鞭と髑髏 Peitsche und Totenkopf / 隷姫姦禁指令

 

9・極光の彼方 Weit ueber der Aurora

 
 
 絶頂に達した余韻に半ば気を失いながら、荒い息をして乳房
を上下させているクラリス姫の裸身に、金髪の女神のようなヘ
ルガ少佐が寄り添いながら、公女のお腹に玉になって震える汗
の粒を転がすようにして撫でていた。

 何にも代え難い二人の美しいご主人様が互いに愛し合う一部
始終を見守ることを強いられていた侍女の少女も、同時に絶頂
に達して茫然としていた。

 すでに満月は中天から西に下りの階梯を降り始めていた。真
上から降り注いでいた銀の光も、今は木々の梢に遮られ、森は
さらに闇が深く支配していた。その闇の中で、三人の吐息だけ
がわずかに白く漏れていた。

 草むらの上に横たわっていた三つのシルエットのうちの一つ
が、つと立ち上がった。
 最も背が高く肉感的で、長い髪をたなびかせ豊かな乳房を揺
らした影を、わずかに森の向こうから月光が透かし、微かに輪
郭を彩った。

 立ち上がったヘルガ少佐が、脱ぎ捨てた自分の服を置いた場
所に無言のまま歩み寄り、最新のシルクの下着を手にとった。
 気配に気づいたクラリスが、力が入らない四肢に鞭打って身
を起こしたが、その時にはすでにラナが立ち上がって、親衛隊
の制服を持って駆け寄っていた。

 何も言わずにきびきびと服を身に着けていくヘルガは、全裸
の女神からあっという間に漆黒の軍人に戻ってしまっていた。
たった今しがたの交歓が、クラリス姫の目にはまるで夢だった
かのような、それほどの早業だった。
 切れ者の軍人らしいきびきびとした動きに、クラリスは思わ
ずうっとりしてしまい、呼びかけられてもすぐには気づかなか
ったほどだった。

「…ス、クラリス…クラリスっ!」

「は、はいっ」
 はっと気がついて返事をしたクラリスの目に見えたのは、す
でに軍帽までも整えつつあったヘルガの後ろ姿ばかりだった。
はしたなくも茫然としていた自分を、公女は恥じた。
 ふと気づいて、クラリスはそばに置いてあった何かを手にし
て、ヘルガ少佐の元に進み出た。

「…私のご主人様、どうぞこれを……」
 公女が両手で捧げたのは、この冷徹な美女将校が平素決して
外さなかった眼鏡だった。

 ヘルガは無言で、眼鏡を受け取った。が、ヘルガ少佐はそれ
を耳に掛けようともせず、つるを閉じてそのまま胸ポケットに
無造作に放り込んだ。
 一瞬意味を量りかねたクラリスだったが、聡明な公女はすぐ
にその意図を知り、思わず口元をほころばせていた。

「お前には不本意でしょうけれど、そろそろ城に戻るわ。森の
外れには部隊を待機させたままだし」
 二輪を運転するための革手袋をはめると、ヘルガ少佐はサイ
ドカーのエンジンを軽く点検した。

 軍服姿の美女と、その傍に佇む全裸の公女の様子に、一人ラ
ナは凄まじい疎外感を感じずにはいられなかった。

『もう、お二人にはわたしは必要ない…』

 痛々しい煉獄の苦しみを経て、ようやく結ばれた二人の世界
に、自分の入り込む余地など無くなってしまった…。
 身の程を知る幼い少女は、その事に不満を抱くわけではない。
むしろ二人の主人たちを祝福したい気持ちでいっぱいだった。
だが同時に、いかにあがいてもその輪には入れない哀れな自分
の存在を思い知らされると、惨めさがどうしようもなく湧いて
きた。

 ヘルガ少佐とクラリス姫が二人去っていくのを、自分はこの
まま黙って送ろう…。
 ラナはそう思って、気配を消すようにそっと後ずさった。

「ラナ」
 いきなり少佐が、背を向けたまま呼びつけた。

「…はい……」
 足を停め、消え入りそうな声で少女は返事をした。

「何をグズグズしているのっ、早く来なさい」

 それは、ラナには信じられない言葉だった。

「お前は私の奴隷であり、クラリスの侍女なのでしょう。なら
ばその務めを全うなさい。…最後まで」
 ヘルガは振り返りもしなかった。だが、その言葉の慈悲に、
ラナは限りない感謝と感動を覚えた。

「ラナちゃん、一緒に行きましょう」
 クラリス姫も、やはり温かい声で呼びかけた。

「あ…ありがとうございますっ!」
 二人のご主人様の寛容な許しの言葉に、ラナは涙を拭って駆
け寄った。

「お前はサイドカーに乗りなさい。…クラリスは私の後ろに」
 少佐の指示を、ラナは正しいと思った。

 ヘルガはふと、せっかく着込んだ黒い制服の上を脱いだ。真
っ白いシャツ姿の親衛隊美女は、フェルト地でずっしりと重く、
勲章や襟章がカチャカチャ鳴る上の制服を、裸の公女に着せか
けた。大柄な上着は、華奢な公女のお尻まで十分に隠せた。ヘ
ルガの体温の残りを感じるとともに、厚い生地が素肌に少しチ
クチクした。

 ヘルガがサドルにまたがり、エンジンをかけた。再び鋼鉄の
竜の咆哮が黒い森に響いた。肩越しに振り返った現代の騎士が、
わずかにあごをしゃくって促した。
 サイドカーには裸のままのラナがすとんと身体を滑り込ませ
た。軍服をはおったクラリス姫は後部荷台に横向きに腰を掛け、
ヘルガ少佐の背中にしがみついた。ついさっきまで愛欲の汗に
濡れながら触れ合っていたヘルガの上半身が、服越しにリアル
な実感となって甦ってきた。公女は思わず、ヘルガの背中に顔
を押しつけていた。

 エンジンの回転数が上がり、ヘッドライトの光芒が前を照ら
し、サイドカーが勢いよく発進した。森の中の道無きがごとき
道を、親衛隊将校の超絶的テクニックによって猛スピードで疾
走していく、その向かい風をクラリス姫は半ば夢心地で受けて
いた。

***

 追跡部隊が全員城に帰還したのは、東の空も白んだ朝まだき
だった。墜落したオートジャイロもすばやく回収し終えていた
のは、さすがに手際が良かった。息を潜めていた町の人々は、
何事が起こったのか正確には把握していなかったが、どこにも
動揺を起こさずに事態を収めたのは、部隊全体が冷静だったか
らだろう。

 その指揮官であるヘルガ少佐は、連れ戻した捕虜と共に真っ
先に城に帰還した。そして、これから順次帰還したり、事後処
理に当たる部隊の手配をてきぱきとこなし、信のおける副官に
託した。

 だが、その指示を終えるや、ヘルガ少佐は副官に告げた。
「私は休暇をとる」

「は、はあ?」
 唐突な言葉に、さすがに副官は目を白黒させた。

「これから三日間、私の個室に入ることを禁じる。食事は朝夕
二回、三人分を届けなさい。ただし、係も中には入らせないよ
うに。たとえ総統からの親書だろうが通信だろうが、一切取り
次いではならない」

「…承知しました」
 意を察した副官が、余計なことは他に何も言わずに敬礼した。

 公務を終えたヘルガ少佐は、さっさと踵を返すと、自室に戻
った。

***
 
 おそらくは、また地下牢に戻されるのだと公女は思っていた。
脱走したのは事実で、しかも貴重なオートジャイロを破壊した
自分たちを捜索するために、部隊を駆り出してさえいる。それ
だけでも銃殺刑ものだ。
 ヘルガがいかに上官であろうと、そういう自分たちに甘い処
遇を下すことは許されないだろう、とクラリスは思った。いく
ら有能で信頼の厚い将校でも、利己的な理由で自分たちの罪を
見逃せば、部下たちがその恣意を受け入れることはできないは
ず。ヘルガ少佐のカリスマ性も、そういった厳格な姿勢から来
ていると思われる。
 ならば、少佐はきっと私たちを厳しく処断するに違いない…。

 だが、城に連れ戻されたクラリスは、そのままラナと一緒に
ヘルガの自室に放り込まれた。愛玩する公女の素肌を晒すのを
惜しむように、サイドカーを一度も停車させず、ヘルガ少佐は
あの森から一気に城に走り去った。待機させられていた捜索部
隊はあっけにとられて跡を追うしかなかった。城につくや、サ
イドカーから降ろした公女と侍女の手をとって、守備隊がうん
ぬんする隙もなく、ヘルガはそのまま城の最上層にまで上って
いった。
 もっとも、二人を自室に入れた後は「待っていなさい」の一
言を残し、有能な親衛隊将校のペルソナを取り戻したヘルガは
さっさと下に降りていってしまった。

『きっと、いつもの毅然とした様子で、きびきびと指示をした
り、命令を下したり、書類にサインをしたり…指揮官としての
務めを果たしていらっしゃるのね…』
 かつては反射的に恐怖を呼び起こしたヘルガの軍服姿だった
が、今その姿を脳裏に思い浮かべるクラリスにとっては、内に
秘めた情熱と優美さを凛然たる気品と才能で包んだ、まさに才
色兼備を体現する存在になっていた。
 ヘルガの姿を思うだけで、クラリスは胸が熱くなった。

 ご主人様が戻る間に、クラリス姫はまず入浴を終えた。地下
に監禁されて数日、さらに城内を半日彷徨し、さらに苛酷な黒
の森を逃げ惑った全裸の公女は、その間は気にする余裕はなか
ったものの、今こうして心地良い湯を浴びると、今までの自分
の身の汚れに仰天せざるを得なかった。
 ラナにも手を貸してもらいながら、身体中を芳しい石鹸で泡
立て、繊細な絹のタオルで優しく拭い、クラリスは時間をかけ
て自らの裸身を磨き上げた。もちろん、この後に我が身を賞翫
するご主人様に喜んでもらいたいがための乙女心の表れだった。
 言うまでもないが、慈愛深き公女は自分の身体を洗い終える
と、自分の運命を支えてくれた幼い少女を手ずから洗ってやる
ことも忘れはしない。当然身の置き所もないほどに恐縮したラ
ナだったが、クラリスは有無を言わさず、笑みを絶やさずに、
妹になってほしいとすら告げた少女を丹念に浄めてやった。

 入浴を終え、清潔なタオルで身体を拭うと、クラリス姫は所
在なく寝室に向かった。バスローブをラナがさしかけたが、ク
ラリスはそれを纏おうとはせず、そのままヘルガの寝台に上が
った。幔幕をあげ、中空に昇り掛けた太陽の光が差し込む寝台
の上に、クラリス姫はその裸身をそっと横たえた。

 この部屋はかつては客人用だったため、クラリス自身も今ま
でほとんど足を踏み入れたことはなかった。大公公女のたしな
みゆえに、この部屋に品のない関心を抱いたことはなかったが、
それでも客人のために贅を尽くしたこの部屋は、かつての公女
の私室に比べても格段に豪華だった。

 その部屋で今、胸を高鳴らせて愛する人の帰還を待っている…。

 そんなことが現実になるとは、全く想像すらしていなかった
クラリスは、まるで夢を見ているようだった。

 窓から光線のように射し込む朝日が、レースのカーテン越し
に淡く拡散してベッドを照らしている。まるで黄金の雨に打た
れているかのようなクラリスの裸身に、ラナは茫然として目を
奪われていた。しんとした室内に公女の微かな吐息と、そして
時折、寝返りをうった公女の素肌がシーツに触れる絹擦れの音
ばかりがわずかに響く。

「ラナちゃん」
 鈴のようなクラリス姫の声がした。

「は、はいっ…」
 はっとして背を伸ばしたラナに、公女が右手を差し伸べた。

「ラナちゃんも、私と一緒に待ちましょ。ご主人様を…」

 何度もヘルガ少佐の情欲を受けとめるだけの辛い夜を過ごし
たこの寝台に、今度は憧れの公女さまにも一緒に、心からのご
奉仕ができる…。
 そう思ったラナは、いそいそとベッドに上がった。

 おぼろな朝日にほの白く輝く公女の足元に這い寄って、愛く
るしい侍女がクラリスと視線を交わした。公女の青く澄んだ瞳
に、ラナはまたうっとりした。

 無意識のまま、ラナはクラリスの右脚に顔を寄せていた。
「姫さま…」
 華奢な公女の右脛に、少女はそっと頬ずりした。

 ラナの頬の柔らかな感触に、クラリスの顔が微かに染まり、
大きく息を吸った。
「ラナちゃん…」

「姫さま、ご主人さまがもどるまえに、すこししたくをしまし
ょう」
 そう言うと、ラナはクラリス姫の右脚を両手で持ち上げた。
昨夜に裸足で森を逃げたせいで、何カ所か擦り傷が残っている。
その傷を癒すように、ラナが唾を含み、潤んだ舌で優しく舐め
始めた。

「っあ!」
 熱く濡れた舌がぬめっと足の裏を舐める肌触りに、公女が思
わず息を呑む。傷に滲みて痛い事は無く、逆に敏感な足の裏の
くすぐったさに笑い声さえ出そうになりながら、同時に淫靡な
刺激がゆっくりと湧き出してくる。

「クラリスさま…あ…」
 ラナは公女のつま先に移り、親指を口に含んで舌を絡めなが
らチュウチュウと吸い始めた。さらに、ちゅぽっと音を立てて
口を離すと、今度は人差し指、中指と順番にしゃぶっていく。

「ああん…へ、へんな…感じ…」
 足の指と指の間は、普段は触れることもないだけに、これほ
どに過敏な場所だとは想像もできなかった。それも幼い全裸の
少女が、じゃれつく子犬のように無邪気に、しかしこの上なく
淫靡な響きをたてながら足指を舐めていることに、クラリスは
背徳感と裏返しの凄まじいほどの快感にうち震えた。

 ラナは公女の足指をしゃぶりながら、同じ公女のかかとに自
分の膨らみかけの胸をこするように押し当てた。幼くも固くし
こった乳首がくりくりとかかとに当たるのがわかり、公女はさ
らに興奮を募らせた。

「さあ姫さま、こんどは反対の…」
 右足の指を全部舐め終えたラナが、クラリス姫の左足に手を
かけた、その瞬間。

「ずいぶん元気がありそうね。あれだけの冒険をした翌日だか
ら、グッスリ眠っているのかと思ったのに」

 扉の方から涼しい声が響いた。

「ヘルガお姉さまっ!」

「ご主人さま!」

 クラリスとラナは同時に身を起こして、待ちきれなかった想
いも露わに声を弾ませた。

「でも、いいこと?今から三日三晩、72時間、まともに眠ら
せなんかしないわよ。覚悟なさい」
 眉一つ動かさず、ヘルガは従順な二人のしもべに言い放った。
その意味を悟って、公女も侍女も頬を赤らめながらも、至上の
期待感に胸を躍らせた。

「クラリス…」
 軍帽を外して流れる金髪を腰まで溢れさせながら、ヘルガ少
佐が声をかけた。振り仰いだクラリスの目の前に、端整な美女
の顔が迫っていて、思わず鼓動が高鳴る。
 
「たった数日で、お前の肌に私の鞭の痛みが加わらなかったと
ころは無いわね」
 不吉な記憶を思い出す公女に向かって、呟くようにヘルガが
告げた。
「…これから三日、お前の肌に私の唇が触れていない場所は、
1ミリ四方も無くなるわ」

 クラリスの頬がさらに紅く染まり、そしてはにかみながら頷
いた。
「…ご主人様のお望みのままに」

 習慣である毎夜の沐浴ができなかったこともあって、ヘルガ
少佐はまずはシャワーを使うことにした。クラリスは知るよし
もなかったが、浴室から湯気が漏れていることに気がついたラ
ナは、思わずハッと息を呑んだ。
『いつも、こおりつきそうな冷たい水をあびているのに…』
 だが、これから愛おしい公女を凍えきったその腕に抱くわけ
にはいかない、という少佐の意を察すると、その愛溢れる心遣
いにラナは涙が溢れそうになった。

 温かなお湯のシャワーをふんだんに浴びたヘルガ少佐が、柄
にもない気遣いをしてしまった自分に苦笑しながら息をついた。
 浴室を出て寝室に戻ると、窓の外からはすでに昼下がりの陽
光が射して、室内をオレンジ色に染めていた。
 寝台の上ではさっきの続きとばかりに、幼いラナがクラリス
姫の左足を弄び、足指をしゃぶっていた。クラリスも身をよじ
らせて快感に耐えていた。
 これからご主人様のお情けを賜れる、と思うと二人ともじっ
としていられなかったのだ。

 ヘルガは純白のバスローブの紐を解き、するりと袖脱ぎして
床にはらりと落とすと、そのゴージャスな裸身を晒し、豊満な
乳房を揺らしながら、愛しい奴隷たちが待ち受けるベッドの上
に身を投げた。

***

 純白のシーツが激しくよじれ、飛び散る汗が点々と染みを作
る。うつぶせになって、まるで情欲の濁流に流されないかのよ
うに必死でシーツを掴み、クラリスが悶えた。肩で刈り揃えた
さらさらの栗毛が激しく乱れ、瑞々しいうなじが露わになる。
 そのうなじから襟足にかけて、上からのしかかったヘルガが
熱い唇を這わせた。

「かわいい、かわいいわ、クラリス…」

 キスと共に熱い吐息が公女の首筋にかかる。

「ああっ、おねえさま、熱いぃ…」

 ヘルガの裸身が背中に密着し、しっとりとした肌触りとほの
立つ体温が美女の重みと混ざり合ってクラリスを呑み込んだ。
そして、たわわな豊乳がゼリーのように少女の肩胛骨を埋め、
固くしこった紅玉の乳首が、未経験の場所を刺激していく。

「はあっ、ああん、そんなところも私、感じてしまいます…っ」

「そうでしょうクラリス、自分では気づかない本当の貴女を、
私が教えてやるわ」
 円を描くように上半身を大きくグラインドさせて、ヘルガ少
佐はくねくねと乳房を公女の背中にこすりつけていき、まだ生
硬な乙女の身体に隠された性感帯を探り当てていった。そのた
びにクラリス姫は、まるで自分の身体が自分のものでないかの
ような錯覚とともに快感に溺れた。

「はあっ…はあっはあっ…っっくううううんんっ!!」

 シーツを掴んで顔を埋めるクラリスが、はっと目を上げた。
ヘルガが両脇からスッと手を滑り込ませ、まるで畑から瓜を探
るかのように、公女の乳房を鷲掴みにした。そして搾るように
こね回しながら、疼き立つ蕾の乳首をくりくりと指先でひねっ
た。
「あうううんっ、おねえさま!」
 胸を揉みしだかれる快感に、思わず細い腰を上げたところに、
今度はヘルガの左手がすっと公女の若叢に滑り込む。
「ああん、お願いです、いじわるしないで…」

「あら、奴隷のくせに虐められるのがいやなの?」
 ベルベットのような手触りのクラリス姫の秘毛をかき分け、
すでにしっとりと濡れている花弁をまさぐりながら、ヘルガ少
佐が耳元に囁いた。

「あっ…い、そ、そうでは…ああっ、ご主人様、お許し下さい、
どうぞ、どうぞご存分に…」
 成熟した美女の裸身に背後からのしかかられ、ずっしりとし
た柔肌に包まれたクラリスは、全身の感じるところを刺激され、
暖炉のように火照らせていた。その熱気に自らあてられて、公
女はもう何かを考える余裕も無くなっていた。

「そう、いいわ、じっくり貴女を味わってあげる。簡単に溶け
きってしまわないでちょうだいね」
 そう言うと、ヘルガが公女の肩胛骨に沿ってねっとり舌を這
わせた。その舌がまるで海月の触手でもあるかのように、クラ
リスの脊椎にビリビリッと電流を走らせた。

「あああああっっっ!」
 
 自分ではわかろうはずもない未知の性感帯を綿密に一つずつ
発掘されて、年若き高貴な少女は快感に溺れつつ愕然とした。
「私…私の身体が、こんなに感じるなんて…っ!」

 公女の悦楽の声が、しかし同時に悲痛な悲鳴とも重なって、
ヘルガの耳には聞こえていた。貪るように舐めているクラリス
の白い肌に、無数の鞭の跡が消えかかりながらも、うっすらと
赤く浮かんでいるのがわかる。痛々しいが、それもまたヘルガ
の愛し方の証しだった。クラリスも、あの苦痛の中で何度も絶
頂にまみれたのだから…。
 地下牢の奥で鞭に打たれ、縛られて吊られ、三角木馬に苛ま
れ、熱蝋を浴び、排泄を強制された哀れな美隷の姿が、今こう
して寝台の上で自分の愛撫にうち震えて喜んでいる姿と重なる。
そう思うと、ヘルガは今や何にも代え難い存在であるはずのク
ラリス姫を、またいたぶりたいという欲望を押さえられなかっ
た。

「そんなに感じちゃうの?クラリス?」
 囁くヘルガ。

「は…はい、ご主人様…」
 頬を紅潮させて息を切らしたまま、クラリスは言った。

「そうかしら?三角木馬に乗ったまま鞭と蝋燭でいたぶられて
イッちゃった時と比べて、どっちが気持ちいい?」

「そんな…!」

「答えなさいクラリス、どっちが気持ちいいの?」
 有無を言わせぬ親衛隊隊長の厳しい声。

「…ど、どっちも気持ちいいっ…!ああっ」
 我慢できずにクラリスはそう答えざるを得なかった。

 くくくっと、ヘルガが背後からほくそ笑んだ。
「まあ、鞭で打たれるのも同じように気持ちいいだなんて。何
てはしたないお姫さまかしら。やっぱりお前は、虐められて喜
ぶ変態なのね」
 言葉で嬲るヘルガ少佐の声が、熱い吐息とともにクラリスの
耳たぶをくすぐる。

「…はいっ、わ、私は、虐められて喜ぶ変態ですっ、ご主人様、
もっと虐めてくださいぃっっっ!」
 クラリスが悲鳴をあげた。

「正直なのはいいわね…私は正直者が好きよ…」
 そう言うとヘルガ少佐は、瑞々しい公女の白い背中に、今度
は自分の乳房を密着させて、そのまま上半身をグラインドさせ
た。豊満な膨らみと、固くしこった乳首が再び少女の肩胛骨を
なぞり、未熟な性感帯を暴きたてていった。
 クラリスは、息をすることもつらいほどに身悶えした。

 一方、ラナはと言えば、侍女の役目をきちんとこなすべく、
二人のご主人様への奉仕に余念がなかった。この三日間の主役
が少佐とクラリス姫であることを承知していた賢い少女は、決
して出しゃばろうとはせず、ひたすら二人が心地良く愛欲の刻
を過ごせるようにしてさしあげたい、と思っていた。
 クラリスの上にのしかかっているヘルガの長い美脚を、ラナ
はゆっくりと舐めあげていった。そして、さっき公女にしたの
と同じように、その引き締まった右足を胸に抱きしめ、膨らみ
かけの幼い胸をかかとに押しつけるようにしながら、親指から
順番にしゃぶっていく。念入りに、じっくりとご主人様の足指
を順番に清めていくと、今度は左足にも同じように奉仕した。

 敬虔な奴隷幼女の仕事ぶりに満足しながら、ヘルガはゆっく
りと身を起こすと、眼下の公女を見下ろした。ご主人様の巨乳
で上半身をくまなく弄ばれたクラリス姫は、皮を剥きたての桃
のように瑞々しい肢体を汗に濡らし、神経を極限にまで高ぶら
せて敏感になっていた。肌に触れるシーツの感触にすら感じす
ぎて、クラリスは身をくねらせて仰向けになり、切なくシーツ
をかきむしった。
 全身を桜色に染めた栗毛の公女を、さらに桃源郷に誘う手招
きのように、ヘルガ少佐がその手をクラリスの乳房に這わせた。
だが、荒々しく揉みしだくのではなく、逆に出来たてのルコッ
タチーズを素手で掬うような細心さで、その表面だけを柔らか
く刺激していく。それがかえって、クラリスの未成熟さが残る
肉体に火を付ける。

「あ、…ひゃああっ!あはあああ…っ!」
 敏感な腹部を愛撫されてのたうつ猫のような声をあげて、公
女はヘルガの指の動きに身体をくねらせた。その動きに揺れる
乳房が、さらにヘルガの細い指に押しつけられ、ますます食い
込んだ指がクラリスの身体を玩弄する。

 最初は繊細な手つきでクラリス姫の裸身をなぞるように触れ
ていたヘルガだったが、やがてその両手はだんだんと動きを早
め、激しくなっていった。身悶えに合わせて揺れるクラリスの
乳房を、少佐は下から押し上げるようにして両手で揉みあげ、
まるでパン種を捏ねるように大きく揉みしだく。16歳の若々
しい乳房はピンと張りつめて、豊かな弾力が少佐の指に伝わっ
た。固くしこった乳首が何度も指先で刺激され、乳腺に密集す
る神経が極限まで興奮し、その高ぶりが公女をますます乱れさ
せた。

「…少佐っ、ご主人様あっ!わ、私もう、だめ、イッてしまい
ます…ううんっ!」
 上半身をヘルガの両手に弄ばれて息も絶え絶えにクラリス姫
が身悶える。

「ダメよっ、我慢なさい。イキたいのなら…」
 ヘルガ少佐が再びぐっと身を寄せてきた。そしてその右手を、
公女の下腹部に這わせ、そのまま栗色の草むらを押し分ける。

「はうっ!」
 上半身ばかり責められて意識がおろそかになっていた股間を
いきなり触られて、思わずクラリスは息を詰めた。

「…イクのなら、私の指でイキなさい」
 そう言うが早いか、ヘルガ少佐は右手で公女の陰唇を押し開
いた。その途端すでに溢れかかっていた潤滑油のような蜜で指
を濡らし、ヘルガは愛しい奴隷の秘所に中指をゆっくりと挿入
していった。

「ああああっ!」
 少佐やラナの口唇愛撫で舌を差し込まれたことは何度もあっ
たが、こうして指を奥深くまで突っ込まれたのは、思えば最初
に鞭の柄で処女を散らされたあの時以来だった。意に沿わぬ処
女喪失の瞬間を思い出して、思わず恐怖に身をすくませてしま
ったクラリスだったが、やがてヘルガの指が滑らかな動きで優
しく公女の膣内を愛撫していくのを感じると、だんだんと畏れ
も消えていった。敏感な内奥を指先で刺激されるたびに秘所に
力が入り、キュッと秘肉が指を締めつける。それが、心臓の鼓
動と重なって、公女の脳裏に響き渡った。

「ラナ、お前も来なさい」
 ヘルガが肩越しに見やって声をかけた。

 二人のご主人様の足指をしゃぶり尽くして、すっかり恍惚と
なっていたラナが潤んだ目を上げた。言葉のままに、幼い侍女
はよろよろと這いつくばって、愛しいクラリス姫の左に横たわ
った。指で犯されてのたうつ姫君の一瞬合った目が悦びに満ち
ているのを見て、ラナは胸がいっぱいになると同時に、これか
ら自分がされる事への期待感にうち震えた。

「ラナ、お前にもしてあげるわ。大好きなお姫さまと一緒にイ
キなさい」
 以前なら想像もできなかった言葉を聞いて胸を詰まらせたラ
ナに、ヘルガが左手を伸ばして、剥き出しの外陰唇を分けて小
さなルビーを人差し指でしごいた。

「あ、くうん、ご主人様ぁ!気持ちいいっ…ですぅ」

 まだ無毛の青い果実のような幼女の秘所は、さんざんに調教
の過程で指や舌を使って嬲られていたが、ヘルガが指を挿入し
てくれたことは無かったのだ。すでに幼さに似合わない蜜を滴
らせていたラナの狭隘な割れ目の奥に、ヘルガは遠慮無く左手
の人差し指をじっくりと潜り込ませた。

「あうんっ!」
 ご主人様の情けを愛する公女さまと一緒に受けられ、処女を
捧げることのできた悦びに、侍女の少女は感激しながら破瓜の
痛みに耐える。

「…痛いかしら?でもすぐによくなるわよ」
 狭い肉裂をかき分け、指を根元まで差し入れたヘルガが一瞬
両手の指の動きを止め、左右同時に自分と繋がっている公女と
侍女を見下ろした。すでにすっかり汗みずくでとろけそうにな
っているクラリスと、苦痛と歓喜の入り混じった表情で身をよ
じるラナと、この二人が自分の指の動きに敏感に反応する姿に、
ヘルガ少佐は今まで実感したことの無いほどの一体感に浸って
いた。

「さあ、私の奴隷たち、同時にイクのよっ、そして私に全てを
捧げなさいっ!」
 眼下にのたうつ少女たちの胎内に挿入した指の動きを、ヘル
ガはさらに早めた。女子青年団の閨房で鍛え上げた指技を微妙
に調整しつつ、己に従属する美少女たちを同時に快楽の極致に
と追いつめていく。

「おねえさ、ま、ヘルガお姉さま!私の全てはお姉さまのもの
です、お願い、私を全て奪って!」
 クラリスが第二の破瓜に身を震わせて、むせびながら身を起
こしてすがりつこうとする。だが、反転して蠢くヘルガ少佐の
指に、まだ性に熟しきってない美姫の肉体はなすすべもなく崩
れ落ちるしかなかった。

「ああああ、姫さまといっしょなんて、そんな、そんなあ…っ!
ご主人さまあ…!」
 挿入の痛みよりも悦びの方が勝ったラナが、身をよじらせて
左を見た。そこには、自分と同じようにご主人様の美指で秘肉
を抉られて、性の悦楽に溺れるクラリス姫の姿があった。ラナ
は思わず愛しい公女に手を伸ばし、身を寄せて囁いた。
「ひめさま、姫さまあ、おねがいします、これからも、ずっと
おそばに…っ!」

「ラナちゃん、ラナちゃんんっ、嬉しいわ…っ、ね、一緒に…!」
 ラナが伸ばした手をとり、侍女の小さな身体を抱き寄せると、
クラリス姫はかけがえのない忠実な侍女を固く抱きしめた。そ
して、自分と同じ境遇となった少女を自分の分身のように愛お
しく思いながら、ねっとり舌を絡めて口づけした。

「ひめさま…!」
 ラナもすがりつくようにクラリス姫の繊細な栗毛の髪に指を
絡ませるほどに抱きしめ、薔薇色の舌をむさぼるようにしゃぶ
りついた。

「まあ、仲が良い奴隷たちね。ちょっと妬けちゃいそう」
 そう言うとヘルガ少佐が、指の動きを保ちながら身を屈める
と、キスを交わし合う美しいしもべたちに顔を寄せた。
「ご主人様にも、お前たちのキスを捧げてくれる?」
 ニヤリと笑って囁いたヘルガの指の蠢きが、さらに繊細さに
磨きをかけると、公女と侍女が同時に悶える。

 舌を絡める少女たちの唇に隙間ができたところに、ヘルガ少
佐の細い舌が蛇のように入り込んだ。そして、大きさも色も異
なる三つの舌が一つに絡み合い、三種類の味の唾液が一つに混
ざり合い、三人の熱い吐息が一つに溶け合った。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…っ!」

「ふ、うううっ、ふあっ、あああ…んん!」

「んぐううううっっっ…っ!ふうううっ!」

 豊満な美女の裸身に押し包まれるようになりながら、クラリ
スもラナも必死で舌を絡め合わせ、ご主人様の指の動きにリズ
ムと呼吸を合わせて、至福の瞬間を一体で迎えようと願い続け
た。

「さあ、二人ともイキなさいっ!」
 豊かな経験の中で見出した、膣内で最も神経が集中して敏感
なスポットを、ヘルガが満を持して左右同時に一気に責め立て
た。

「いやああああっ、熱いいっ…!ご主人様ああっ、イクうっ!」
「ごしゅじんさま、ひめさまっ、…ラナ、いっちゃうううっ!」
 クラリスが全身をバネのようにのけぞらせ、水晶のような汗
を飛び散らせた。
 ラナも同時に昇り詰めて、幼い肢体を痙攣させてしゃくりあ
げた。
 ヘルガの左右の人差し指が、若い媚肉の収縮にギュッと締め
つけられるのを感じると同時に、淫蜜のほとばしりに火傷しそ
うなほどの熱を感じた。

 絶頂を迎えた少女たちが、全身の力を失って濡れたシーツの
海にがっくりと崩れ落ちるのを見て、ヘルガ少佐は満足げに身
を起こし、二人の秘所からゆっくりと、淫肉の襞が微妙にめく
れる感覚を堪能しながら指を引き抜いた。そして少女たちの蜜
にまみれた指をかわるがわるに舐め、喉を鳴らしながらエキス
を飲み下した。

「さあ、休ませたりしないって言ったでしょ。今度はお前たち
で私に奉仕しなさい」
 消耗した少女たちを左右に押しのけるようにして、ヘルガは
二人の間に入り込み、仰向けになった。そして両手を頭に組ん
でゆったりと横たわると、豊かな美乳がぷるんと震えて揺れた。

 ご主人様の苛酷な命令に、しかしこの上ない栄誉を笑顔に交
えて、公女と侍女はよろよろと身を起こした。そして、この世
の豊穣を独り占めしたような白い双丘に顔を寄せた。クラリス
は左の、ラナは右の乳首を口に含み、天上の果実を頬張るかの
ように唇と舌で奉仕を始めた。

 窓の外は、夕陽が沈みかけている頃だった。最初の長い夜は、
まだこれから始まるのだ。

**

 夢のような72時間は、瞬く間に過ぎ去った。

 食事すらもベッドの上で済ませ、三人は、ヘルガが宣言した
とおりに文字通り寝る間も惜しんで愛の儀式に没頭した。そし
て公約に違うことなく、クラリス姫の身体にヘルガ少佐の口づ
けが触れていないところは無くなったのである。
 もっともそれは公女一人の裸身に限ったことではなく、ヘル
ガ自身の肌も同じ事になったし、ラナも二人に奉仕することに
集中するように見せつつも、二人のご主人様のキスを全身に浴
び、自分もキスすることに余念はなかったのだが。

 朝も昼も夜も、ヘルガは飽くことなくクラリスの身体をむさ
ぼり続けた。果てしのない、終わることのない女同士の悦楽に、
三人は夢中になって陶酔し、自ら快楽の海に難破し、その海底
にまで溺れていった。

***

 三日の休暇を終えたヘルガ少佐は、再び実務に復帰した。案
の定、帝都からはクラリスを送るよう総統の督促状が届いてい
た。ヘルガは素知らぬ顔で、オートジャイロの「故障」を報告
し、逆に護送用のオートジャイロを要求した。複座式の大型機
がまだ完成していないことを見越した時間稼ぎだった。
 しかし、時間稼ぎは結局時間稼ぎにすぎない。総統が愚かに
も戦争直前の対外問題よりも高貴の姫君への欲望の方を募らせ
れば、その時間もさらに短くなるだろう。

 国家への忠誠心が失われたわけではないが、正直、帝都の暗
闘を見てきたヘルガには幻滅の方が大きくなっている。まして、
今や掌中の玉となったクラリス姫を他人に渡すのは耐え難かっ
た。とはいえ、根本的にうまい解決策はこの賢明な女将校の頭
脳にもなかなか浮かばなかった。

 三日間の淫楽の宴は終わっても、夜になって自室に戻ればヘ
ルガはクラリスを激しく愛した。いやむしろ、時間が夜のみに
限られるせいか、その愛撫はより激しかったかもしれない。同
時に、この何者にも代え難い高貴な奴隷を失いたくない想いが
焦りとなって、この美女を追いつめていたのだ。その不安が、
夜の愛撫に拍車をかけていたのも確かだった。
 クラリスも、抱かれながらもそのことに気づいていた。ヘル
ガは総統府の命令を直接教えたわけではなかったが、聡明な公
女はご主人様の微妙な態度からおおよそを察していた。

***

 二週間後、ヘルガの思いも寄らない事態となった。

 山脈の向こうの北の青空から大音響のプロペラ音を響かせな
がら、黒い機影が城に向かって近づいてきた。その機影はゆっ
くりと接近し、城の上空を周回すると、まるで水底に沈むかの
ように湖面に降りた。そして白い波をまっすぐに描きながら着
水した。帝都がよこしたのは新型のオートジャイロではなく、
「アホウドリ」とも呼ばれる大型の水上機だったのだ。
 鉄十字の紋章を主翼と胴体に大きく描いた水上機は、4発の
エンジン音を響かせ、スピードを落としながら城の基部に近づ
いていった。フロートが立てる水しぶきも穏やかになり、4枚
のプロペラが順番に停止しつつある水上機に、城の船着き場か
ら小型の哨戒艇が近づいていく。そのさまを城の見張り台から、
ヘルガ少佐は身じろぎもせずに見つめていた。

 公務の時にしかかけなくなったあの眼鏡を冷たく光らせ、上
陸してくる帝都の親衛隊情報将校の姿を見下ろすヘルガ少佐は、
思わず手にしていた鞭を固く握りしめていた。

***

「お前を抱けるのも、今夜が最後になるかもしれないわ…」

 夜の帳の降りた閨房の寝台の中で、クラリスを抱きながらヘ
ルガが呟いた。今夜最初の絶頂の余韻に浸っていた公女は、し
かし驚きはしなかった。外部の人間がやって来たことは昼から
感じとっていたし、何よりヘルガの表情には隠しきれない落胆
がずっと浮かんでいたからだ。

「私を、帝都に?」
 慎ましくシーツに胸を隠しながら、クラリス姫が身を起こし
て問いかける。

「いまいましい!」
 ヘルガ少佐も身を起こして、公女に背を向けるようにしてベ
ッドの端に腰掛けると、怒りのやり場もなく、苛立ちながら金
髪をかき上げた。傍らに控えめに侍していたラナが差し出した
グラスワインを、ヘルガは一気に飲み干してため息をついた。
「親衛隊の黒服組も、すっかり総統の腰巾着揃いだわっ」
 水上機で帝都からやって来た親衛隊高級幹部の横柄さに髪が
逆立つほどの怒りを覚えたものの、しかしヘルガは黙って従う
しかなかった。

「…ヘルガおねえさま、お話ししたいことがあります」
 クラリスが呟いた。

「?」

「もしかしたら、何かのお役に立つかもしれません…。この城
の秘密を」

***

 静まりかえった城内を、ひたひたと足音が響いた。裸身にガ
ウンを着込んだクラリスが、同じくガウン姿のヘルガ少佐と、
ぶかぶかのシャツをはおったラナを後にして、城主の間に向か
っていたのだ。
 ランプの灯りを手にして、クラリスはすぐに父大公の私室に
入っていった。何度も部下たちに捜索させた部屋であり、すで
に何もおかしなところなど無いことはわかっていた。ヘルガは
訝しげに公女を見やったが、クラリスは父の文書机の引き出し
をそっと開けた。そして中に入っていた宝石箱の蓋を上げる。
古風な象嵌を施した立派な箱だが、鍵すらかかっていない宝石
箱の中にさほど目を引くものもない。
 眉をひそめるヘルガをよそに、クラリスはその中から古ぼけ
た指輪を二つ取り出した。そして、部屋の壁沿いに立つ大時計
に歩み寄った。振り子の動きも重厚な、黒檀造りの立派な時計
は極めて歴史を感じさせるものだった。その文字盤には多くの
宝石がちりばめられ、そして大公家のシンボルである山羊の紋
章が浮き彫りにされていた。

 クラリスは文字盤を覆うガラスの窓を静かに開けた。そして、
手にした二つの指輪を震える手で山羊のレリーフの、両目にそ
れぞれ嵌めていった。

 その途端、時計の中の絡繰りが異常な音を立てながら回り出
した。激しい歯車の音が室内に鳴り響き、ヘルガは油断なく身
構えた。クラリスも慣れてはいないのだろう、不安げな表情は
隠せないでいた。
 やがて時計盤の長針と短針がギリギリギリギリと動きだし、
二つともまっすぐ上を向いたその瞬間、ボーン、ボーン……と
12点鐘が鳴り響いた。そして最後の音が鳴り終わるとほぼ同
時に、側にある暖炉が、重い大理石の土台ごとズズズ…と回転
した。
 思わず奥を覗き込んだ三人の目の前に、暖炉に隠された通路
が口を開けていた。そしてそのすぐ突き当たりに鉄製の扉が見
えた。

「あれは、この城の奥に降りるエレベータになっているそうで
す」
 伝聞口調で言ったところから見れば、クラリスもここを使っ
たことは無さそうである。

 今はもう公女のことを信じているヘルガ少佐ではあったが、
クラリスの様子からも何らかの罠ではないと確信し、そのまま
ラナを連れてクラリスの後を追った。先導するクラリス姫がラ
ンプを掲げてスイッチを押すと、鉄筋が剥き出しの無骨なエレ
ベータの扉がガクンと開いた。
 三人で中に乗り込むと、エレベータはガタガタと揺れながら
降りていった。

 エレベータの着いた先は、大きな空間が広がっていた。公女
のランプでは照らしきれない広さの場所に少佐が目を凝らす中、
クラリスがそばのスイッチを入れた。じわじわとモーター音が
轟きだして自家発電が動き出したと同時に、最新鋭の電気照明
がぱっと室内を照らした。
 大きなホール並みのその部屋には、モスグリーンの錆止め塗
装をされた機械が何十台も整然と並んでいた。三人でその間を
歩いていきながら、ヘルガはその何台かを見たが、ずいぶん使
われていないらしく、埃をかぶっていたものの、極めて高性能
な新型機械らしかった。どうやら大型の印刷機のようである。
 やがて、機械の向こうに出ると、今度は細密機器の作業をす
る職人机が数台並び、机にはルーペや小刀などがずらりと整理
されて置かれていた。

 その脇にある棚に置かれた紙包みをクラリスは無造作に破き、
中に入っていたものを手にとって、そっとヘルガに差し出した。
 それを見た途端、美貌の女将校はハッと目を剥いた。

「帝国の紙幣!」
 帯封を巻かれた札束は、帝国の最高額面の紙幣の束だった。

「はい、ここで印刷したものです」

「…贋札っ、これがこの国の秘密?」
 一枚を抜いてかざしてみたが、透かしも完璧で本物にしか見
えない。

「この国の産業の柱として、豊富な水量を活かした精密機械工
業が発達しました。今でも手工業の時計作りが盛んですが、私
の先祖はその技術を使って秘かに贋札を保有し、経済を裏から
操ることに成功したんだそうです」

「なるほど、よくできたものだわ」
 ヘルガはあきれたように他の包みを破くと、今度は別の国の
高額紙幣が山のように詰まっていた。

「敵対国の紙幣を大量に増刷して少しずつ流通させれば…」

「真綿で首を絞めるようにじわじわ紙幣価値は下がり、その国
の経済は大打撃を受けるわね」

「逆に、一気に増刷したものを利用して、一時的な軍資金にし
たこともあったと聞きます」
 クラリスの口から歴史の暗部が語られることなど、想像もし
ていなかった。

「なるほど、この技術がこの国を長らえさせてきた秘密だった
というわけね」

「はい、実は両親の身に危害が加われば、ここを使うようにと
言われていたのですが…」
 クラリスが目を伏せ、また顔を上げた。
「ヘルガおねえさま、ここの秘密が何かのお役に立ちますか?」

「立つなんてもんじゃないわ」
 ヘルガの顔に、何かを決意したような笑みが浮かんだ。

***

 翌日、ヘルガ少佐は「捕虜」である大公息女クラリス姫をつ
れて水上機に乗り込んだ。ラナも、公女の侍女という名目で一
緒に乗り込んでいた。白く質素なドレスを着込んだクラリスが、
実は服を身に纏うのはひと月弱ぶりですらあった。ラナも同じ
くらいに久しぶりに、赤い麻織のワンピース姿で、少佐と公女
の私物だという大きなトランクを何個も運び入れていた。
 帝都の高級将校は相変わらず総統の権威を笠に着て無礼その
ものだったが、少佐は素知らぬ顔で慇懃に接していた。むしろ
その様子を見ていたクラリス姫やラナの方が、誇り高いご主人
様がこんな侮辱的な言辞を受けることに不満を感じると同時に、
いつヘルガが爆発するのかハラハラしながら見つめていた。

 離陸直前、ヘルガ少佐が見送りの副官に声をかけた。
「後のことは頼む」

 これまでのいきさつを知る数少ない人間の一人である副官は、
無言の敬礼を返した。

「それと、部下たちに伝えて。開戦しても無駄死にはするなと」

「了解しました。後のことはお任せ下さい」
 小声で答えた副官に信頼の背を向け、少佐は再び機内に戻っ
た。

***

「ヘルガお姉さま!」

「ご主人様あっ」

 クラリスとラナの上気した声が、銃撃戦で穴だらけになった
機体の中に響いた。白いドレスを煤けさせ、スカートをからげ
たあられもない格好のクラリス姫が、引きずっていた大型機銃
を床に捨てて、銃痕から幾筋も陽光が差し込む機体の中を駆け
て、操縦席を占拠していたヘルガ少佐の首に後ろから抱きつい
た。これも黒く顔を汚したラナも少女の手に余るほどのグレネ
ードランチャーを担いだまま駆け寄った。操縦桿を握るヘルガ
少佐は、愛用のダブルアクション式拳銃の銃身を口でくわえた
まま、会心の笑みを浮かべていた。

 離陸後、最高高度に上がったところを見計らって、ヘルガは
機体をハイジャックしたのだ。武装した親衛隊員十数名に対し
て、単身、しかもクラリスとラナを守りながらという圧倒的な
ハンデを背負いながらも、ヘルガは必死で戦った。クラリスと
ラナも足手まといになることを嫌い、懸命に愛しのご主人様を
援護した。
 拳銃だけでなく、機銃や手榴弾まで繰り出したほどの凄まじ
い銃撃戦と格闘の果てに、あの憎々しい高級将校をパラシュー
トも与えずに機外に叩き出し、最後に残った操縦士を始末して、
ついに機内に三人だけが残った時には、機体は弾痕や爆発でボ
ロボロになり、今にも墜落寸前だった。
 前に聳える山脈の峰に激突しようという瞬間、ヘルガが操縦
席に座って操縦桿を引いた。

「さて、何とか機体をごまかしながら、南の中立国に向かうわ。
そこで身ごしらえをして、新たな地を目指すのよ」

「どこに行きましょうか、お姉さま?」
 風防越しの青空をうっとり眺めながら、クラリスが問いかけ
た。

「でも、戦争がおきたら、安全なところなんて…」
 ラナは不安げに呟く。

「知らないの?世界で一番強い武器を手に入れたんだから、ど
こにだって行けるわ」
 ニヤリと笑うヘルガ少佐が操縦桿を固定して、忠実な二人の
愛奴をねぎらうように左右に抱き寄せた。

 三人の積み込んだ荷物は無傷のまま残っていた。中には城か
ら持ち出した精巧な贋札数カ国分がトランク二つ分、そして厳
重に梱包された中型のトランクには、その贋札の原盤が十数枚
隠されていた。これを有効に使えば、どこでどんな生活を送る
ことも思うがままのはずだ。

 陽光が眩しくきらめく空を、三人は見つめた。やがて眼下に
は、南の海に面する中立国が見えてきた。

***

 クラリス姫を召喚して帝都に向かって飛び立った機が事故に
よって墜落したらしい、との知らせが、ヘルガ少佐配下の特務
部隊から総統府に届いたのは間もなくだった。クラリス姫や同
行したヘルガ少佐の遺体は見つからなかったが、墜死した高級
将校の遺体が発見されて帝都に送還されると、事故は間違いな
いものとして処理された。欲望を叶えられなかった総統は地団
駄を踏んだが、今となってはどうしようもなかった。
 公国の占領部隊は、隊長不在のまましばらくは駐屯したが、
やがて戦乱の火ぶたが切って落とされると、撤退して粛々と前
線に向かっていった。

***

 一年後、世界を二分して繰り広げられた大戦で、さしもの強
勢を誇った帝国もついに瓦解し、その世界制覇の野望は、主人
ごと炎に焼け落ちた帝都総統府もろともに消え去った。
 大公夫妻は奇跡的に生き延び、公国に帰還がかなった。しか
し、公国の宝石とも頌えられた大公息女クラリス姫は、占領中
に拉致されて航空機事故に遭遇し行方不明のままだった。大公
夫妻の嘆きはひととおりではなかったがなすすべもなく、戦後
の平和の中にその安否は杳として知れなかった。

***

 西の大洋の彼方、新大陸にも大戦の波は襲ったが、幸いにも
直接の戦場になることは免れていた。反帝国の連合軍の一員で
あったゆえに、帝国系移民は一時的に肩身の狭い立場になった
りもしたが、全体には冷静な国情であったことが幸いした。

 開戦直前の一年前、大洋横断の豪華客船に乗って来邦してき
た貴婦人の姉妹がいた。目の覚めるような豊かな金髪を靡かせ
た20代初めの美女と、その妹らしい栗毛の気品芳しい10代
後半の美少女は、摩天楼立ち並ぶ世界最大の都市の大豪邸に居
を構えると、先祖伝来の財産だという資金を元手に「バードウ
ォッチャー商会」を設立して事業を広範囲に展開し、着実に成
功を収めていった。そして大戦の終結後には、おそらく一生遊
んで暮らせるだけの財産が出来上がっていた。
 社交界はその私生活をいろいろ邪推したが、人前にほとんど
姿を現さない姉妹は、結婚や名誉といった世俗に関心がないら
しく、豪邸の中、忠実な10代初めの幼い侍女にかしずかれて、
三人だけで静かに暮らしていた。

***

 摩天楼の最上階、人々の愛と欲望が渦巻くメトロポリスの街
の灯をはるか眼下に見下ろすペントハウスに、忍びやかな淫声
が三重奏を響かせる。
 謎多き美貌の女実業家「ヘルガ・アーメンガード・バードウ
ォッチャー」に華麗な転身を果たしたヘルルーガ・イルムガル
ト・デア・フォーゲルヴェヒターの寝所は、あの城内の豪華な
客室を忠実に再現していた。そして、その夜陰に仄めく裸身も
艶めかしく、元帝国軍将校だった美女は寝台の上にすらりと立
ち上がっていた。

「上手よ、クラリス…」
 悠然と立っている美女の、しかしその目は潤み、頬は上気し
ていた。ヘルガの前には可憐な奴隷公女がひざまずき、つやや
かなブロンドの茂みに彩られた玲瓏の淫花に舌と唇で奉仕して
いたのである。

「ヘルガお姉さま、とても綺麗です…」
 呟いたクラリス姫の舌が、肉襞を丁寧に舐め、蜜をしゃぶり
ながらさらに奥を浄めていくと、思わずヘルガの腰がくねった。

「ご主人様あ…」
 その腰の動きを逃すまいと、背後には同じようにラナが膝立
ちになって、陶器のように白く美しいヘルガの両臀を押し開き、
薄紫のアナルに口唇奉仕を続けていた。

 ぴちゃ、ぴちゃと淫靡な舌の音が前と後ろから響き、さしも
のヘルガもその快感に何度も腰が砕けそうになる。下半身の敏
感な粘膜を前後で刺激され、少女たちの奉仕を一身に受ける至
福を昂ぶらせていった美女は、やがて絶頂を迎えるのを察して
言った。

「さあっクラリス、私の聖水を授けるわ」

「ご主人様っ!」
 その言葉の意味を熟知している公女は、桜貝の唇をいっぱい
に広げてヘルガの媚泉に押し当てた。

 次の瞬間、絶頂に達したヘルガが全身を痙攣させて頸をガク
ガクさせながら、淫蜜のほとばしりと共に、激しい勢いで黄金
水を放出した。愛の洗礼を授かって、クラリス姫は熱く芳しい
聖水を一滴も逃さず喉を鳴らして飲み干していった。

 聖水授受の秘儀を受けたクラリスを、ヘルガは愛おしく抱き
しめた。

「…クラリス、故郷が恋しい?」
 ヘルガが公女の髪をかき分けながら訊いた。

「はい、でも今の私には、ヘルガお姉さまが私の故郷です」
 慎ましやかに公女は言った。時おりは昔の性癖でサディステ
ィックに鞭などを駆使していたぶってくることもあるが、その
一点の曇りもない愛こそが、クラリスにとってかけがえのない
ものだった。

「…ほとぼりの冷めた折を見て、帰国のことも考えてあげるわ」

「感謝いたします」
 主従は再び、熱く濃厚な口づけを交わした。

「ほら、今度はお前がラナに洗礼を施してあげなさい」
 そばで控えていた少女を見やって、ヘルガが公女に命じた。

「はい。さ、ラナちゃん、いらっしゃいな」

「姫さま、ありがとうございますっ」

 クラリスが立ち上がったその足元に、侍女はかつてと同じよ
うにすがりついて公女の秘所に奉仕を始めた。その姿を泰然と
眺めながら、ヘルガはこの上もない幸福を感じていた。
   

 

*サテ兄さんのご指摘により、全編を通じて十数カ所の誤植、
 表現上の不備を訂正しました。(Mar.08.2007)

 

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