

「アリス…わ、私も……なんだze」

 私はニコリと笑って頷いた。今度は魔理沙がさっき以上の勢
いで、私に唇を押しつけてきた。いきなりのキスの勢いに押さ
れて、しかも魔理沙の舌が私の口の中にまでおずおずと入り込
んできたことに、私は少し身を引いてしまった。でもそれを受
け入れると、キスはますます激しくなって、魔理沙と舌を絡ま
せあった。今はもう、私は頭が溶けてしまったように感じた。
有頂天になった私には、まるで時間が凍って止まってしまった
かのように思えた。

 ゆっくりとキスを止めた時には、二人とも息を切らしていた。
大きく息を吸って、ふと我に返った。見ると、魔理沙もだんだ
ん落ち着きを取り戻していた。

「す…すごい…ze」
 茫然として私を見つめる魔理沙。
「いつものツン顔の奥にあんな激しさを隠してたなんて、ちっ
とも気づかなかった…」

 私がニヤリと笑って、魔理沙の背中に両手を回して抱き寄せ
ると、魔理沙がハッと息を呑んだ。

「私の激しさがどれくらいか、知りたくない?」
 そう言って私は、魔理沙の首筋にキスした。それだけでじゅ
うぶんだった。

 魔理沙は私をベッドに押し倒すと、服で隠れていない私の肌
にキスの雨を降らせた。私は全身に電気ショックが駆け抜けた
ように感じた。我慢できなくなって、私たちは狂ったように互
いの服を剥ぎ取ってしまった。私の素肌を撫で回す魔理沙に、
私は両手を伸ばして魔理沙のお尻を鷲掴みにした。私たちは互
いに肉体の隅々まで知りたかった。皮膚の肌理まで感じたかっ
た。愛撫される感触を経験したかった。
 私はもう、自分を抑えることなどできなかった。

 私は魔理沙の柔らかな乳房を掴むと、滑らかに、でもしっか
りと捏ね回した。魔理沙は半分びっくりしたように呻き声をあ
げたけれど、私はその呻き声をまた愛おしいキスで魔理沙の口
から受けとめてやった。私が魔理沙の胸を揉みしだくたびに、
魔理沙の口から愛らしい喘ぎが漏れて私の口に伝わってくるの
を感じた。
 魔理沙が逆襲に転じようとしたのか、キスを止めてしまった。
不満を漏らそうと開きかけた私の口は、途中で喘ぎ声に邪魔さ
れてしまった。魔理沙の熱い口が私の乳房にむしゃぶりついて
吸いながら、反対の乳房を手で捏ね回したから。
 私はビクンッと硬直して身をよじった。経験したこともない
強烈な快感が、絶え間なく私を打ち据え、捕らえてしまった。
私は無意識に魔理沙の頭を抱き寄せながら、反対の手で魔理沙
の身体を、手の届く限りにくまなく撫で回していた。

「ま、魔理沙!私っ…」

 言葉を続けられず、私は魔理沙をさらに抱き寄せ、互いのい
ちばん敏感なアソコをくっつけて、こすり合わせた。魔理沙は
新たな快感に圧倒されて、ガクンとのけぞった。その動きに合
わせて、私は魔理沙を固く抱きしめた。私たちは生々しい欲望
と熱情に駆り立てられたまま、互いに全身を使ってこすり合わ
せた。私たちの動きはますます激しくなり、ますます早くなっ
ていき、相手の発する喘ぎ声と嬌声にますます刺激されていっ
た。
 魔理沙が自分の内奥に何が大きなものが膨らんでいくのを感
じて、全身を震わせだしたのが私にもわかった。その動きとと
もに、私自身にも同じものがどんどん迫ってくるのを感じた。

「魔理沙ぁっ!」

「アリスぅっ!」

 私たちは互いの身体をしっかりと抱きしめながら、全身に駆
け抜けていく快感の昂ぶりに、声を一つにして絶叫していた。
絶頂に硬直した身体は、ゆっくりと脱力していき、私たちは互
いの身体に崩れかかるように身を重ね、大きく喘ぎながら、二
人の中を通り過ぎていったものの残滓の衝撃と波に身悶えした。

「ア…リス、これって…」

「愛してるんだってば、バカ…だから…」
 吐き出すようにそう言うと、私は魔理沙の身体に身を任せた。
心の一番奥に隠していた想いを明かして、私はもう自分が抑え
られなかった。
 魔理沙が私の顔を上げて、微笑みかけた。

「私も、愛してる、アリス…」
 そう言って魔理沙は私を抱き締めて、唇を重ねてきた。私は
魔理沙の身体の上で蕩けてしまいそうに感じながら、至福にホ
ッと息をついた。

「魔理沙って、あたたかい…」
 そう呟いた私の耳に、睡魔に襲われたらしい魔理沙の寝息が
聞こえてきた。その規則正しいリズムの寝息に私の心も静まっ
て、幸福な薄霧が脳裏にかかって思考も途切れかけた。

 ああ、もうじき目が覚めちゃうんだわ。そうしたら、この経
験も夢の彼方…。

 そう思うと心がちぎれそうで、目に悔し涙がにじんできた。
私は泣きながら、全身の力が吸い取られていくかのように、眠
りの中に深く落ちていった。

***

***

***

***

***

 あたたかい。

 布団の中が暖かい。とても心地良い、心が落ち着くぬくもり。

 ずっとこのままでいたいわ。このぬくもりを失いたくない。

 私は薄目を開けた。光が見える。朝日かしら?

 違う。そんなに眩しくない。

 まるで…。

 私は目を大きく開けた。光と思ったのは、カラメル色の瞳だ
った。

「おはようだze、アリス」

 その声は…。

 私は息をのんで、ガバッと跳ね起きた。よろめいてベッドの
端から落っこちかけ、ベッドサイドのテーブルにゴツンと頭を
打ってしまった。目がくらんだまま床にまで落っこちた私の耳
に、魔理沙が私の名前を呼ぶ声がぼんやりと聞こえた。私はぶ
んぶんと頭を振って、両目をぱっちりと開けた。
 私のベッドの上に魔理沙がいて、私をニヤニヤと笑いながら
まっすぐ見つめている。

「アリスの寝顔が可愛すぎて、起こせなかったんだze」
 魔理沙が言う。
「でも、昨日の夜のアリスの可愛さを思い出せば…」
 魔理沙は記憶を堪能するかのように目を閉じる。
「あれはもう…最高だったze」

「で、でも、あれは…夢だったんじゃ…?」
 狼狽した私の言葉に、魔理沙は首を横に振った。ふと自分の
身体を見下ろしてみると、白いナイトガウンが一枚、裸身に羽
織った姿。

「あの…アリスが風邪をひいちゃまずいと思ってさ…、それで…」
 魔理沙が言った。

 それじゃ…私がしたのは全部夢じゃなかったのね…。

 私は立ち上がり、脚立と縄を取り出した。魔理沙は不思議そ
うな顔で私を見つめた。

「魔理沙に本心を知られて、あんなふうに淫らなことをして…
私、死ぬしかない」
 そう言って天井から首吊り縄を掛けようとした私に、魔理沙
が体当たりした。

「ダメだze!」
 魔理沙は叫びながら自分ごと私を突き倒し、床にもんどり打
って倒れた。
「バカなこと考えるな!」

 私は魔理沙の顔を見上げた。その表情は真剣そのもの。

「私は…アリスが自分の心を、見せてくれて…そのおかげなん
だze…」
 口ごもる魔理沙。
「ようやく、私も気がついたんだze…。私がずっと感じていた
あの気持ちが…アリスに抱いていた想いが何なのか…」

「魔理沙…」
 魔理沙も、私と同じ想いを抱いていたのね…。

 私は魔理沙を抱き締めた。
「魔理沙の、鈍感!」

 魔理沙はぎこちなく苦笑した。

「ふふ、悪かったze…。でも、もう勘弁してくれよな」

 私たちはしばらくそのまま抱き合いながら、朝日の温もりと
互いの距離の近さを全身に浴びて感じていた。

 やがて私は立ち上がろうとした。身を起こそうとした、その
途端、脇腹に鋭い痛みが走って、私は悲鳴を上げてまた倒れ込
んでしまった。さっき使った脚立の角が脇腹にもろに当たって
しまったのだ。

「どうしたアリス?」
 魔理沙が心底心配そうな声で言った。

「ばかっ、さっさと手を貸しなさいよ!」
 もう一度立ち上がろうとしたが、やっぱり痛い思いをしただ
けだった。

 魔理沙が苦笑した。
「やれやれ、ドジっ娘アリスちゃんはニブいんだから、そのま
まじっとしてな…」
 ニヤつきながら立ち上がる魔理沙。
「でも、心配ご無用なんだze」
 魔理沙が私の身体に両手を回し、びっくりする私を尻目に、
私を抱え上げてベッドに運び込んだ。

「な、なにするのよっ!私はドジっ娘でもないし、ニブくも…」
 私の声を中断させたのは、私の口をふさいだキス。見開いた
私の目は、やがて閉じてしまった。キスの甘さに圧倒されて、
私はベッドの中に溶けてしまった。

 キスが終わって、私は魔理沙を見上げた。

「落ち着いたか?」

「う…うん」

「じゃあ、痛めたところを診てやるから。文句は無しだze」

「…うん」

 

  

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