超鋼美神☆クイーンズ・ビー

 第14話「超鋼美神西へ(前編) / 合体生体円盤機獣ロゼクロワ登場!」



***

 折しも季節は初秋。
 真夏の猛暑もやっと峠を越え、澄んだ空に心地良い風が吹く
よ
うになった。

 ここ北九州、長崎県佐世保市にほど近い内海の大村湾に面し
た、日本有数の体験・滞在型テーマパーク・レジャーリゾート
「長崎ハウステンボス」でも、色とりどりの秋の花々が多くの
人々の目を楽しませている。

 目に鮮やかな黄色やオレンジのマリーゴールドの花が至る所
を染め、一面の花畑の向こうに、柔らかな陽射しを受けた大型
の風車が何基も何基も等間隔に並んで、運河に影を映している。
 爽やかな微風に乗ってどこからかヴァイオリンとクラリネッ
トの調べが聞こえてくる。

 江戸時代より続く日本とオランダとの歴史と文化交流をテー
マにしたこの施設には、季節を問わず国内からの観光客や研修
の団体が絶えない。とりわけこの季節は、各地の修学旅行の一
団が目につく。
 あの東京ディズニーランドの繁雑ぶりには及ばないが、そも
そも子供心を商業的にくすぐることを主とするかの地とは、華
やかな娯楽を享受できる点は共通とはいえ、ここはむしろ汎年
齢的に知的好奇心や美的感覚を刺激する「大人の遊び」を提供
する観光地である。
 園内を歩く人々も、年かさの夫婦や子供連れの割合が多く、
賑わっていながらもどこかに落ち着いた雰囲気がかもし出され
ていた。

 オランダ風の田園風景を再現したエリア「キンデルダイク」
の花園の上には、本場オランダやドイツから招聘されたプロの
楽団や大道芸人が奏でる音楽が優雅に流れ、精巧に移築された
白亜の古城や壮麗な美術館やホールが青空にそびえている。
 庭園の間にはこれもオランダらしい運河が縦横に走り、穏や
かな水面をゴンドラが観光客を乗せてゆっくりと滑っていくの
は、まさに水の都の趣である。
 
 その手前にある13世紀の古城を精密に再現した「ナイアン
ローデ城」の赤煉瓦造りの城壁が、このテーマパークの入口に
なっている。北東の川向こうにあるJRハウステンボス駅に到
着した特急から、数多くの観光客や修学旅行の一団が吐き出さ
れ、城内の入国手続きゲートに向かって列をなして来る。

 視線を遠く南に向けると、全高100メートルを越えるラン
ドマークタワーである「ドムトールン」が、そのゴシック様式
の精緻な装飾に包まれてパーク全体を睥睨しているのを、どこ
からでも見ることができる。

 そしてさらに南の海岸沿いには、これもオランダの波止場を
模した「スパーケンブルグ港」に沿って、五つ星のホテルと繁
華街が並び、さらにヨットハーバーに整列するヨットの白い船
体が陽光を反射して目に眩しい。沖では色とりどりの帆を広げ
たヨットが滑るように水平線に向かっていった。

 港前のオレンジ広場には、400年前に来日した三浦按針ゆ
かりの帆船「デ・リーフデ号」がその壮麗な船体を横付けし、
船首をドムトールンの方角に向けて係留され、日蘭交流の浮か
ぶモニュメントとなっている。
 
 そこに、新たな風が吹いた。

 沖合から姿を見せた連絡船オーシャンライナーは赤と黄色の
ストライプが描かれたスタイリッシュな高速艇で、大村湾を縦
断して長崎市から海上の空港を経て、ハウステンボス南端のス
パーケンブルク港に入ってくる。

 マリンターミナルには湾内を観光する大型帆船やロイヤルク
ルーザーを始め、多くの船が停泊している。そこに面する最高
のロケーションに位置する豪勢な「ホテル・デンハーグ」の前
で、連絡船は滑るように接舷した。

「到着いたしました。お足元にお気を付けて…」

 係員が船をもやい綱で係留したり、荷下ろしに取りかかった
りする中、アテンダントに促されて客室の扉が開いた。

 その船から、お揃いのセーラー服に身を包んだ少女たちの一
団が降りてきた。

 どこかの女学校の、何の変哲もない修学旅行の集団に、普通
ならば特別な注意を払う者はいない。

 陽気な、けれどどこか気怠さが漂いつつあった港に、しかし
突然、涼やかな一陣の風が吹いた。
 周囲の観光客たちが、思わず足を停めるほどだった。

 色とりどりの髪の色、様々な階調の肌の色をした、世界各国
の少女たち。国際色豊かな女子高校生の一団は、しかもみな一
様に、目の覚めるほどに可憐な美少女揃いだった。

 修学旅行としてはこぢんまりした十人ほどの集団だが、どの
女生徒も個性的で活き活きしており、十代の若さに裏打ちされ
た輝きに満ちあふれている。上品な菫色を基調にしたセーラー
服に純白のスカーフ、きれいなプリーツの入ったスカートを翻
した姿は、清楚この上ない。
 陽気にさんざめく少女らしい会話も、今どきの若者らしい明
け透けな言葉を交わし合っているのだが、その澄んだ声はどれ
も清澄なカリヨンの自鳴鐘のハーモニーにすら似て、あたかも
妙なる音楽を奏でているかのようにすら思われた。
 
 少女たちは開放感に満ちた笑顔をその端整な表情に溢れさせ、
軽やかな歓声をあげながら海風の薫る石畳のプロムナードに集
った。

 この麗しい乙女たちの談笑する姿に、他の人々は思わず耳目
をそばだてていた。同じ修学旅行生らしい他校の男子生徒達が
携帯電話でひっきりなしに写真を撮ったりしていたが、あまり
の華麗さにか、遠巻きにしているばかりで近寄ろうとしないの
は、美少女たちの侵しがたい高貴なオーラを無意識に感じてい
るのだろうか。

 そして、少女たちも周囲のことなど全く歯牙にもかけないで
いる。

 少女たちの関心は、全て自分たちの輪の内側に向いていたの
だ。

 色とりどりの花にも似た極上の美少女たち、だがその中央に
いたのは、なぜかその少女たちの中でも一番目立たず、一番地
味に見える、特に何の特徴も目立つところもない、日本人の少
女だった。
 おまけに、唯一この少女だけが、福岡で購入したらしい福岡
ソフトバンクホークスの野球キャップを頭にかぶっているのが、
かえってその「普通さ」を強調してしまっていた。
 
 しかし、他の華やかな美少女たちは、明らかにその何の変哲
もない少女を最も特別な存在として接していた。それはまるで、
あたかも暖色溢れるワトーの宮廷画のごとくに、その少女を高
貴な王女として賛美し、全員が少女に仕える侍女然としてかし
ずいているかのようだったのである。

 その当の少女はといえば、どこか恥ずかしそうに、頬を染め
て困惑しながら、他の美少女たちの過剰な賞賛をくすぐったく
感じ、居心地悪そうに帽子のつばに目を隠していた。
 だがその横にピッタリと寄り添って、左腕を抱きしめるよう
にしがみついているプラチナブロンドの美少女は、その日本人
少女よりやや背が高く華奢である一方で、他の美少女たちの中
でも群を抜いた可憐さと気品を漂わせつつ、少女への周囲から
の賞賛をあたかも当然であるかのように、昂然と胸を張って、
誇らしげに少女の表情を窺っていた。

 まるで、救世主への賛美を我が事のように喜ぶマグダラのマ
リアのように。

 その後を追って、オーシャンライナーから下船したのは、引
率の教員ふうの、二人のうら若き美女だった。黒髪を靡かせた
色白の日本人の美女はシックなビジネススーツ姿の中に慈愛と
責任感を漂わせ、一方、ブロンドヘアに小麦色の肌の大柄なア
メリカ美女は、同じスーツ姿でありながらその豊満な肉体をは
ち切れそうなほどに誇示しながら、快活な笑みを満面に浮かべ
て小走りに少女たちに駆け寄った。

「はーい、お疲れ様。ターミナルで手続きしたらホテルに移動
しマース」
 引率の旗を手にして、金髪の美女が少女たちに呼びかけた。

 すでに少女たち各々のスーツケースはポーターの手で船から
降ろされ、運搬車で運び出されようとしていた。

「ねえねえ、ホテルはどこなの?もしかしてここ?」
 一番活発そうな赤毛のボーイッシュな少女が、期待に満ちた
目で傍らに建つ豪華最高級ホテルを見上げた。

「ざんねーん、ビレト。うちが泊まるのはあっちよ」
 日本人の引率美女が、しかし少しも残念では無さそうに、西
の方を指差した。

 美女が指し示したのは、その最高級ホテルの背後に広がる森
林と湖のエリアだった。湖面には白鳥が群をなして優雅に泳ぎ、
運河の海水とは異なる淡水湖の澄み切った水面が、地上の緑を
映し出していた。
 その湖畔に、いくつものコテージが林立し、湖面にその木造
の鏡像を落としている。煉瓦壁が瀟洒な2階建ての別荘風コテ
ージは、どれもが湖にテラスを張り出させていた。野鳥が飛び
交うたたずまいは、喧噪のテーマパークに接していながら、別
世界のような安らぎに満ちた静けさを湛えていた。

 自然に密着する魅力的な環境の宿泊施設に、少女たちもかえ
って喜びの歓声をあげた。

「今日と明日の宿泊は、あの『フォレスト・ヴィラ』になるわ
よ。それじゃチェックインにGO!園内の入国パスポートはみ
んな持ってるわね?」
 黒髪の美女の確認の声に、少女たちは各自の入場証を取り出
した。
「チェックインして荷物を置いたら、自由行動にしていいから
ね。パスポートに挟んであるマネーカードで、好きなようにお
買い物ができるわ。ただし、使いすぎは禁物。事前に決めたと
おり節度をもって、ね?」

「は〜い」
 少女たちが一斉に返事をする。

「それじゃ、移動しマ〜ス」
 ブロンド美女が旗を振って、まるで自分が一番楽しみである
かのように浮かれながら先導を始めた。
「マキちゃん、早く早くっ」
 日本人美女の手をとって、真っ先に駆け出すブロンドのアメ
リカンビューティ。

「ちょっとアリス、まだプライベートじゃないんだから、はし
ゃがないの!」

 相変わらず幼さの抜けない陽気さが先に立つ相棒に苦笑しな
がら、やむなく一緒に足を早める年上の美女コンビの後ろ姿を、
集団行動の美少女たちは全員、いつものことと承知といった風
情でヤレヤレと目を見合わせながら、自分たちも笑顔で歩き始
めた。

 だが、その中央に取り囲まれている少女…早川咲季だけは、
相変わらず浮かない顔だった。いや、正確には浮かない顔とい
うわけではない。

 咲季は、この旅行中、ずっと緊張していたのだ。

***

 話はこの旅行出発の前にさかのぼる。

***

「お姉ちゃん、お願い!」

 怪獣少女たちの初の外出、集団研修として「修学旅行」が眞
希の手で企画され、出発を数日後に迎えて準備に余念のない日
の夜だった。

 咲季の通う学校とお揃いの制服も、九州まで足を伸ばす旅行
の行程も、交通機関や宿泊施設の手配も滞りなく済ませており、
あとは各自の準備だけ。
 防衛軍基地に収容されている少女たちは、準備ということも
なく、与えられた物品を大切そうにしまい込んだり、制服を試
着したりしつつ、事前研修としてビデオや書籍を学習室で使っ
て予習に余念がない。
 一足先に一般社会に溶け込んでいるラルは、それでも長期の
旅行など珍しいことだったので、咲季たちからレクチャーを受
け、旅行用具を楽しげに買い物をしたりしていたが、それもも
う一段落。
 むしろ、引率者の名目で一緒に行くことになったアリスがの
ぼせ過ぎないようにしなくちゃ、と眞希の方がずっと気をつか
わなくてはなりそうだった。

「何よ咲季、今さら行くのがイヤになったの?」
 からかうように眞希が言った。

 実際、旅行が本決まりになるまで、咲季はずいぶんゴネた。
怪獣退治がうち続いたせいで学校を休んだり早退したりが重な
り、その上のんきに長期の旅行なんかしてられない、という気
持ちだったのだ。
 バイトとは言え世界の平和を守る崇高な仕事であるがゆえに、
幸い欠席扱いにはならなくてすむのだが、学校の授業について
いけるかどうか、柔道部の練習がおろそかにならないか、咲季
は気が気でなかった。

 とは言え、旅行行きが決定し、その上、全泊ラルと二人きり
で同室、という条件をゲットしたことで、ようやく咲季もその
気になってきていた、はずだった。

「行かないなんて言ってないでしょ。…お願いがあるの」
 そう言って、咲季は手にしていた銀行の通帳を差し出した。

「?」
 訝しげに見つめる姉に、咲季がはにかんだように呟く。

「その…旅行の最後にはハウステンボスのホテルに2泊するん
だよね」

 その通りだった。飛行機で博多に行き、福岡・北九州・長崎
で研修しながら各一泊し、最後に長崎から船で移動してハウス
テンボスで2泊、という計画になっている。

「それで…お願いしたいんだけど…」

「何を?」
 何となく想像はついた、という顔で眞希が訊き返す。

「最終日の夜だけ、ラルと一緒の部屋に二人だけで泊まりたい
の、で、できれば、その…」
口ごもる咲季。
「……スイートに…」

 自分のわがままはじゅうぶん自覚している、ということをち
ゃんと伝えようと、咲季は急くように自分名義の通帳を開いた。

「無茶なのはわかってるし、修学旅行が団体行動っていうのも
わかってるの、だけど、どうしてもお願いしたいの、で、差額
はわたしがちゃんと出すから、わたしの貯金全部使ってもいい
から…」

「咲季ねえ、あんた、スイートって何だかわかってるのよね?」
 一点、意図を量りかねた眞希が訊いた。

「…わかってるもん」

「なによ、新婚初夜の気分でも味わいたいわけ?」

「…気分じゃないもん。本気でラルとロマンティックな初夜を
迎えたいの。パジョーの時にもせっかくの高級ホテルに泊まれ
たけど、落ち着けなかったし…」

「あ、あのね、咲季」
 さすがにあきれて、眞希が声をあげた。
「何を今さら言ってんの。あれだけ毎日いちゃついていて、初
夜も何も無いでしょうに」

「…だって…」
 咲季がなぜか顔を真っ赤にして伏せた。
「…まだ、なんだもん」

 眞希には、その意味がわからなかった。
「?」

 視線を下に向けたまま、咲季が姉に近づいた。赤面する妹の
愛らしい顔がぐっと迫ってくることに、思わず心臓がドキッと
高鳴ってしまった眞希だったが、咲季が耳元に囁いた言葉に、
すぐに自分の耳を疑った。

「うそ」

「…」

「ホントに?冗談じゃないのよね?」
 聞き質すにはいられなかった。

「…」

 頷きも何も、身じろぎもしない咲季の姿に、その言葉が真実
であることを悟り、眞希は半分狼狽したかのようになり、やっ
とのことで言った。

「…ウソでしょ…あんたたち二人とも、まだ処女なの!?」


 咲季が説明したところでは、こういう事だ。

 クイーンズ・ビーは、胎内での咲季の性的なエネルギーがパ
ワーに転換され、怪獣を倒す。咲季が怪獣少女にエクスタシー
を与えることによって、最強攻撃ファイナル・スタナーを起動
させるのだ。
 しかし、精神体になって機神と一体化する咲季には、避けら
れない副作用が及んでしまった。機神のあまりにも強大なパワ
ーと咲季の小さな肉体とが等価になってしまうため、そこに凄
まじい落差が生じてしまうのだ。

 咲季の身体にはクイーンズ・ビーのパワーが常時流れ込み、
それが肉体的なポテンシャルを常に最高の状態にしてしまう。
 例えば細身で小柄な咲季だが、その柔道のレベルはすでに高
校生のレベルではなく、技術、体力、パワーのどの面でも群を
抜くようになっていた。
 また、女性としても性愛パワーを溢れるほどに付与されたせ
いか、女性としての美しさも磨かれてきていた。かつては少年
のように生硬な体格だったのが、最近はその柔道の強さにもか
かわらず、身体の曲線も少しずつ滑らかさを増し、スタイルも
良くなり、胸やお尻の膨らみも以前より大きくなってきたよう
である。
 肉体的に無制限にも等しいポテンシャルを与えられたその結
果、ついには、疲労を感じることも滅多になくなり、眠ること
すら必要ではなくなってしまった。一睡もせずにラルと甘い一
夜を過ごしても、翌日に眠気に襲われることも疲労感を貯めこ
むことすら無い。

 良いことづくめのようであり、咲季自身もそれは嬉しいこと
だったのだが、無論、世の中はそんなに都合が良くはない。マ
イナスの一面もあった。全身の機能が極端に向上した結果、咲
季は全身の感覚もまた異常なほどに過敏になってしまったので
ある。
 そしてその状態は、タンデム搭乗するようになってからのラ
ルもまた同様だった。


「だからさ…、ちょっと怖いな、ってのと、感じ過ぎちゃうせ
いで、わたしもラルも、その…。慣れたらだいじょうぶなのか
なって思ってたけど、逆にますます敏感になっちゃって…。ち
ょっと触っただけで、イッちゃうんだもん…」

 顔を真っ赤にして愛しい美少女との性生活を告白する妹に、
眞希はあきれながらもゾクゾクせずにはいられなかった。

「…つ、つまりアンタは、ラルちゃんとあれだけ、ほぼ毎晩夜
通し近くハアハアしちゃって数ヶ月ものあいだ、今までずっと
指一本突っ込んでもいなかった、ってこと?」

「お、お姉ちゃん、そんな下品…」
 茹で蛸のようになって咲季がうつむく。
「ゆ、指も何も…抱きあっただけでも頭がぼーっとなって、胸
だけで何度もイッちゃって…あ、あそこに触っただけで気を失
っちゃいそうになるし…、それ以上先に行ったらいったいどう
なっちゃうのか、怖くなって…」

「で、今回の修学旅行をいいきっかけに、思い切ってラルちゃ
んと一線を越えて、もっと深い関係になりたいと、こういうわ
け?」

「う、うん…。修学旅行だけど、せっかくステキなところに泊
まるんだし…。記念っていうか、いい想い出にしたくって、そ
れで…」

「新婚さん気分で、スイートルームで初夜を迎えて、いっしょ
にロストヴァージン、って?ヘンなところ純情なのね」
 恥ずかしがる咲季をちょっといじめてやりたくて、姉が揶揄
するように言った。

「…だめ、かなあ…」
 咲季が上目で見上げる。

「修学旅行は遊びじゃないのよ」
 明らかにわざとらしく先生口調で眞希が言いはなった。
「それに、団体行動が基本です。他のみんなと別行動で、勝手
な行動を許すわけにはいかないわ」

「それは、その、そうだけど」
 咲季がまた目を伏せた。

「それに、この通帳の額じゃ、まだまだね」
 眞希は、咲季の貯金通帳を手にして、ポンポンと左手を叩い
た。

 実際、きまじめな咲季の通帳にはたっぷり6桁の貯金があっ
たが、五つ星の超高級ホテルでスイート1泊を二人で過ごすに
は、少々厳しい額ではあった。
 しかし実は、別通帳にして眞希が管理している咲季の貯金に
は、クイーンズ・ビーで町を救った功績に対して防衛費から振
り込まれた「バイト代」が桁違いの額で振り込まれていたのだ
が、知らぬは咲季ばかりである。

「でもっ」
 眞希が破顔一笑した。
「こんなに純情で可愛い妹が、恋人との一夜を演出したくて、
自腹を切ってお願いしてくるんじゃ、姉としてはむげに断れな
いわよね」

 ハッと頬を紅潮させる咲季。
「それじゃっ」

「世界を救い続けてる英雄のお願いだもの。どんなゴリ押しだ
って通してやるわよ。ま、せいぜい過度な期待をしときなさい」

 そう言って眞希は、この上もなく嬉しそうな顔をしている妹
そっちのけで、ガイドブックを引っぱり出した。長崎ハウステ
ンボスでいちばん高級で華やかなスーパースイートを確認する
ために。

***

 そういうわけで、わたしたちは修学旅行に出発したわけ。

 東京を出発して飛行機で博多に。そこから福岡で1日半、北
九州市を通って長崎で2泊。そしてこのハウステンボスで2泊、
というスケジュール。

 なんで修学旅行が九州?とも思ったけど、高校ではもう京都
や奈良には行ってたから、わたしにとってももの珍しかったし、
何よりハウステンボスは行ってみたかったし。それに、ホーク
スの地元でナイターの試合が見られたのも嬉しかったな。ホー
クスタウンに泊まって、ヤフードームでホークスのナイトゲー
ムを見るのは、隠れファンとしては夢だったんだもん。

 みんなも、ずっと狭い施設に缶詰状態で毎日を過ごしていた
から、楽しくて仕方ないみたい。見るもの全てが珍しくて、興
味津々。あ、もっともドラウプニルはゆかりちゃんと一緒だし、
カルパタルは千穂先生にデレデレ仔猫ちゃん状態で、やむなく
お留守番だけどね。
 それに、旅行組も自然にカップル化しちゃって、たいていは
ペアになって行動してる。アラストルとヴェルドレは言うまで
もないくらいにアツアツだし。内気なザンガーは元気いっぱい
なビレトに引きずり回されて、逆にまんざらじゃないみたい。
 マヤさんはまだちょっとみんなと距離を置いてるけど、しょ
うがないかな。でもどことなくクラス委員長みたいな感じが堂
に入ってる。みんなにあれこれ指図するのもサマになってる。
やっぱりカリスマ性が違うのかなあ。

 で、あたしと言えば、ラルと二人でウキウキ気分…って、あ
れ、何だか…。

 ラルの様子がおかしい…かな。

 確かにずっとそばにいてくれて、いつも以上に密着して、い
つもよりもすごく楽しそうなんだけど…。

 何だかよそよそしい。
 声をかけても、一瞬不思議そうな、不安そうな、そんな影が
よぎる。それが出発以来、日に日に目立ってきている。今も、
こうして腕にしがみついて来ているのに、なのに目は伏せたま
ま、視線を合わせようともしてくれない。

 どうしちゃったんだろ?わたし、何かマズイことしちゃった
のかな?

 このままじゃ最終日の「初夜」が台無しだよ…!

***

 サキのバカっ!

 …い、いけないいけない、私がサキの事をそんなふうに言う
なんて、我ながらどうかしている。こ、この口が、この口がっ…。

 でも…。
 どう考えてもおかしい。

 旅行に出発する前は二人ともウキウキしていた。団体行動が
基本ではあるけど、ほとんどが二人で一緒にいられることを認
めてもらってからは、二人で何をしようか、何を見ようか、何
を食べようか、などとガイドブックを間に挟んで盛り上がって
いた。

 ところが、出発の数日前になって。

 急にサキが無口になった。
 それまではいつもとかわらなかったのに、いきなり顔を合わ
せると真っ赤になって身をこわばらせ、目を背けて、そそくさ
と離れていった。それでも後をついて行くと、足を早めていく。

 何があったの、サキ?

 いつもずっと避けられているってわけじゃない。大半はいつ
もとそれほどかわらない。ただ、二人っきりで良い雰囲気にな
ったりしたら、急に我に返って慌ててごまかしたりする。

 サキが私に何かを隠している。私の知らないことを、サキが
知っている。

 何て不安なんだろう。

 私は何とかして不安をごまかそうと、旅行中ひたすら陽気を
装っていた。意識してサキに密着して行動を共にしてきた。サ
キの腰が引けちゃうくらいに。
 でも、サキはずっとよそよそしいまま。私の切ない思いは空
回りするばかり。

 サキ…。

***

 フォレスト・ヴィラの瀟洒なコテージに三々五々入っていく
少女たちを、少し南に離れたシンボルタワー・ドムトールンの
展望台から見下ろしている三人の姿があった。人気スポットで
多くの人々でごった返す喧噪でありながら、なぜかその三人組
がいる窓際はすっぽりとエアポケットのようになっていた。

 三人は、どこかの修学旅行の女子高校生らしかった。菫色の
セーラー服は咲季たちの制服とよく似ているが、ワンピース型
であることと、そしてなぜかスカーフの色が三人ともバラバラ
だった。

「ふうん、あの子が噂のサキちゃんか」

 三人の中で一番目立つ鶸色の髪をした白いスカーフの美少女
が、妙に愉快そうに唇をほころばせて、窓から見下ろした。だ
が、いかにランドマークのドムトールンからとはいえ、フォレ
スト・ヴィラにいる人間を望遠鏡も使わずに識別できる距離で
はない。
 しかし少女たちの目には咲季たちの顔すらよく見えているよ
うだった。

「そうよ、リグリア。あれが機神の操縦者。…私たちの敵って
わけよ」

 黄色いスカーフを締めた、栗毛色の髪の美少女が、どこかけ
だるさをたたえて、手すりに寄りかかったまま答えた。

「へえ、ホントにごく普通の子なんだねえ。周りがみんなかわ
いこちゃんばかりだから、なおさら地味に見えるなあ。で、ウ
ルスラはどうすればいいと思うの?」
 
 この二人は、外見的にはひどく対照的だった。笑みを絶やさ
ず愉快そうに眼下を眺めているリグリアと呼ばれた白の少女は、
脱色した髪をしきりにかき上げる仕草と共に、どこか斜に構え
て全てを見ているかのような風情があった。
 一方のウルスラと呼ばれた黄の少女は、カチューシャで前髪
を留めた聡明そうな額の奥に全てを隠し、一見するとずいぶん
ノンシャランな仕草とアンニュイな苦笑の背後に、よこしまな
ほどの鋭い計算高さを潜ませている。

「そうねえ…あの子をサクッと殺しちゃえば、話は簡単なのよ
ね。でも、それじゃ面白くないな…」
 ウルスラが冷酷な本性をちらりと垣間見せたが、リグリアに
とっては聞き慣れた口癖らしく、顔色一つ変えることもなく聞
き流した。

「面白いとか、そういう問題じゃないわ」
 そこに第三の人物が割って入った。
「私たちにとって必要なのは、あの操縦者じゃなくて、機神そ
のもの。起動してきたところをできるだけ無傷で捕らえなくて
は」

 第三の少女は、白と黄の少女に比べるとぐっと落ち着きのあ
る黒髪の乙女だった。肩にかかるストレートの黒髪に、いちぶ
の隙もない服装の着こなしと立ち居振る舞いは、沈着冷静な知
性と精神の修練を感じさせた。

「そのためにも、まずは計略が必要になるでしょうね。機神を
呼び寄せる段階で、私たちが有利に機神を制圧できる状況を作
り出すようにしなければ」

「ふふん、さすがは慎重居士のドラクニアだ、相変わらずずい
ぶん回りくどいな」
 空を見あげるリグリア。
「雲が気にくわないから作戦は延期、とか言い出しかねないな」

「たとえ私たちの実力が機神を下回るはずはないでしょうけれ
ど、年には念を入れてね。ウルスラ、貴女のアイディアをぜひ
採用したいわ。あの操縦者を搦め手から締め上げていく作戦、
思いつくかしら?」

 ドラクニア、と呼ばれた赤いスカーフの美少女が、まるで挑
発するかのように黄の少女に言った。

 お鉢が回ってきたウルスラが、何も答えない代わりに、唇の
端を奇妙なほどに歪ませた。このカミソリのような頭脳を誇る
美少女が、しかし自分の興が乗らないと本気をなかなか出さな
いことを、ドラクニアは熟知していたのだった。

 三人の美少女は不敵な微笑を三様に浮かべつつ、その姿を一
瞬で消した。だが周囲の人々でその超自然現象に気づいた者は
一人もいなかった。超常能力によって周囲の三人への認識が完
全に遮断されていたのみか、三人のいた場所をも無意識に回避
するよう操作されていたのであるが、そんなことがなせる三人
の正体はもとより、そんな現象すら知覚できる者などその場に
いようはずもない。

 三人が消失したところは、何事もなかったかのように、あっ
という間に雑踏に呑み込まれていった。

***

「え?え?えええ?えええええ?!!」

 あたしは、ラルの言った言葉が理解できなかった。

 コテージの部屋に荷物を置くと、あたしはラルを連れて外に
出かけた。もう昼下がりで、今日は研修もなくて夕食までは自
由行動だったから、あたしたちは二人っきりで華やかな中心街
に繰り出した。と言ったって、ささやかなものよ。オランダの
アクセサリーやアンティークをウィンドウショッピングした程
度。それだってあたしたちにとっては珍しくてしかたなくて、
わくわくしっぱなしだった。
 ラルも久しぶりににこやかで、あたしはすっかり安心しきっ
ていた。ラルの様子に感じていた違和感も忘れてしまっていた。

 あたしたちは、旅行前から行きたくてしかたなかった「チョ
コレートハウス」にまで足を伸ばした。あたしもラルもチョコ
が大好きで、パンフレットを読み始めてすぐに、二人で必ず行
こう、と約束したお店。
 店の中央に本物のとろとろチョコが4メートルも流れ落ちる
チョコレートの滝と、そこからいっぱいに広がる甘い香りにウ
ットリしながら、予約席についたあたしたちは、チョコフォン
デュとチョコピッツァに歓声をあげた。

 笑顔いっぱいでチョコフォンデュに串に刺した二個目のバナ
ナを浸けた、その時だった。

 それが、あの言葉…。

「サキは、私のことが、嫌いになったの?」

 青天の霹靂。こないだ読んでた本に出てきて、読み方を調べ
たよなあ、ヘキレキ。急に雷が落ちること。カミトキ、とも読
む、だっけ。
 そんなバカな連想が頭の中でいっぱいになったあたしは、口
元のバナナを頬張ろうとした口を開けたまま、固まってしまっ
た。

「な、なな、何を言って…?????」

 ラルは目を伏せて、紅茶に注いだミルクがゆっくり渦を巻く
のを見つめている。

「だって…せっかく家を離れて知らない土地に旅に出て、いつ
もよりも一緒に、いつもよりもそばにいられると思ってた。確
かにずっと、いっしょに行動して、いっしょにいろんなものを
見て、聞いて、夜はいっしょのお部屋に泊まって…楽しいんだ
けど」
 言葉を切って、ラルが目を上げた。その目は、あたしの目を
まっすぐ見据えていた。 



執筆中

 



第15話「超鋼美神西へ(後編) / 合体生体円盤機獣ロゼクロワ登場!」に続く   第10話〜第13話ダイジェストに戻る

 

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