鞭と髑髏 Peitsche und Totenkopf / 隷姫姦禁指令

 

8・月下の隷従 Die Sklaverei unter dem Mondschein

 

「…少佐」
 クラリスが囁くように呼びかけた。だが少佐は相変わらず微
動だにしない。

「これで二度目ですね。貴女が犬を殺したのは」
 クラリスの言葉に、ラナが訝しげに顔を上げた。
「そして、私を救ってくださったのは」
 ヘルガの眼鏡が微かに動いたせいで、反射した月光が光った。

 目を伏せるクラリス姫。
「カールを殺された時は、貴女を恨みました。今でもその気持
ちはぬぐえません。…でも、あのままにして私を犯させれば、
もっと私を苦しめることができたのに、どうしてそうしなかっ
たのですか?」

「…」
 ヘルガ少佐は無言を守るばかり。

「そして今、貴女は自分で手塩にかけて育てた犬たちを、その
手で殺してしまった。私たちを救うために…」

「……」
 やはり、銃を掲げたまま何も言わないヘルガ。

「私は、ずっと気がつかなかった…。いいえ、気がつかないふ
りをしていたのかもしれません。貴女の、そして自分自身の、
本当の想いに…」
 クラリスが目を上げた。

「黙りなさいっ」
 ついにヘルガが口を開いた。
「お前は奴隷で私が支配者。それだけのことよ」

「その通りです」
 クラリスは穏やかな表情のまま、その胸に両手を当てて頭を
垂れた。
「私は、ずっとそれを否定しようとしてきました。そして、貴
女の元からこうして逃げました。…でも、貴女に二度救われて、
やっとわかりました」

「…」
 銃口が、少し傾いだ。

「…これも、愛の形なのだと」
 クラリス姫が、はっきりと言った。

「世迷い言を」
 ヘルガが嘲罵した。だが公女はそっと視線を右に落とした。

「ご自分の身を傷つけてまで、私たちを救っていただいたこと
が、十分な証しだと思います」
 そしてクラリス姫は、一歩歩み出た。

 公女の動きにヘルガ少佐はキッとこわばって銃を構え直した
が、クラリスはかまわず歩み寄った。
「願わくば、お慈悲を垂れ給い、奴隷の身でありながら思慮浅
い愚行を犯してしまったことへの償いを容れていただきたいの
です」
 そう言いながらクラリスは、親衛隊美女の前にひざまづき、
その左手をとった。その指にはすでに傷ついた腕の血が伝って
いた。
「これが、何よりも語ってくれています。貴女の、想いを…」

「放しなさい!」
 荒々しく左手を振りほどき、ヘルガ少佐は銃口をクラリスの
額に当てた。

 だがクラリスは穏やかな表情のまま、再び少佐の左手をとっ
た。そして、その甲に敬愛をこめた口づけをしたのだった。
 顔を上げた公女の唇に、真っ赤な血が残っていた。

「脱走の罪に、どんな罰をお下しくださってもかまいません。
たとえ私の命で贖わなければならないとしても受け入れます」
 クラリスは再び目を伏せた。
「貴女は私の支配者。そして、私は奴隷。…それが、私の愛の
形でもあることを誓います」
 そう言って、古き血の末裔として高貴なる高みにあった…い
や、今も依然として高貴な魂を保ったままの聖なる公女は、這
うように地に伏すと、はっきりと告げた。

「…meine Frau Herrin(私のご主人さま)」

 そしてクラリス姫は、ヘルガが履いている泥だらけの軍靴に
顔を寄せ、そっと忠誠の口づけをした。…あまねく自然に神を
感じ、豊かな生活も身分も捨てて神に身を捧げた布衣の聖人の
ように。

 顔を上げてすがるように見上げるクラリス姫の顔に、さっき
の血痕と、そして泥がついていた。それを見下ろすヘルガが、
どこかぎこちない手を差し伸べて、公女の白い顔から丁寧に汚
れを拭った。
 だが、親衛隊美女はなおも能面のような表情を崩さず、夜の
闇を映すばかりの眼鏡のレンズの向こうから、自ら奴隷となる
ことを受け容れたクラリスを見つめるばかりだった。

「お願いがあります」
 クラリス姫が囁きかけた。
「貴女の奴隷となる私の、たった一つのわがままです」
 無言のままのヘルガ少佐に、公女はおずおずと、震える手を
差し伸べた。
「…どうか、その目を、見せてほしい…」

 いつか、恍惚の中で想ったその願いを、クラリスは口に出し
て言った。
 伸ばした右手が、ヘルガの眼鏡の左のつるに触れた。はねつ
けるかと思った親衛隊美女は、しかし公女の手を払いのけるこ
ともなく、逆に銃を持ったままの自分の右手で眼鏡の右のつる
をつまんだ。主人と奴隷のささやかな共同作業で、ヘルガ少佐
の耳からつるが離れ、その眼鏡が外れた。

 月明かりに照らされた、残酷無比、冷酷無情の女将校の瞳…。
 だが、その瞳は深い深い海の底にも似た、透き通るほどに澄
み切った碧色だった。そう、クラリス姫と同じ…。

 憑かれたように自分と同じ美しい碧眼を見上げていた公女を、
いきなりヘルガ少佐が突き倒した。激しくはなかったが、勢い
でクラリスはお尻からどんっと地べたに倒れた。一瞬混乱した
クラリスをそのままに、ヘルガ少佐は足音も荒く、すぐそばで
成り行きを固唾を呑んで見守っていた幼い侍女に向かって行っ
た。
 そしてやにわに、手にしていた銃を持ち直すや、その銃口を
ラナの額に押しあて、恐ろしい顔で睨みつけた。

 いきなりの無言の処刑宣告に、ラナは反射的に恐怖で身をす
くめた。だが、自分がクラリス姫をそそのかして脱走に連れ出
したこと、最新兵器であるオートジャイロを乗っ取り破壊した
こと、そして何よりも、自分の主を裏切ったことは、明らかに
死に値する罪であった。
 ラナはその童顔に、すでに悟ったような諦観を浮かべていた。

「だめ、ラナちゃんは、だめですっ、お願いっ、ラナちゃんは
ただ私のために…っ!」

 倒れたまま叫びながら立ち上がろうとする公女を、親衛隊美
女はいつもの冷徹な声ではねのけた。

「主人に逆らった奴隷には、死あるのみ」
 地獄の底からの断罪のような、凄まじい声でヘルガが呟いた。

「姫さま、どうか、お幸せに…」
 愛する公女が、真にその想いを預けるべき存在に身を任せる
姿を見ることができて、今のラナには何も思い残すことはなか
った。少女は目を閉じ、これもまた確かに愛しい存在であるご
主人様の断罪を、むしろ穏やかな気持ちで待った。

「だめ、だめええっ!ラナちゃん!」

 ヘルガが、そのダブルアクション式拳銃の引き金を、ためら
いもせずに引いた。あの犬たちのように脳天を撃ち抜かれる哀
れな少女の死の姿が、クラリスの目の奥に浮かんだ。

 だが、銃声は鳴らなかった。
 カチリ、と撃鉄の金属音を森の中に響かせた拳銃は、しかし、
火を噴かなかった。ぎゅっとまぶたを閉じ、眉根を寄せて、死
の刻を待っていたラナだったが、痛みも何も伝わってこないこ
とに、恐る恐る薄目を開いた。
 悲惨な光景を予感して、これも目を閉じ顔を覆っていたクラ
リス姫も、訝しく指の隙間から様子を窺った。

「運の良い奴隷ね」
 仮面のような無表情を崩すこともなく、こともなげにヘルガ
が言った。
「弾切れだわ」

 ラナが、へなへなとへたり込んだ。そのまま失禁してしまっ
たのは、仕方のないことだった。
 クラリスも全身の力が抜け、安堵のあまりに倒れ伏してしま
った。

「仕方ないわ。…ラナ、お前には別の罰を与えます」
 ラナに背を向けて、ヘルガ少佐が宣告する。
「…そのまま、そこで見ていなさい」

 そう言い捨てると、ヘルガ少佐は困惑するラナに目もくれず、
まだ倒れたまま、愛らしい侍女が助かったことの喜びを噛みし
めていた慈愛深き公女に歩み寄った。そして、ぐったりしてい
たクラリスを抱き起こした。

「少佐…」

「…クラリス…姫…」
 扶け起こした公女の淡桃の唇に、まるで初々しい処女が意を
決したかのように、むしろたどたどしい仕草で、ヘルガが真っ
赤な唇を重ねた。

 ねっとりと絡み合う、二つの唇と舌。
 公女の白い裸身を抱き寄せる、黒い軍服の美女。
 栗毛色の高貴な髪を荒々しくかきむしる手。
 抱き寄せる美女の腕に支えられながらも、その唇に身を伸ば
そうとしてつま先立った、公女のいたいけな足裏。

 やっと顔を離したヘルガ少佐の顔は、いつになく激昂してい
るかのようにも見えた。
「お前は、私のものよ!」

「はいっ!」
 クラリス姫は、今まで見せたこともない至福の笑顔で応えた。

 黒衣の女将校が、荒々しく公女を若草の上に押し倒した。仰
向けで見上げるクラリスは、目の前で繰り広げられた光景に茫
然となった。

『…!』

 ヘルガ少佐の軍帽が後ろに落ち、あの練絹のようなブロンド
のストレートヘアが滝のように流れた。それが月の光に冴えて
青白く輝き渡った。
 真っ黒な軍服のボタンが外され、一気に肌脱ぎすると、やは
り黒い下着を纏っているものの、これも美しい白い素肌が露わ
になった。まるで干からびた蛹を脱皮して、純白の蝶に羽化す
るかのように。

 クラリスは、軍服を脱いだ姿のヘルガを見るのは初めてだっ
た。自分をいたぶるのはいつも、この軍服姿だった。今から思
えば、それはあくまでも帝国の意を体現するための鎧だったの
だ。それに縛られて、ヘルガはああいう態度を固持せざるを得
なかったのだ。

 だが、今やヘルガ少佐は冷厳な拷問吏を演じる軍人ではなく、
一人の女へと回帰していった。その姿は、ラナはよく知ってい
たが、クラリスの目には信じられないほどに魅力的に映った。
 そしてヘルガ自身も、何者にも縛られない情愛を思うがまま
にほとばしらせることが可能になった。

 ヘルガの姿態に目を奪われかけた公女だったが、すぐにその
左手の傷跡に気づいた。はっとして身を起こした公女は、自分
たちを救うために傷ついた手にとった。
 幸い頑丈な軍服のおかげで、傷自体は小さかった。流れた血
もすでに止まりかけていた。訓練された軍用犬が狂犬病を保菌
していることはないだろうが、それでも化膿するかもしれない。
クラリス姫はごく自然に、その傷口に口を当て、唾液を含みな
がら滲む血を吸い、吐いた。
 それを何度か繰り返した公女に、美貌の少佐はもうじゅうぶ
んとでも言うかのように、その顔を押し上げて、目を見つめる
と、再び、今度はそっと押しのけて草地の上に倒した。

 月光に映えるヘルガの姿が、さらに自らの縛めを解いていく。
扇情的なほどの黒いレースの下着姿になった親衛隊美女は、ま
ずはゆっくりと胸当てを外して、その豊満な乳房を露わにした。
 下から見あげるクラリスが思わず感嘆するほどに、豊満でし
かも張りのあるヘルガの双丘は、リアルな実体感とともに魅力
を放散している。
 ひざまづいたヘルガの上半身がぐっと迫ってきた。揺れる乳
房が、クラリスの華奢な胸やうなじにグイッと捏ねるように押
し当てられた。その肉付きの良い乳房の弾力に、公女は驚くほ
どの快感を覚え、思わず声を漏らした。

「ああ…うっ、くうん!」

「ふふ、あんなに毎日責められたのに、まだこんなに感じちゃ
うなんて。やっぱり淫乱なお姫さまね」

 またヘルガ少佐がいつもの嘲罵を投げかけたが、もはやクラ
リス姫はその言葉にも屈辱に唇を噛みはしなかった。いや、そ
もそもが少佐の言葉自体に、あの刺すようなトゲが感じられな
い。

「…は、はい、わ、私は淫乱な奴隷です…ううんっ!どうか、
どうかもっと…」
 自分の口から漏れてくるはしたない隷属の言葉に、クラリス
自身が驚きながらも、その自分の言葉によってさらに燃え上が
ってくる快感を否定できない。ヘルガ少佐の乳房に上半身全部
を揉みしだかれ、公女はのたうち回るしかなかった。

 だが、ヘルガはあっさり身を起こして離れてしまった。今ま
で自分の意になることを頑なに拒み、屈辱に震えながらも気品
を失わず、圧制者への敵愾心を忘れなかった大公息女の目を憶
えていた親衛隊美女は、表面的なクラリスの変わりように内心
疑いを抱いたのだった。
 もしも、単にクラリスが性の快楽に堕落しただけなら、それ
はヘルガの望みではなかった。無理な望みであろうが、ヘルガ
はこの高貴な美少女が気高い精神と誇りを保ったまま、自分の
ものになってほしいという、決して両立する見込みのない願い
を抱いていた。そして、それが無理な願いだと自分でもわかっ
ていたからこそ、ヘルガはクラリスに加える拷問をエスカレー
トさせていたのかもしれない。その輝く瞳を曇らせないために、
自分への憎悪をかき立てるように仕向けていたのかもしれなか
った。

 身を離してしまったヘルガに、身を起こして見上げるクラリ
スの目は、しかしやはり澄み切っていた。
 クラリスは屈服したのではなく、自らの意志でこの美女を主
として隷属することを選んだのだった。その想いに、卑屈な汚
点はない。

「では、証明してもらうわ」
 ヘルガが、またその言葉を言いながら立ち上がった。
「ご褒美が欲しければ、奴隷らしく奉仕なさい。働きいかんで
情けをかけるか決めるわ」

 そう言うと、ヘルガはニヤリと笑って仁王立ちになり、わず
かに腰を突きだした。まるで大理石の戦女神のようなご主人様
の立ち姿に、クラリス姫はうっとりとして眩しげに目を細めた。

「は、はい…」

 全裸の公女は四つんばいになってヘルガ少佐の足元に這い寄
り、ブーツを脱いだご主人様の素足に頬ずりした。脛から膝、
そして太股にとゆっくり上に向かってすり上げていく公女の頬
の柔らかさと、それに合わせて撫でさすっていく栗毛の髪の感
触に、ヘルガはゾクゾクっと背中に電気が走るのを覚えていた。

 今のヘルガが唯一身に着けている黒のレースも艶やかなパン
ティに、クラリス姫がおずおずと手を伸ばした。愛しいご主人
さまの秘密の場所を露わにすることへの期待と躊躇に手を震わ
せつつも、公女はその両の細い人差し指をヘルガ少佐の下着の、
腰の上から引っかけるように差し入れた。自制心を失わないよ
うにと思いながらも、いつの間にか息が荒くなっている自分に
恥ずかしさを覚えながら、クラリスは両手をゆっくり引き下ろ
していった。
 なまめかしい腰骨のラインを越えてパンティが下がっていく
に連れて、ヘルガの白い下腹部に滲むように萌え出づるヘアが
露わになった。麝香のような甘い香りが立ちこめるその草むら
に目を奪われながら、公女はパンティを下ろし、それに合わせ
てヘルガが片脚ずつ上げて足首から抜く。その時にちらりと垣
間見えた紅薔薇の花弁に、クラリスは胸をますます昂ぶらせた。

 愛しい奴隷と同じく全裸になったヘルガ少佐が、自らの裸身
を見せつけるように立ちポーズをとり、両脚を少し広げて、ク
ラリス姫のご奉仕を待ちかまえる。唇には相変わらず高慢な笑
みを浮かべているものの、その瞳はどこか潤んでいた。
 数多くの少女を屈服させてきたヘルガも、まるで初体験の処
女のように心が昂ぶっているのが自分でもわかった。息づかい
に上下する乳房も、これからの期待に張りつめ、乳首がぴんと
固くなっていた。

 生まれたままの姿になった親衛隊美女将校の裸像と、股間を
彩る美しい秘叢をうっとりと見上げ、クラリスは感極まったか
のように恍惚として目を閉じた。だが目を閉じても、まぶたの
裏にはクッキリと女神のようなご主人様の真影が残像として残
ることに公女は嘆息した。
 その吐息がヘアにかかったとたん、思わずヘルガは下腹部が
きゅっとなって、感じてしまった。

 クラリスはためらいつつも、さっきラナを天国に導くことが
できた経験を信じて、ご主人様の淫薫たちのぼるヘアに口を寄
せた。そよぐ息が熱くなったと思えた瞬間、公女は淡い桜桃の
ような唇を密着させた。

 その瞬間、思いもよらないことが起きた。

「…ふああっ!!」

 感極まったような声が上から聞こえたと思った途端、クラリ
スは後頭部を激しく掴まれて、ぐっと股間に押しつけられた、
と同時に、その花弁の奥から熱いほとばしりが噴出した。あっ
と驚いた公女の顔が、次の瞬間、美女の淫蜜まみれになった。
 クラリスの唇が花弁に触れたか触れないか、まだ舌すら使っ
ていないうちに、ヘルガ少佐は絶頂に達してしまったのだ。

 甘露のごとき淫蜜を顔に浴び、その媚香にうっとりとなりな
がらも、クラリスはあっけにとられて目を丸くしていた。あれ
ほど高慢に公女をなぶり弄んできた絶対の支配者であるはずの
ヘルガ少佐が、まるでうぶな小娘の初体験のように、愛おしい
少女の奉仕に為すすべもなく陥落してしまったのだから。

 これほどの快感に襲われてしまうとは想像もしていなかった
ヘルガは、膝をガクガクさせながらもかろうじて屈み込んでし
まうことだけは免れた。上気した頬に息を荒くしてしまい、い
つもは冷徹非情の仮面を被っていた親衛隊屈指の美女将校は、
今まで感じたことのない快感にとろけそうな瞳を宙に彷徨わせ
ながら、同時に、思わぬ素顔の感情をさらけ出してしまった自
分の迂闊さを自らなじるように唇を噛みしめていた。

「…いけない奴隷だわっ………ご主人様に、恥をかかせるなん
て…っ」
 崩れそうなほど震えている足腰をかろうじて踏みとどまりつ
つも、ヘルガは公女の髪を両手でつかんで、まるで自分を支え
るかのようにぐいぐい股間に押し当てた。

 ご主人様の淫液にむせ返り、掴まれた髪が痛みながらも、ク
ラリス姫は喜悦の声をあげた。その可憐な淫声に、ヘルガは謹
厳冷酷な親衛隊将校であり続けようと腐心する自分が、むしろ
滑稽な気もしてきた。その一方で、この自分を維持してこそ、
今の至福の時間が成り立つこともわかっていた。

「すぐに謝れないのは、まだお姫さま気分が抜けないせいね」
 顔じゅうを淫蜜に濡らしたまま恍惚に浸っていたクラリスが、
その声に冷たさにハッと我に返った。その目の先に、漆黒に光
る金属の筒が突きつけられた。いつの間にか、ヘルガが再びあ
の拳銃を手にして、公女の鼻先に突きつけていたのだ。

 最も総統の信任厚き親衛隊長直々に下賜された新式拳銃の、
銃身にはヘルガの象徴である鞭と髑髏の紋章が嵌め込まれてい
るのが見えた。
 先ほどのラナへの罰で、その弾倉がすでに空っぽであること
は、クラリスにもわかっている。しかし、それが生殺与奪の機
能を持つ物体であることを思えば、同時に本能的な恐怖がわく
ことを、公女は押しとどめられなかった。

 試されている、と、聡明な公女はすぐに察した。
 ほんとうに自分が、偽り無く、この美しい支配者に忠誠を誓
っているのかを。

 クラリスは原始的な恐怖を抑え込むと、穏やかな顔のまま、
死と支配の象徴たる真鍮色の銃身に頬を寄せた。そして、それ
がヘルガ少佐の一部であるかのように、そっと口づけをした。

 だがヘルガの要求したかったものは、クラリスの考えを越え
ていた。
 ヘルガは拳銃を持つ手にいきなり力をこめ、公女の柔らかな
頬に食い込むほど押しつけた。思わず顔を背けようとしたクラ
リスが声をあげかけた、その瞬間、ヘルガ少佐の拳銃の銃口が、
その口に中に押し込められた。
 さっき撃ったばかりの弾丸の硝煙と、そして錆のすえた味が
広がるのに加え、強引に押し込まれた銃身が喉の奥まで達した
ために、クラリスは思わずむせ返り、身をよじって拳銃を吐き
出して咳き込んでしまった。

「ごほっ、ごほ!」

 喘ぐクラリス姫を、再び衝撃が襲った。ヘルガ少佐が拳銃を
捨て、そのまま両手で押し倒した。そして、可憐な公女の喉首
を、その両手でわしづかみにした。
 何が起こったのかわからないまま、クラリスは目を見開き、
自分の上にのしかかる妖艶な支配者を仰ぎ見た。

 ヘルガ少佐の裸身が前のめりになって、哀れな公女の上に覆
い被さった。その艶やかな金髪がヴェールのように裸身を彩り、
月と星がそれを飾る姿は、まさに夜の女王だった。
 だがその玉のかいなは肌の下の筋肉が盛り上がるのがわかる
ほどに硬直していた。海月の触手が魚を捕らえるように、ヘル
ガの指がクラリスの喉に食い込んだ。その細い首は、ヘルガの
両手で十分に一周して届いた。

 苦痛と、そして血流が止まりそうな圧迫感が、クラリスの頸
部に襲いかかった。
『私は、死ぬの?…この、愛しい方の手にかかって…?』

 自分が死ぬことの絶望と、それと同じくらいの困惑が、酸素
の途切れかかった頭に浮かんだ。何か叫んでいるラナの悲鳴の
ような声が遠くから聞こえた。思いもよらなかったご主人様の
凶行に声を嗄らしながら必死で止めようとすがりついているの
だ。
 だが、ヘルガ少佐は憑かれたように身じろぎもせず、クラリ
スの細首に絡めた両手を外そうとはしない。

 ヘルガは、自分が何をしているのかよくわからなかった。こ
んな事をするつもりはなかった。弾切れの銃を突きつけて威嚇
し、軽いショックを与えるだけで十分だった。
 なのに、銃口を喉に突っ込まれて咳き込むクラリスの姿を見
ているうちに、ヘルガ少佐は凄まじいほど理不尽な恐怖に襲わ
れたのだった。それは軍人として、そして生き馬の目を抜く帝
国のヒエラルキーをかいくぐる生き方が必然的にこの美女の内
奥に刻みつけてしまったのだろう、「他人を信じない」という
悲しい習性がもたらしたものだった。
 うわべを繕い、甘言で近づきながら、その実は我利を計るの
みの巧言令色の徒は、上司にも部下にも無数にいた。その二面
性こそ、この潔癖な美女将校が最も嫌うものだった。しかし、
その嫌悪がヘルガ少佐自身にもはね返り、自らが自身を他人に
は見せず、仮面のように端正な無表情を装い、そして暴力と支
配で他者を推し量るようになってしまったのは、あまりにも大
いなる皮肉としか言いようがない。

 ヘルガが感じた恐怖は、この公女の背信に他ならなかった。
 貞淑な隷従を表面で受け入れたように見せながら、その内心
ではその華奢な身体に流れる高貴な血の矜持がそれを許さず、
服従の仮面の下で軽蔑と反感の蔑笑を浮かべている…。そう思
えてならなかったのだ。
 裏返せばそれは、下層な郷士を出自とするヘルルーガ・イル
ムガルト・デア・フォーゲルヴェヒターなる権力者が、本来は
足元に寄ることもかなわぬ高みに座している大公家の息女を支
配に置いているというねじれた関係が必然的に生んだ、歪んだ
劣等感だった。
 そしてその恐怖は、たやすく憎悪に転化した。

『屈してなお、私を嘲笑うのかっ。許さないっ、許すものか、
貴族や王族の驕慢ごときに、この私が嗤われてなるものかっ!』

 クラリスの喉首にかかる両手に力が入る。その手のひらに、
可憐な少女の気管や広頸筋のうねりや脈動がはね返るように伝
わってくる。痙攣するような筋肉の動きが、異常なほどにリア
ルに感じられた。
 泣き叫ぶラナが必死で手を引き離そうとしているが、今のヘ
ルガには眼中にすら入らなかった。

 だが、その時だった。
 絶望に喘ぎ苦しみながら死の淵に追いやられているクラリス
姫が、一切の抵抗をやめたのだった。両手で閉める首からも、
反発する力が無くなった。

『!』
 ハッと我に返ったヘルガが、いまその命を奪おうとしていた
少女と目が合った。

 今にも死を強いられるとはとても思えない、その穏やかな瞳。
 青く、深く、澄んだ瞳。

 ヘルガの手から力が抜けた。そこには打算的な屈服も、媚び
た悲哀も、反抗的な自尊心も無かった。
 クラリスの瞳から波動のように伝わるのは、純粋な誠心だけ
だった。
 おのれの生も死も、魂も愛も、全てを愛する者に依拠し、ゆ
だねきった瞳だった。

 その汚れない命の全てを、いま自分が握っている。ほんの少
し今より力をこめれば、蝋燭の炎よりも儚く消えてしまう命を。
 何にも代え難い、愛しい魂を。

 ヘルガの両手がはずれた。
 さらに覗き込んだ公女の瞳には、何も変わるところはなかっ
た。
 押さえつけた喉元が鬱血し、白い肌にくっきり指の跡が残っ
ていた。

 やっと安堵の色に戻った顔を上げたクラリスの、長く伸ばし
た首筋に、ヘルガは再び両手を当てた。だが今度は、そこに赤
く浮かんだ手の跡を、ヘルガはまるで慈しむようにそっと触れ
た。あたかも、磔刑の殉教者の聖痕を癒すかのように。

 同じ掌なのに、公女は全く異なる温もりを感じていた。今し
がたまで自分を絞め殺そうとしていた絹のような冷たい指は、
今は逆に熱を帯びていた。その指先は、高貴な少女の忠誠と純
愛を確かめるかのように、まだ痛みに疼く首元をなぞっている。
 やがて氷が溶けるように痛みが消え、その代わりにくすぐっ
たい羽毛のような繊細な指が、まるで竪琴を爪弾くような快楽
の調べを奏でた。その音楽に、クラリスは苦痛も忘れて魂を浸
らせていた。

 すでに危機を脱したことを察して再び引き下がったラナの目
の前で、陰のある白き女神は、我が身を贄に捧げた巫女のごと
き少女の裸身を、飽くことなく撫で回した。
 敏感な首筋、鎖骨のくぼみ、脇腹に透ける肋骨と、次々に触
れていくヘルガ少佐の指先のスピードはますます早まり、その
度にクラリスは全身にぞわぞわ走る身震いにのたうった。

「ああっ!…は、あううっ、くっ…はあっ!」

 耐えきれなくなった公女の唇から、澄み切ったヴァイオリン
のフラジオレットがかかったトレモロのように震える嬌声が漏
れ、ほっそりした上半身のトルソがくねる。柔らかな乳房がそ
の動きに合わせて揺れるのを、ヘルガ少佐は逃すはずもなく、
今度は両手で少女の双丘を鳩尾側からこね上げるように揉み始
めた。
 華奢な体躯のわりに豊かなクラリスの両の乳房の柔らかさと
瑞々しい弾力に、そしてその柔肌の中に固くしこった若芽の痛
いほどの感触に、ヘルガ少佐は無上の愉楽を味わっていた。

『ああ…これだわ、この顔が見たかったのよ、私は…。身も心
も蕩けて悦びにほころぶ、クラリスの笑顔を…』
 鞭の恥辱によって強制的に押しつける愛し方しかできなかっ
たヘルガは、今やこうして自分を全て受け入れる存在を発見し
たことで、何の韜晦を装う必要も無くなったことを実感してい
た。

 クラリスもまた、鞭の洗礼による魂の煉獄を遍歴し、地獄の
深淵まで覗くことを強いられてきた。だがそれによって聖なる
公女は愛の高みがいかなるものかをその身で悟り、至高の天上
に達することができたのである。

 支配者の美女と支配される公女。互いに傷つけあった魂に涙
した時間は、経ざるを得なかった通過儀礼の陣痛だった。
 それを乗りこえた今、二人の世界には無限の愛の悦楽がある
ばかりだった。

 上半身をくまなく捏ね回され、かき立てられた情欲に珠の汗
をにじませるクラリス姫に、今度はヘルガ少佐が覆い被さるよ
うにその成熟した肉体を重ねてきた。そして、可憐な奴隷の気
持ちを確かめるのももどかしいように、金髪碧眼の美女は美し
い公女の唇をむさぼった。

 実戦で鍛えたヘルガ少佐は、正確な射撃をなすために腕には
筋肉がつき、全体に頑健さが浮かんではいたが、しかしそれを
覆って余りあるほどに均整のとれた美の典型と言うべき豊潤な
肢体を露わにしていた。古代彫刻の美神のように端整な肉体に
のしかかられた可憐な公女は、まるで慈母の胸に抱かれた嬰児
のような、不思議な安心感に包まれていた。

 クラリスと甘い口づけを交わしていたヘルガが、やがてその
細長い舌を公女の口の中に差し入れてきた。蛇のように口腔内
をまさぐる美女の舌に、クラリスは一瞬身を固くしたが、すぐ
に侵入者の動きに合わせて、自分も舌を絡め始めた。情愛の激
しさそのままに熱くたぎった舌がねっとりと絡む感触に、妖艶
な美女も年若き公女も、互いに花芯が火照るのを押さえられな
かった。
 ヘルガが舌を引き抜こうとするのを、今度は公女が唇で挟み
こんで逃さない。にじむ唾液が潤滑油になってようやく少佐の
舌が離れたときには、二人とも口元から涎を溢れるほどに滴ら
せてしまっていた。

 間髪入れず、ヘルガがクラリスの頭をその胸に抱き締めた。
ヘルガの豊満な美乳が二つとも公女の顔に押しつけられた。今
度もまた息が詰まりそうになってしまったが、さっきの扼手の
冷酷さとは雲泥の差だった。甘い体香を立ちのぼらせた乳房が、
まるで溶いた石膏のように公女の顔の凹凸を埋めた。あえぎな
がらも公女は、チーズの塊の中に埋め込まれた木の実を探り出
すハツカネズミのように、ヘルガの乳肉の奥から堅くしこった
乳首を口で見つけてむしゃぶりついた。
 クラリスが咥えた乳首を中心に、ヘルガは自分の乳房を円を
描くように捏ねつけ、公女の顔じゅうを圧迫した。しかしそれ
でも公女は口を離さず、咥えられた乳首に乳房が引っぱられる
感覚が、ヘルガ少佐の脳天を直撃した。
「はあっ!ふぅ、く、くあああっ」
 感極まったヘルガの乳房を、クラリスはなおも必死に頬張り、
まるでその中に溜まった美女のエキスを抽出するかのように、
ちゅうちゅうと音を立てて吸った。その音の淫靡さに、乳首を
吸われるヘルガも、吸っているクラリス自身も、さらにはそれ
を脇で聞かされていたラナまでもが、激しく体奥に沸き立つも
のを感じずにいられなかった。

「ふわっ、ふ、ふう、ご主人…さまあ…」

 クラリスがやっと口を離した乳房を使って、ヘルガは今度は
公女の上半身いっぱいに自分の双房を擦りつけた。

「ふ、ふふふ、こ、こういうのは、どうかしら…っ?」

 自分も息を詰まらせながら激しく上半身をグラインドさせる
ヘルガの乳房の洗礼を受けて、クラリスは快感にのたうつしか
なかった。さらにその乳房の動きが、だんだんとクラリスの胸
のふくらみに集中し始める。
 こねくりあう四つの乳房をむちむちと押しつけあうと共に、
敏感に固くしこった乳首がぶつかりあい刺激し合い、電流がシ
ョートしたかのような衝撃が二人の脊髄を駆け抜けた。

「ああん、しょ、少佐の…ご主人様の、胸が、当たって…き、
気持ちいいの…っ!」
 頬を紅潮させて、目を閉じたまま快感をむさぼる可憐な公女
の裸身に、ヘルガはまるで自分の刻印を施すかのように夢中で
乳房を重ね、こね回し続けた。
 同じ女同士の悦楽だったが、さっきのラナとの交歓がつがい
の小鳥の戯れのように微笑ましいものだったのにくらべると、
今の二人はまるで二尾の蛇が互いにねっとりと絡み合っている
かのように淫靡だった。
 その様子を手も出せぬまま傍観するしかなかったラナも、い
つの間にか自分の股間に両手を伸ばし、自慰に耽らずにはいら
れないほどの艶めかしさだった。

 ほんのり桜色の染まったクラリス姫の乳首に、今度はヘルガ
がしゃぶりついた。乳房の二段重ねの洗礼を受けて敏感になり
すぎていたところに、情欲も荒々しい親衛隊美女が歯を立てな
がら乳首に吸いついたために、クラリスは胸が破裂してしまう
かと思うほどだった。

「ああん、ご主人様、どうか、どうか…」
 許しを請うてやめてほしいのか、それとももっとしてほしい
のか自分でも判別できないまま、クラリスは必死になってヘル
ガの頭を抱きしめ、絹のようなブロンドに指を食い込ませた。

「なんて甘い肌なの、…クラリス、もっとよ、もっと!」
 ヘルガが茫然と呟きながら、公女の汗ばんだ肌に舌を這わせ
たまま、身体を下にずらしていった。そして、その美乳をクラ
リスの秘所に押しつけ、同じように背中をグラインドさせなが
ら乳房をこねつけた。ヘルガの乳房がクラリスの蜜ですぐに濡
れ、乳首の先端が陰唇をめくり、そして堅い蕾に当たって刺激
した。

「はううっ、あ、当たっています、あそこに、ご主人様の…あ
あっ!」
 ビクンビクンと痙攣しながら背中をえび反らせるクラリスの
ウエストを押さえつけ、ヘルガは淫液だらけの乳房を離し、そ
のまま公女の秘所にむしゃぶりついた。

「あ、あああ…あーーーーっっっ!!」
 陰唇をめくるように舐り、花芯を嬲りながら内奥にと滑り込
んでくる長い舌の感触に、クラリスは嬌声をあげてのたうち回
りながら、脳裏にほんの少し残った冷静な領域で、つい先日に
同じ美女から受けた仕打ちを思い出していた。

 今と同じように口唇愛撫を受けたあの時は、しかし公女は家
畜のように地下室の天井から吊され、苦痛の中で恥辱の絶頂に
と強制的に突き落とされていた。あの時と比べれば、今のヘル
ガの愛撫はあまりにも違っていた。同じ舌の動きにも、今のク
ラリスには切ないほどの愛情を感じずにはいられなかった。

『でも…』
 閉じた目の奥であの時のヘルガ少佐の姿を思い浮かべながら、
クラリスは思った。
『あの時の、少佐も…』
 確かにあの時のヘルガは残酷で、冷酷で、その一挙一動に公
女は怯え、辱めに憤り、そして、憎んでもいた。ラナが心を支
えてくれなかったら、きっと舌を噛むか、石壁に頭蓋を割って
自害していただろう。それほどに、あの時の自分はこの美女を
憎悪していた。
 しかし、今こうしてヘルガの口唇愛撫を再び受けてみると、
あの時の舌や唇の動きもはっきり同じだったと思い出せる自分
に、クラリスはハッとした。

 そして、悟った。

『少佐は、あの時から私のことを…今と同じように愛しく想っ
てくださっていたのね…』
 ヘルガの愛は、以前も今も、何も変わっていなかったのだ。
ただ、その表現の仕方が違っていたにすぎなかったのだ。
『そして…そして私も、たぶん、わかっていたんだわ。あの時
から…』

 憎しみと屈辱に覆われていた公女の目にはヘルガの想いが見
えなかったのと同じように、自分もまた、ヘルガへの想いに自
ら目を閉ざしていたことを、クラリスは知った。

『ずっと、私はこの方を慕っていたんだわ…』

 そう悟った瞬間、クラリスの視界が真っ白になった。
 身体の奥底が破裂し、何もかもが高く高く上昇していった。
 愛しい美女の愛撫の果てに…。

「…ああああああああああああああっっっ!!」

 のけぞって硬直したクラリスが、最初の絶頂に達した。背中
を橋のように反らせ、肺の空気を全て絞り出してしまうまで、
公女は絶頂の荒波に揉まれ続けた。
 だが、今や高貴な公女の魂までも我がものとすることに成功
した美女が、一回で満足するはずがなかった。全身が脱力して
ぐったりしてしまったクラリスに、ヘルガ少佐は再びのしかか
った。そして華奢な公女の左脚の足首を掴むと、思いっきり持
ち上げ、さっきまでその口で思うさま愛撫してしたクラリスの
秘所を露わにした。
 はっとしたクラリス姫のふとももに反射的に力が入り、慌て
て股間を閉じようとしたが、ヘルガはそれを許さず、クラリス
の足をそのまま左手で抱え上げたまま、クラリスの秘所に自分
自身の蜜壺を押しつけるように股間を押し入れてきた。

 妖艶な美女の淫らな襞肉と、高貴な公女の可憐な花弁が、蜜
にまみれたまま絡み合う。芽を出した互いの肉蕾が敏感な粘膜
も破れそうなほどにこすれ合う。
 初めての、そして今まで感じたこともないほどの快感と、一
番敏感な場所同士を密着し合う愛の営みに、クラリスは全身を
震わせて感じていた。

「ああ、ご主人様、どうか、どうか私を愛してください、もっ
と、もっと…!」
 泣き出しそうにすがりつく公女の歎願を見下ろしながら、ヘ
ルガはおもむろに腰の動きを早めた。
「ひあああっ、少佐、少佐あっ!ご主人様あっ!感じすぎてし
まいますっっ!」

「クラリス…クラリスっ!!」
 下半身を絡めながら激しく腰をくねらせ、ヘルガが言った。
「名前で呼んで!私を!私が許すわ!呼びなさい、私の名前を!」

「は、はい…っ、ヘ…ヘルガ…おねえさまっ…!」

「クラリスっ!」

 その刹那、二人の時間が止まった。

   

続く

 

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