榊さんの弱点
「今日はすごかった!あたしの最高のスパイクだったのに、榊 ってば何てこともなくレシーブしちゃうんだもの!」 神楽が興奮してしゃべっている。 「なあ、あのレシーブの仕方、教えてくれよ!」 「う…」 「なあ、榊ぃ!何か秘訣があるんだろ?」 「そ…そんなことは…」 神楽はふうっと息を吐いて、首を傾げて榊の横に並んで歩い た。 「マジにさ、あたし、榊に運動の身のこなしを教えてほしいん だけど…」 榊は無言で神楽を一瞥した。 神楽はいつも一緒に家に帰るときにはずっとしゃべりっぱな しではある。だが今日は、どこか悩みを抱えているように見え た。神楽の隠し事を見抜くのは、榊にとって難しいことではな い。 『神楽、何かあったのかな?』 榊は内心訝った。 「…なあ、いいだろ?」 神楽が訊いた。その顔に悩みが浮かんでいることに榊は気づ いた。 榊はあわてて目を逸らし、うつむいた。 「ま…まあ、いいけど…」 その時、榊はいきなり立ち止まった。 「よかったあ、あ、そうだ榊、面白い新作ゲームを手にいれた んだけどさ…。…榊?」 神楽が振り返ると、榊がじっと立ち止まっていた。榊は小さ な茶色い仔猫を見ていたのだ。榊はほんのり頬を紅潮させて、 しゃがみ込むとそっと手を差し伸べた。 仔猫はか細くニャア…と鳴くと、ゆっくりと榊に近づいてい った。 今にも榊の手に触れそうになったその瞬間、神楽がその間に 割り込んだ。 「ふぎゃああーっ!」 神楽は大声をあげて仔猫に顔を近づけた。 「がーーーっ!」 仔猫は恐怖に全身の毛を逆立てて、あっという間に逃げてい った。 「ははは、思い知ったか!」 笑う神楽。 榊は茫然と神楽を睨むばかりだった。 いつもこうだ。神楽はいつも、大好きなあの可愛い生きもの を脅して追い払ってしまう。 榊はがっくりうなだれ、暗く落ち込んだ目になった。 「いつもいつも、なぜそんなことをする?」 静かに呟く榊。 神楽は笑うのを止めた。 「ん?何が?」 「なぜそんなことをする!」 ずっしり響く声とともに、榊が立ち上がった。激昂した顔に、 目には涙がにじんでいた。 「もういい!ほっといてくれ!一人で帰る!」 そう言い捨てて、榊は家に向かって駆け出してしまった。で きるだけ早くその場を離れたかった。 神楽は口もきけないほど驚いて、ぽつんと立ちつくした。 『ほっといてくれ?』 神楽は自問自答した。 榊は猫が大好きだから、追っ払ってなんかほしくなかったん だ。 駆けていく榊の後ろ姿を見つめる神楽の胸の奥が、キュンッ と痛んだ。 自分があんな事をしてしまった理由は、嫉妬だということを 神楽自身もわかっていた。 猫たちがいつも榊を攻撃するから、榊を守ろうとして猫たち を追っ払ってきた。でもそれは同時に、榊に猫じゃなく自分の 方を気にしてほしかったからなのも、自分でわかっていた。 震えるような溜息と共に、神楽は自分の鞄を手にとった。実 は中には榊を驚かせてやろうと思ったあるものが入っていた。 これを使ってハッピーな一日にしようと思っていたのに、自分 の気持ちに反して、逆に親友を怒らせてしまった。 唇を噛む神楽の頬に、涙がひと筋こぼれた。神楽は鼻をすす って慌てて涙を拭った。そしていきなり道を駆け出した。榊の 跡を追った。 「榊…」 神楽は呟いた。 「…ごめんな…」 *** 部屋の扉が開いて、入ってきたのは榊一人だった。 扉をそっと閉めると、榊は身を翻すようにしてベッドにどっ と倒れ込んだ。枕に顔を埋めて、こっそり涙を拭った。そのま まずっと、榊は静寂の中でじっと横たわっていた。 突然、罪悪感が榊に押し寄せ、黒雲のように心を覆った。 なぜ神楽をあんなふうに怒鳴りつけてしまったんだろう?親 友なのに…。確かに神楽のやったことは耐えられなかった。で もあんなひどい口調をぶつける理由になんかならない。神楽が 腹を立てたらどうなる?もう二度と口をきいてくれなかったら どうなる? そう思うと、榊の心は沈んだ。 すっかりへこんでしまった。 自分があんなふうに怒りを爆発させたことなんて、今まで一 度もなかったのに。 どうしてそれがよりにもよって神楽に?部活動のない日には いつも一緒に家に帰っていたのに。自分がほとんどしゃべらな くても、神楽はいつも愉快そうだったのに。神楽は親友で、一 緒にいるだけで楽しかったのに。 「ごめん…神楽…」 小さな声で榊が呟いた。唇を噛んだ榊の目から、また涙があ ふれ出した。 *** 神楽は榊の家の玄関前にたどり着くと、ふうっと大きく息を 吐いた。あそこからずっと走ってきた。それでもこんなに遅れ たのは、榊の足が早かったせいだった。 神楽は榊の家を見上げて、ごくっと息を呑んだ。そして心の 準備をするのに時間がかかった。門を開け、玄関の前に歩み寄 った。 扉にノックしようとしたその時、風のせいで自然に扉が開い た。 唇を噛んで、神楽は中に足を踏み入れると、後ろ手に扉を閉 めた。そして中の様子を窺った。神楽が榊の家の中に入ったの は初めてだった。 「ごめんください…?」 神楽は小声で呼びかけた。そしてそっと榊の姿を探した。両 親は不在らしかった。 『全く、榊ってば不用心だな。誰か入ってきたらどうするんだ』 自分を棚に上げて神楽はそう思った。 その時、今こそ「榊を驚かせるもの」を見せるチャンスだ、 と神楽は思いついた。 そうしたら、機嫌を直してくれるかも? 神楽は鞄の中のものを取り出した。見ると階段があったので、 二階が榊の部屋だろうと見当を付けた。 榊が枕に顔を埋めてすすり泣いていた声が、廊下にも響いて 聞こえた。 「榊?」 扉の向こうから小さな声が聞こえてきた。 榊はハッと顔を上げた。 「か…神楽?」 「そ、そうだよ。玄関が開いていたから、入っちゃった」 一瞬の沈黙。 「その…さ、さっきは、ごめんな。榊を怒らせるつもりじゃな かった…」 キョトンとした榊だったが、すぐに首を横に振った。 「ち、違う、神楽、あれは私が…」 榊はうなだれた。 「あんなこと言った私が悪かった」 「そんな…あたしがあんなバカなことしなければ…榊があんな に怒るってわかってれば…」 また神楽が言葉を切った。 「榊の気がすむまで怒鳴りつけてくれてもいい」 榊は顔を上げ、扉を見つめた。 「神楽…」 「ええと…中に入ってもいい?びっくりさせるものがあるんだ」 「(ビックリさせるもの?)…あ、ああ、どうぞ」 一瞬の沈黙の後、ドアノブがガチャッと回って、扉が開いた。 榊は目を白黒させ、それから目を丸くしながら顔を鮮やかな ピンク色に染めた。 顔を少し赤らめた神楽が入口に立っていた。なんとその頭の 上にはかすかに茶色の縞が入った黄色いふわふわの耳がついて いた。 胸回りには同じ柄の毛皮のビキニ風タンクトップブラをつけ、 胸の谷間を強調している。手首から先にはやはり同じ柄の、指 が全部出るようにした毛皮の手袋をはめていた。そして、かす かに日焼けした太股を大胆に露出した、やっぱり同じ柄の毛皮 のパンティをはいていて、しかもお尻には尻尾がついていた。 足首には毛皮の足輪を嵌め、最後に、なおその上に、首には 鈴のついた赤い首輪を嵌めていたのだった。 神楽はすっと深呼吸してから口を開いた。 「榊がほんとうに猫好きなの、わかってる。あたしは猫が好き じゃないけど、でも…」 さらに顔を赤らめる神楽。 「あたし、榊の猫になりたいんだ」 *** 何も言えず、榊はただ神楽の姿を見つめるばかりだった。見 る見るうちに頬を紅く染めながら、榊は神楽を頭の先から足の つま先まで見つめた。室内に沈黙がのしかかった。 「あたしは、噛んだりしないから、な…」 うっすらと笑みを浮かべて、神楽が静かにそう言った。ちょ っと気まずい沈黙を破ろうと、何か言わなきゃと思ったのだっ た。 一言も言わずに、榊は這うようにしてベッドから降りた。榊 はまだ冬用の制服姿のままだった。榊は神楽に歩み寄って、正 面に立った。 神楽は榊を見つめて、ゴクッと息を呑んだ。 榊はハッと気づくと、ゆっくりと手を伸ばした。最初は躊躇 していたが、やがて神楽の顔に手が届いた。榊の指がとうとう 神楽の頬に触れた。榊はそっと神楽のショートヘアに指を絡め、 顔に沿って撫でた。 神楽の顔が真っ赤になった。初めて榊の指に触れられて、背 筋にゾクゾクッとしたものが走り、はっきりわかるほどに身震 いしてしまった。榊の指が髪に絡み、撫で、そっと耳に触れる のを感じた。快感を感じて目を閉じてしまった神楽が、再び目 を開くと、榊が微笑んでいるのが飛び込んできた。その榊の表 情はうっとりと夢を見ているかのようだった。 神楽はホッと息をついた。榊の指の感触は心地良く、神楽の 心臓の鼓動が早まった。このまま溶けて喉を鳴らしてしまいそ うだった。 榊は実際、夢見心地だった。神楽の柔らかな髪に指を滑らし て、そのまま後頭部に手を伸ばし、髪を逆立てるように掻き乱 した。神楽は気持ちよさそうに目を閉じてホッと息を吐いた。 その様子に榊もニッコリ笑った。 「神楽…かわいい…」 そう言った榊がまた赤面した。 言葉を失ってしまった神楽も、ただ顔を赤らめるばかりだっ た。 しばらくすると、榊は手を停めて下に降ろし、神楽の手をと った。榊が手を離してしまうと神楽は思わずむくれてしまいか けたが、そのまま腕を引っぱられた。 榊は神楽をベッドに引き込んで、そっと横たえると、そのわ きに横になった。さらに神楽に身を寄せ、横に寝ると、二人の 間隔はほとんど無くなってしまった。そして手を差し伸べると、 また神楽の髪を撫で続けた。 神楽はまた自分の身体が溶けてしまいそうに感じ、もう我慢 できなくなった。たがいの身体が触れ合う寸前まで身をすり寄 せると、神楽は両手を回して榊を固く抱きしめた。 「仔猫は、だっこされるのが好きなんだ…」 神楽がそう言うと、榊がハッと息を呑むのが聞こえた。 驚かされた榊だったがすぐに落ち着くと、ニッコリ笑いなが ら両手を神楽の身体に滑らせた。 神楽はまた真っ赤になった。柔らかくて暖かな榊の豊かな胸 が自分の胸に押しつけられたのだ。とてもいい感触で、しかも 榊の両手が背中を撫でさすってくるのを感じ、神楽は急に息が 荒くなってしまった。榊の手は神楽の背筋をなぞって、首筋ま で滑っていき、そして優しく首輪に沿って首に指で触れていっ た。…それが神楽にどんな影響を与えているかも知らずに。 榊の手は、神楽の全身に激しい快感をもたらした。神楽はア ソコがじゅんっとなり、乳首がタンクトップブラ越しに固く立 ってくるのを感じて、きゅっと唇を噛んだ。榊の手はさらに神 楽の全身をまさぐってくる。背中から脇腹を抜けて、神楽のお 腹に移動してきた。まるで猫をあやすように榊は神楽のお腹を 撫でた、その手が下に向かう。腰骨のあたりをなぞって、ゆっ くりと内股に降りていく。 そうするうちに、神楽はかすかに喘ぎ、呻き声を漏らした。 榊の手が内股に触れると、神楽は甘い声でくうんっと鳴いた。 だが榊はそれに気づいていないようだった。神楽の息づかいは ますます早まり、欲望に全身が熱く火照りだした。 ついに神楽はこれ以上我慢できなくなった。 「さ、榊ぃ!」 そう叫んで、神楽はいきなり榊を抱きしめ、榊の上にのしか かった。 ハッとした榊の唇に、神楽の唇が激しく押しつけられてきて 息が詰まった。
続く
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