サード・ジェネシス

第6話

 
 周囲をよく見回そうとして、リツコは金髪をかき上げ、大げ
さなため息をつきながら言った。
「何もかも、ホントにメチャメチャよね」

「はい、先輩」
 マヤが静かに同感とばかりに答えた。
 短い茶色の髪のマヤは、リツコとほぼ一日同行して第3新東
京市の技術エリアを視察した記録をとっている。

 残っていた2体のエヴァは、使用不能状態のままで放り出さ
れていた。
 弐号機に至っては、量産型エヴァによって八つ裂き寸前にさ
れていたのが、まだ部分的につなげられたのみで、ほとんどメ
チャクチャな残骸の山同然だった。
 零号機はまだ形を保っていたが、パイロットの状態がはっき
りしない今の段階では、実際にまともに動くかすら怪しいもの
だった。

 リツコは苛立たしげに首を振る。
「もとの修理チームが戻ってきてくれれば…。あの状態じゃ、
新人をまともな修理作業ができるように訓練することから始め
なきゃならないわ」

「電話で連絡してみます」
 静かにマヤが申し出た。
「ネルフの技術者にもっと復帰してもらうように話してみます」

「うまくいくと思う?」
 穏やかにリツコが訊く。

 あのネルフ本部での戦闘がどれだけキチガイじみていたかを
思いおこし、マヤはため息をつく。
「難しいと思います」
 マヤは認めざるを得なかった。

 マヤの肩の手を置いて、リツコが言う。
「とにかく、できることがあれば何でもやってみるしかないわ」

 マヤは頬を紅潮させて、明るく叫んだ。
「はい、先輩っ!」

 リツコは自分のケータイを開いた。
「ミサト?今日中には全部のレポートを出すわ。でも、こっち
はひどいことになってるわよ」

***

 もう一つの大きな厄介ごとに、ミサトは電話を切って大きく
ため息をついた。
 デスクに座り直し、ミサトは再びレポートに目を通し、奇妙
な表情を浮かべた。黒髪の美女は紙の束を手にした。

「で、貴女は、綾波レイが完全に人間であるという結論を出し
たわけね」

 ネルフが外部からの諮問員として召喚した市井の専門家であ
るその女性は、その青い髪を目にかすめさせながら、はっきり
と頷いた。
「申し上げたとおりです」

「青い髪でも?」
 ミサトがちょっと意地悪く訊く。

 その女性は肩をすくめた。
「個人的には、私の髪も生まれつきですから。日本だけこうい
う何種類もの変わった髪の色があることからも、なぜこのよう
な遺伝的変異がここだけに存在するのかその原因を、私たちは
探っているんです」

「そしてそれはおそらくアダムが原因だと?」
 ミサトが訊いた。

「全ての事例を押さえるまでは、推測は控えたいと思いますの
で」
 少しとがめるような口調で女性はミサトに言った。

 レポートを机の上に置くと、ミサトは立ち上がって握手を求
めた。
「今回のご助力、感謝しますわ、水野教授」
 微笑を浮かべるミサト。
 このレポートを別の問題に結びつけてしまったのは、博士自
身には何の責任もないものね…。

 水野アミ教授は、ネルフの司令官と固く握手しながらニッコ
リ微笑みを返した。
「できればこれからも協力を続けたいと思います。こちらのス
タッフにうちの研究室の電話番号を伝えておきますから、もし
何か他に興味深いことが出てきましたら、せひご連絡下さい」
 そう言って、高級スーツで身を固めた美女は、滑らかな足運
びで部屋を出て行った。

「さて、これからどうしようかな」
 座り直したミサトは、ほっと息をついた。
 数分後、扉をノックする音がしたので声をかけた。
「どなた?」

「アタシよ」
 アスカが中に入って、扉を閉めた。ネルフの制服を着こなし
た赤毛の少女は、本物の軍の士官といってもおかしくないほど
だった。
「で、水野教授は何て?」
 興味津々でミサトに問いかけるアスカが、長椅子の端にどっ
かと座り込んだ様子は、軍人風の外見とはうってかわって、い
かにも十代の少女らしかった。

 刺すようなアスカの右目の視線に、ミサトははっと我に返っ
た。声を高めてミサトは少女に話す。
「結果は、ほぼ予想どおり。あのレイは100%人間であるこ
とがはっきりしたわ」

 眉をひそめて、アスカがミサトに向かって身を乗り出した。
「でも、じゃあどうしてあのオヤジは人間バージョンのレイを
造ったの?あいつの狙いはレイのエイリアンの部分でアダムを
コントロールすることだったんでしょ?」

「そのわけは、こっちが知りたいわ」
 ミサトはため息をついて、皮肉っぽく苦笑した。
「碇ゲンドウの個人ファイルを片っ端から調べてみたんだけど、
ほとんど二重三重に暗号化されていたし。リツコがエヴァの修
理に忙殺されなくなったら、手を貸してもらおうと思ってるけ
ど」

「それじゃ、これからどうするの?」
 興味深そうにアスカが訊く。

「とりあえず、予定どおりには進んでるから」
 肩をすくめるミサト。
「うちに引っ越す準備はすんだの?」

「荷造りは終わって準備完了よ」
 アスカは心底ホッとした顔をした。そしてちょっとためらい
がちに訊いた。
「レイの荷物は?」

「以前のレイは、そんなに荷物を持ってなかったし」
 静かに言うミサト。
「それにハッキリ言って、それをそのまま今のレイに渡してい
いものかどうかわからないのよ」
 ぴくんと眉を上げたアスカに、ミサトが続ける。
「今のところ、レイの精神はほぼ白紙の状態だわ。これはレイ
にとって第2のチャンスだもの。そんな今のレイに、以前のレ
イのものを引き継がせることがいいことなのかどうか、わから
ないわ」

「服はどうするのよ?」
 アスカが訊く。
「だって、今のレイが着られるものは、昨日もらったネルフの
制服だけなのよ」

 ミサトはアスカをじろじろ見回し、服のサイズを量る。
「アスカの服じゃ、レイにはあまり合いそうにないわね」

「ダメよっ!」
 アスカがすぐに言い返す。
「アタシは、自分の服をレイと共有なんかしないからねっ!!」

「じゃあ、これからレイを連れて、服を買いに行かなきゃなら
ないか…」
 ミサトはため息をついた。その息の下から呟きが漏れる。
「私、買い物って嫌いなのよね」

 アスカがニヤリと笑う。
「でもさ、この費用は自腹を切らなくったっていいわよ。レイ
に関するものは全部、ネルフに請求しちゃえばいいじゃん」

「ふふ、その通りね」
 ミサトもクスクス笑った。
 傷口が痛まないように気をつけてデスクから立ち上がったミ
サトに、アスカもぴょんと立ち上がった。
「ところで、レイはどこにいるの?」
 二人でオフィスを出て廊下を進みながら、ミサトが訊いた。

「エヴァのシミュレーターに乗りたいって言うから、そこに残
してきたわ」
 ニッコリ笑って答えるアスカ。二人は下りのエレベーターに
乗った。

 別の廊下をちょっと歩いて、訓練室の扉をミサトが開けると、
制御パネルの表示モニターとにらめっこしている少女が目の前
にいて、目を白黒させてしまった。

「あぁ、司令っ!」
 ぴょこんと跳び上がって敬礼したのは、ナコだった。

「さっきはどうもね、ナコ」
 気軽に手を振って声をかけたアスカは、歩み寄って、シミュ
レーターのコクピットに座っているレイに視線を送った。

 深青色の髪が、集中して細めた赤い瞳にかかっている。ほん
のり頬を紅潮させ、そして…昂揚しているのがハッキリわかっ
た。
 アスカは自分の目を疑ったが、レイが「楽しんでいる」のは
間違いなかった。

 ミサトもレイをじっと観察していたが、表情はほとんど変わ
らなかった。
「レイの様子はどう?」
 興味深そうにミサトはナコに尋ねた。

「はにはにですぅ〜〜!」
 目を輝かせるナコ。
「アスカさんのベストスコア並みですよぉ〜!」

「さすがね」
 ニヤリと笑ってアスカが呟いた。

「シミュレーターが全てじゃないわ」
 ミサトがひとりごちた。
「実戦となれば話は違うもの。実際にレイをエヴァに乗せたら、
どうなるかしら?」

「その時になればわかるって」
 アスカがそう言いはなって、ミサトを見やった。
「レイの準備ができるまで、零号機に乗せたりしないわよね?」

 アスカからレイを気遣う言葉が出たことに、ミサトはちょっ
と驚かされたが、それを顔には出さなかった。
「レイがちゃんと操縦をこなせると私が確信できるまで、エヴ
ァに乗せる気はないわ」
 ミサトは同意すると、身を乗り出してマイクに向かう。
「レイ、直ちにシミュレーションを終了させて」

『はい』
 最後の仮想敵を屠って大爆発を起こさせつつ、レイが返事を
した。

 数分でシミュレーターが停止し、レイが訓練室から出てきた。
プラグスーツ姿のレイは、全身の曲線が肌にピチピチの服でク
ッキリわかって、色っぽく見えた。
 アスカはちょっと顔を赤らめて、レイの視線から目を逸らし
てしまった。

 ミサトは陽気にレイに微笑みかけた。
「ね、これから買い物に行かない?」

「買い物?」
 レイは不思議そうな顔をして、きょとんとした。
 

*今回のゲスト:水野亜美(美少女戦士セーラームーン)
        神維那己(鋼鉄天使くるみ2式)
    

続く

 

第7話に続く   第5.5話に戻る

 

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