黒猫たちのレッスン
霧香はミレイユの前に立っていた。二人とも生まれたままの
姿で。
これから自分がしようとしていることを思うと、霧香の心臓
は高鳴るばかりだった。とにかく、霧香はパートナーに向かっ
て歩み寄った。
そうしたいのであれば、いつでも逃げ出せた。でも、霧香は
そうはしなかった。この数ヶ月の間ずっと、霧香はこの時を迎
える心の準備をしてきたのだから。
逃げ出したりしない、だって、わたしはミレイユとこれから
愛し合うんだから。
***
始まりはキスだった。
霧香があの荘園で受けた銃創から回復した後、ミレイユは霧
香に、二人の関係について縷々綴った霧香の手紙を読んだこと
を告げた。そしてさまざまなことを語り合ううちに、二人の少
女は互いに相手を愛していること、そしてこれからも一緒に生
きていくことを約束した。
そして、霧香ははにかみながらミレイユに口づけした。唇に
ほんの軽くではあったが、互いの想いに火を付けるには十分す
ぎるものだった。軽いキスは濃厚な口づけになり、やがてキス
だけでは満たされなくなった。二人とも、互いにもっと触れ、
触れられたいと思うようになった。
激しいキスが長く長く続く中で、やがて二人は互いに気持ち
よく感じるあらゆるところをその手で撫でさするようになった。
そして霧香は、ミレイユの身体をそれまで以上のやり方で求
めたいと思うようになったが、これ以上どんな方法があるのか、
霧香にはすっぽりと知識が欠けていたのである。
霧香が「セックス」と呼ばれることについて学ぶこともあっ
た。だが、フランスで再び通い出した学校でも、霧香は誰にも
そんなことを尋ねることは無かった。…ほとんどの者たちは霧
香を敬遠し、さらにはあからさまに見下したりしていたので、
そんなことを教える者すらいなかったのである。ゆえに、霧香
は級友の会話に聞き耳を立てることから始めなくてはならなか
った。
そうやって霧香が級友たちから知ることができたことは、セ
ックスというものは互いに求め合う者同士で行われる究極の愛
情表現である、ということだった。そしてそれは、今の霧香が
ミレイユに対して抱いている願望とまさにぴったり当てはまる
言葉なのだった。
さらに、セックスというのは互いに裸にならなくてはならな
い、ということも知った。ただそれ以上のことは、女の子たち
の情報は役に立たなかった。というのも、少女達の会話は相手
が男性である場合にどうするかということだったのである。
そこで霧香は男達の会話から、何とかして女性の悦ばせ方を
聞き出そうとしたのだが、耳にしたのは結局男たちが何人の女
性とやったか、の自慢話ばかりだった。
霧香は、インターネットで調べようかとも思ったが、検索履
歴から自分がどんなところにアクセスしたのかミレイユに知ら
れるのが不安だったので、やめた。
そんなわけで、霧香は自分だけで何とかしなくてはならなか
ったのである。
一方で、ミレイユは徐々に霧香をリードするようになってい
た。カウチを買ったので、二人はベッドじゃなくても気楽に
「B」できるようになっていたから、うまくいけばスムーズに
「B止まり」のレベルから、霧香との「メイク・ラブ」に移行
できそうだった。それに、少しずつではあるが、霧香の秘密の
場所にまで手を伸ばし、服を脱がせる寸前まで行けるようにも
なっていた。
霧香はミレイユのリードに身を任せつつ、パートナーが自分
よりもずっと経験が豊富なんだろうな、と思いこんでいた。下
着姿で抱き合ったりするようになっても、霧香の不安は募った。
人目に付かないところにある同性愛者専門の本屋で立ち読みな
どすらもしたが、霧香の知識は相変わらず欠けたままだった。
どうやったら愛しいパートナーを悦ばせることができるのか、
ちゃんと知っておかないと、と霧香は自分に言い聞かせていた。
実際、つい数分前までは、本当に、霧香はそう決意してはい
たのだ。それが…。
***
スーパーの買い物からアパルトマンに帰ってきた霧香の耳に、
バスルームから微かな喘ぎ声が飛び込んできたのだ。買い物袋
を取り落とした霧香は、どんな事態に出くわすかも考えられな
いままに、バスルームに飛び込んでいた。
「…ミレイユ?」
息を呑んだ霧香は、自分が裏切られたというショックを顔か
ら隠そうともしなかった。
「いったい、どうして…。わ、わたし…」
「ど、どうしたの?」
ミレイユは顔も上げずに言った。
「ミレイユは…そんな…」
「何を言ってるの?」
やっと振り返ったミレイユは、霧香の傷ついた表情を目にし
て、慌てて叫んだ。
「ち、違うわ!ここには他に誰もいないわ!本当よ!」
だが、霧香はバスルームを必死で見回しだしていた。
「どこにいるのっ?ミレイユのお相手はどこなのっ?」
「霧香、霧香ってばっ!」
ミレイユはバスタブから出ると、取り乱した少女をその胸に
抱きしめた。
「霧香、聞いて」
霧香が自分をまっすぐ睨んでいるのを確かめてから、ミレイ
ユは言葉を続けた。
「私は霧香を裏切ったりしないわ。約束したでしょ。絶対に破
ったりしない、たとえ全てが終わってしまったとしても、って」
「うん、だけど…」
「今の声は、私一人の声よ。信じて、こういうことで嘘なんか
言わないわ」
霧香はようやく落ち着きを取り戻し、安堵の表情を浮かべた。
そして、霧香は気づいた。
頭に血が上っていた時には全く意識もしなかったのが、今こ
うして冷静になって、霧香ははっと気が付いた。
…ミレイユの裸身の、目の覚めるような美しさに。
霧香は衝動に駆られて両手を伸ばし、自分を抱きしめてくれ
ている年上の美女にキスしていた。ミレイユの全身をまさぐっ
た霧香の手が、ぎこちなく乳房を揉みしだいた。
だが、自分がとんでもないことをしてしまったと悟った霧香
は、はっと身を離し、不安に苛まれたまま飛び出していってし
まった。
「霧香っ?」
ミレイユはパートナーを追って居間に駆け込んだ。
「霧香、どうしちゃったの?」
霧香は窓際に立ちすくみ、両手で自分を抱きすくみ、泣き出
しそうなのをこらえていた。
ミレイユはそっと霧香の肩に手を置いた。
「霧香ってば、何を気にしているの?」
しゃくりあげる霧香。
「わたし、いつでもだいじょうぶだって思ってたのに。本当に
そのつもりだったのに、…だけど…」
また、しゃくり上げる。
「わたしって、何も知らない。どうやったらミレイユと愛し合
えるのか、わからないの」
「それだけ?そんなことで悩んでたの?」
霧香がキッとなって振り返った。
「『そんなこと』じゃないもん!わたし、ミレイユをがっかり
させたくないの!」
「まさか、『そんなこと』ぐらいで霧香にがっかりしたりなん
かしないわよ。それにね、どんなベテランだって、スタートラ
インは一緒よ。今の霧香は全くの初心者かもしれないけど、ち
ゃんと経験を積めば…。ま、私だってそうなってくれれば、ね」
そう言い加えて、ミレイユは何とか雰囲気を明るくしようと
する。
だが霧香は半信半疑のようだった。
「わかったわ、霧香、私が教えてあげる」
「え?」
霧香は今の言葉が信じられずに訊き返した。
「私が基本的なところを教えてあげるわ。失敗したって思った
りしないようにね。だいじょうぶ、よく言われているほど痛く
なんかないから」
「わたし、どうしたらいいの?」
「そうね、じゃあ、まずは服を脱いで」
霧香はいそいそと服を脱ぎ捨てた。
「それじゃこれから、ベテランだけが知っている秘密中の秘密
を教えてあげるわね」
「ほんと?」
「セックスの秘密っていうのはね」
霧香が真剣に聞き入っているのを、ミレイユは確認した。
「…秘密なんかどこにもない、ってこと」
あっけにとられた顔の霧香。
「え?」
「霧香が何を期待してたのかは知らないけど、でも、えっちす
るのに秘密の作法なんて無いのよ。あえて言えば、最大の秘訣
は、好きな人に対して自分がどんなことをしたいのか考えて、
そのとおりに行動すればいいの」
「本当に?」
「本当よ」
「からかってない?」
「まさか」
「それじゃ…」
霧香はおずおずと手を伸ばし、パートナーの乳房に触れてき
た。ミレイユがこくんと頷いたので、霧香は、まだ激しくはな
いが揉みしだき始めた。片方の乳房にキスした霧香が、そのま
まミレイユの胸元に移り、さらに首筋に、そしてついに唇にま
でたどり着いた。
ミレイユは霧香を抱き寄せてディープキスをしながら、その
まま霧香を床に押し倒した。
ミレイユに抱きついたまま、霧香は首筋や肩を甘噛みし、そ
してミレイユの手を持ち上げるとそのまま二の腕からさらに掌
にと移っていった。ミレイユの手を舐め、指を一本一本しゃぶ
り、霧香は自分の口でミレイユの手にできるあらゆる事をして
いった。
クスクス笑うミレイユ。
「そうだったの、霧香があんなにソフトクリームが大好きな理
由がわかったわ。ソフトクリームをペロペロ舐めながら、霧香
ってばえっちなことを想像していたんでしょ?」
真っ赤になるばかりの霧香。
「ソフトクリームでこういう練習をしていたのね!ウソついち
ゃダメよ」
「それは…」
ますます霧香は赤面した。
「…うん、想像してた」
「霧香がこんなにエッチだったなんて思わなかったわ。それじ
ゃ、今度は、もっと上手なお口の使い方を教えてあげる。ほら、
ここを舐めて」
ミレイユが、自分の首筋を指差した。
霧香がミレイユの首筋、ちょうど耳の後ろあたりに舌を這わ
せると、ミレイユはあまりの快感に危うく崩れ落ちそうになっ
た。
いきなり霧香は、今まで触れたことのないミレイユの身体の
場所に触れてみたいという欲望に駆られた。霧香はもどかしそ
うに自分の手をミレイユの身体に沿って下に動かし、ゆっくり
と息を吐きながら、ミレイユの股間に手を差し入れた。そして
大きく手を動かした霧香は、自分が正確にどこを触っているか
はよくわからなかったが、自分で触った時と同じような快感を
ミレイユに感じてもらえるはずだと思っていた。
その手を掴むと、ミレイユはそれを正確に自分の求めている
場所に導き、その上にまたがるようにして上半身を起こした。
ミレイユは身を反らしてのけぞり、そして大声で喘ぎながら
イッてしまった。
霧香が不安で目を見開いた。
「ミレイユ、どうしたの?痛かった?」
ミレイユは絶頂からさっと醒めた。
「え?痛くなんかないわよ」
「じゃあ、どうしちゃったの?」
「今のが『絶頂』よ。イッちゃうと、すごくいい気持ちになれ
るの」
戸惑った顔の霧香。
「…いいわ、教えてあげる」
ミレイユは霧香を抱き起こすと脚を互い違いにして、ちょう
どさっきまたがって霧香の手を押し当てていたところを、霧香
の同じ場所とこすり合わせだした。
ミレイユにしがみついて息を荒くする霧香を、ミレイユはど
んどん崖っぷちまで追いやっていく。身体の奥底から強烈にこ
み上がってくるような、何かすばらしいものを感じながらも、
心がぼんやりとしてきた霧香は、やめないでほしいと思いなが
ら、ミレイユの手に向かって激しく腰を使っていた。
まもなく霧香は、もはや何もまともに考えられなくなって、
身体が自分のものじゃないような気持ちになっていた。強烈な
快感が膨れあがり、恋人の胸に顔を埋めた霧香はついに、一瞬
にして何もかもが解き放たれ、抑えられなくなってしまったの
を感じ、どうにも耐えられなくなってしまった。
ようやく腰の動きがおさまり、ミレイユにぐったりともたれ
かかった霧香は、息を詰まらせて微かにぶるぶるっと震えた。
「…ミレイユ」
やっと息をついて、霧香が訊いた。
「今のが、『絶頂』なの?」
「そうよ。どう、気持ちいいって言ったとおりでしょ?」
霧香はホッと息をついた。
「うん、気持ちよかった…。ミレイユ、これだけじゃないでし
ょ?もうこれで終わりじゃないでしょ?」
「霧香がもっとしたいならね」
「よかった。だって、もっとしたいもの」
霧香がミレイユの首筋を撫でながらキスすると、ミレイユも
霧香の背中を優しく撫でる。ミレイユの手が、そして唇が、恋
人の胸をさぐるうちに、再び霧香を床に押し倒していた。
目を閉じて幸せそうな息をつく霧香に、ミレイユはひたすら
愛撫を続けていく。すっかり良い頃合いだと見て、ミレイユは
自分の身体を下に移動させた。そして霧香の太股に手をかける
と、霧香の秘所に顔を埋めた。そして霧香の淫部を口で愛撫す
るブロンド美女に、霧香はハッと息を詰まらせて、ミレイユの
髪を掴んだ。
あっという間に全身を跳ね上げて喘ぎだした霧香は、再び絶
頂にまで登り詰めてしまった。
目を開いてみると、霧香はミレイユの背中に自分の足を絡め
て、半分座っているかのような体勢になっていて、うまい具合
にパートナーの頭部を固定してしまっていた。
顔を上げて霧香を見つめるミレイユ。
「さて、ずいぶん遅くなっちゃったわね」
すでに太陽が西に沈みかけていた。
「そろそろ食事にしなきゃ」
ミレイユは霧香から離れると、立ち上がって服を着ようとし
た。
「だめっ」
霧香が叫んだ。
「お願い。今ミレイユがしてくれたみたいに、わたしもミレイ
ユを気持ちよくしてあげたいの」
霧香はすっと立ち上がると、ミレイユを後ろから引き留めた。
ミレイユは霧香のなすがままになって、床にうつぶせに倒れ
た。夕食は切り上げる口実の一つではあったが、霧香にもっと
続けたいとせがまれてしまうと、いきなり空腹感もまるで感じ
なくなってしまった。パートナーがミレイユのうなじや背中を
まさぐると、ミレイユは自分の秘所に何かズキズキするものを
感じてしまった。ミレイユはもの憂げに振り向くと、年下の少
女と向かい合った。
霧香はゆっくりとミレイユの首筋から乳房へとキスしていき、
奮い起こせる限りの気持ちを寄せて、まるで永遠に惹きつけら
れるかのように、たっぷりと口づけを加えた。やがて霧香はゆ
っくりとキスを下に移動させていき、ついにミレイユの股間に
達した。そして霧香はためらいがちに、顔をそこに埋めた。
ミレイユは霧香の頭を押しつけるようにして、続けるように
促す。霧香がおずおずとミレイユの秘所をぺちゃぺちゃと舐め
ると、ブロンド美女は大きくのけぞって悶えた。霧香は大胆に
なって、もっと舌をミレイユの欲望の場所に押し込みだした。
ミレイユは霧香の髪を掴んで、全身をがくがく跳ね上げだした。
年下の少女は唇をブロンドの恋人の敏感な部分に密着させ、
しゃぶりだした。ミレイユは喘ぎながら、ますます激しく身を
よじらせ、上半身を起こすと、霧香の顔を限界まで自分に押し
つけ、そしてついに絶頂に達した。
だが、霧香はまだ満足せず、そのまま口唇愛撫を続けたので、
ミレイユはあっという間に二回目の絶頂に達してしまった。
二人は床の上で仰向けになった。…ミレイユは激しく喘ぎ…
そしてさらに横たわった。
ミレイユは霧香を抱き寄せ、顔を寄せて視線を交わし、言っ
た。
「ね、もう一つ、秘密を教えてあげようか」
ミレイユを見上げる霧香。
「んん?」
「私もね、今のが初体験だったの」
霧香の目が飛び出しそうなほどに丸くなった。
「え?…だ、だって…」
「本で読んだり、練習したりしただけ。一人遊びでね」
霧香は狼狽しながら恋人を見つめるばかり。
「ふふ…そういうことも世の中にはあるのよ。実はね、霧香が
バスルームに飛び込んできた時もそうだったのよ。霧香のこと
を想いながら、一人エッチしてたの」
「あ…あの声はそれじゃ…。ミレイユが…」
クスクス笑うミレイユ。
「あれもけっこういいのよ。ね、霧香もたまにやってみたらい
いわ」
「やだ。ミレイユを悦ばせる方がいい」
「うふふ、私にとっては楽しみが増えるわね」
ミレイユは愛おしく霧香の手を撫でた。
「ねえ、霧香」
「ん?」
「学校で他の女の子たちに、自分は女同士で経験したんだって
言ってみてごらんなさい」
霧香を奥手な物知らずだと笑い物にしている同級生の女の子
たちのことを、ミレイユは引き合いに出した。彼女たちはミレ
イユが霧香の恋人だと知らないのである。
「そしたら、連中の顔をまじまじ見てやるといいわ」
「え、ええと…」
そんなことをすれば自分が気まずくなるに決まっているとわ
かっている霧香だったが、想像してみると思わず笑ってしまわ
ずにいられなかった。
ミレイユと霧香はしばらくずっと一緒に横たわっていたが、
ふとミレイユのお腹がきゅうっと鳴ってしまった。
「あ、ごめん」
霧香が言う。
「気にしないで。でも、いいかげん夜も更けちゃって、マジで
お腹空いちゃった。ねえ、今夜はお出かけして、一緒に二人の
初体験のお祝いをしましょうか?」
「うん」
そう言った霧香だったが、ふと何かを思いだしてはっとした。
「ミレイユ、スーパーで買った物が…」
「…かまわないわよ。すぐに傷んだりしないでしょ」
ミレイユはようやく起きあがると、バスルームでバスタブの
お湯を抜き、そして霧香のところに戻ってくると、霧香はもう
お出かけの準備が出来上がっていた。
おしまい
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