LEMONの勇気



 恋人同士が運命によって結ばれるときには、掟も障害も二人
の絆を確かめるものでしかなくなるのである。


 天上ウテナはいつものキビキビした足どりを遅らせ、その長
い脚に可憐な姫宮アンシーがついてこれるように気遣っていた。
 二人は朝にふさわしい足どりで、寄宿舎から学校へ向かう二
人だけしか知らない近道を歩いていた。

 ウテナはチラッとアンシーを窺い見た。アンシーの柔らかな
ラヴェンダー色の髪に、ウテナは目を奪われた。朝の陽光がキ
ラキラと反射する豊かでふわふわの髪を見ていると、あのどう
見ても退廃的な生徒会の世界に自ら進んで関わっているアンシ
ーが、いったいどんな女の子なのか、不思議で仕方なかった。

 ウテナはふと、アンシーの睫毛が伏せ気味なことに気づいた。
『この内気な瞳の奥に何が隠れているんだろう…』
 ウテナは思った。
『見ず知らずの相手の「花嫁」になることをすんなり受け入れ
ちゃうなんて…』
 ここ二、三週間ほどの間に巻き起こった出来事を、ウテナは
思いおこした。

 あの運命の日、西園寺先輩の非情な虐待からアンシーを救い
出したこと。
 アンシーとチュチュがウテナの部屋に移ってきたこと。
 生徒会のメンバー、「世界の果て」、甘んじて従うべき奇妙
な掟。とりわけ、決闘の勝者が、それが男であれ女であれ、
「薔薇の花嫁」をその手にできるという掟…。

 気まぐれな小石にうっかりつまずいて、ウテナはふと我に返
った。

「ウテナさま?」
 静かな声で尋ねたアンシーが、これもまた優雅にウテナの袖
に触れた。

 ウテナは顔を真っ赤にして、アンシーの手を払いのけて転ば
ないように踏ん張った。

「あのね、アンシー、そのウテナさまって言い方、やめてくれ
る?ボクのことはウテナでいいから。君だって、ボクからアン
シーさまって言われたらイヤだろ?」
 アンシーが口を挟もうとするのを見てとって、ウテナはさら
に言い続ける。
「ダメダメ、それは私が貴女の花嫁だからですわ、なんて答え
は聞きたくないね。そんなの絶対におかしいよ。ボクたちは良
き友人であり、ルームメイトではあるけど、それ以上のものじ
ゃないんだから」

 ひどく傷ついた顔になったアンシーに、あんな言葉を吐いた
ことが申し訳なく思えて、ウテナはうなだれた。だが、気を取
り直して顔を上げると、ウテナはアンシーの肩を抱いて言った。

「アンシー、ボクたちは女の子同士なんだから、君がボクの花
嫁になることはできないよ。男の子とデートしたり、試験や宿
題に専念したりして、健全でごく普通の学生生活を送るのが一
番さ。あの生徒会やら世界の果てやらなんておかしな連中に踊
らされて、花嫁だ花婿だなんておふざけはゴメンだよ。それに、
あんなくだらない決闘なんかに命なんか賭けるべきじゃない。
力ずくの戦いなんて全くバカバカしいことさ。だろ?」

 ウテナはアンシーの輝くような緑の瞳を真っ正面から見つめ
るうちに、ふと気持ちが途切れてしまった。ウテナの心は、そ
の瞳にあっという間に溺れてしまった。
 頭を軽く振って気を取り直し、ウテナはアンシーの顔から視
線を外して続けた。
「そうだ!幹が君のことを気にしていたよ。彼は可愛いし頭も
良いし。彼とのデートをセッティングしたげる。デートの一回
でもしとけば、宿題の時にも手伝ってもらえるしさ」
 アンシーの深刻な顔つきに、ウテナは神経質な笑い声を上げ
た。
「どう?気に入らない?一石二鳥ってやつだよ。まともな生活
ができて、進級も確保できて。そうなれば、あの生徒会の連中
もボクたちを放っておいてくれるさ。だろ?ボクも冬芽か、君
のアニキとでもデートしようかな」
 ウテナは熱に浮かされたようにしゃべりまくった。

 ウテナの真剣な顔を見ながら、アンシーはそっと手を伸ばし
てウテナのピンクのくせっ毛の髪を耳の後ろにかき上げた。
 そして、こくんと頷いた。

「はい、ウテナさ…」

 すばやく口を挟むウテナ。
「ウ・テ・ナ!」

「はいウテナ、さ…。とっても、嬉しいです…」
 アンシーはそう言った。

 動転したようなアンシーの微笑とともに承知した様子を見て、
ウテナはホッと安堵の息を吐き、デートの計画の骨格を話し続
けた。アンシーのために、と夢中だったウテナは嬉しくて、ア
ンシーの顔に一瞬苦しげな表情が浮かんだことにも気づかなか
った。

***

 その夜、寄宿舎の自室に駆け込んできたウテナは、居間の卓
袱台でお茶を飲んでいたアンシーを見つけると、すぐさまその
横にドンと腰を下ろした。

「明日はロマンチックなデートだろ」
 勢い込んでウテナがアンシーに言った。アンシーは丁寧に茶
碗を茶托に置いて、優雅な茶匙でお茶をかき混ぜながら、ウテ
ナが話す明日の幹とのデートの計画を無言で聞いた。ウテナは
さらさらと計画を紙に書いていった。

 午後6時   花束とチョコレート持参のミッキーがアンシ
        ーを迎えに来る。
 7時20分  市内の「レ・ビストロ・デュ・ロマン」でデ
        ィナー。(予約済み)
 8時45分  映画。
 10時15分 カフェ「サン・ドゥ」でカフェラテ。
 11時    帰宅。

「どう、アンシー?いい計画じゃない?」
 そう訊いたウテナは得意げに紙を手にして自分の労作を見直
した。

 アンシーはお茶をかき混ぜる手を停め、ウテナに小さな微笑
みを向けて頷いた。
「はい、ウテナさま」

 話し始めようとしたアンシーに
「ウ・テ・ナ」
 思い出させるウテナ。

 言葉を切ったアンシーが、
「はい、ウテナ…さ…。とてもいいお考えだと思いますわ」

 ウテナは大きく頷くと、立ち上がって、その日程表をベッド
のところに貼った。しっかりと、画鋲を紙に刺すと、なぜか胸
がズキッと痛んだ。

 その夜、アンシーは眠れないまま、すやすやと寝息を立てて
いるウテナが眠る二段ベッドの上段を虚しく見上げていた。

***

 翌朝、アンシーのいつもの家事の物音でウテナは目覚めた。
二段ベッドの上からウテナはアンシーを窺った。豊かな藤色の
髪をポニーテールにひっつめにして露わになったアンシーのう
なじの優雅な曲線から、ウテナの視線はアンシーの驚くほどに
長く湾曲した睫毛にと移った。そしてアンシーの全身を舐める
ように見つめだした。

 幹のヤツ、果報者だな…。

 ウテナは伸びをすると、ベッドから飛び降りた。そして衝動
的に、ウテナがアンシーの頬にキスした。あっけにとられたア
ンシーがリアクションする前に、ウテナはデート予定表をポン
ポンと叩くと、そのままバスルームに向かった。

「今夜のデート、忘れてちゃダメだよ」
 そう言って、ウテナは扉を閉めた。

***

 その日一日、ウテナは何をするにもさっぱり集中できなかっ
た。ずっとぼんやりしたままのウテナの顔に、教師たちから何
度も注意を受けた。

 ヤレヤレ、とウテナは思った。
 今夜のアンシーと幹のデートのことが頭から離れないや。ほ
んとうならよろこんでやらなきゃならないのに…。

 ウテナとアンシーの金曜の時間割は同じじゃなかったので、
二人は一日じゅう顔を合わせない。時間が経つにつれ、ウテナ
はますます気分が落ち込んでしまった。なぜアンシーと喜びを
分かち合えないのか、ウテナはあれこれ考えこんだ。
 しかし、最後の体育の授業が終わってしまって疲れた足を引
きずりながら帰宅しても、この憂鬱の原因はやはり説明できな
かった。
 自分の気分にさらにふさぎ込んだまま、ウテナは扉の鍵を開
けた。もう夕方の6時15分だった。

 アンシーが開いた扉を見上げた。幹が早くやってきたのかと
思ったのだった。しかめた眉間をなだめてからウテナに振り向
いたアンシーだったが、扉のそばで元気なくこちらを見つめる
ウテナの姿を目にして、思わず駆け出していた。

 アンシーはウテナに駆け寄った。

「ウテナさ…」

 ウテナの顔に苛立ちが浮かぶのを見て、アンシーは言葉を切
った。
「…どうかしましたの?気分でも悪いのですか?今夜のデート、
私、キャンセルしても…」

 ウテナは首を振って、アンシーの肩に手を伸ばし、そっと腕
を張って押し出した。薔薇の香水の香りがウテナの鼻をついた。
「今夜の君はとてもきれいだよ、アンシー」
 何の昂揚もみせず、ウテナが言った。

 美しいボタンに飾られ、深く胸元を露わにしたVネックの黒
のワンピースドレスを身にまとったアンシーが、クルリと一回
転して、ウテナのためにポーズを決めて見せた。
「気に入っていただけましたか?ウテナさ…?」

 義務感も忘れ、ウテナはルームメイトをしげしげと見つめて
しまっていた。アンシーの豊かな髪の巻き毛の先から、愛らし
いハイヒールのつま先まで、ウテナの視線はさまよい、そして
アンシーの深く切れ込んだ胸元のラインとドレスからはち切れ
そうな膨らみに釘付けになってしまった。
 まともな言葉を出すこともできなくなって、ウテナはアンシ
ーのベッドにドサッとうつぶせに倒れ込んでしまった。

「お気に召しませんでしたか?」
 アンシーが憂い顔で訊いた。ウテナはアンシーの枕に顔を埋
めたまま何かもぐもぐと呟いた。アンシーはウテナの傍に腰掛
けた。ウテナの髪に触れようとした手を、しかしアンシーはハ
ッと引っ込めた。
「申し訳ありません、ウテナさ…、その、私の服がお気に障り
ましたら、着替えます。幹さんとのデートもキャンセルする電
話をかけますから…」
 アンシーは電話に手を伸ばした。

 ハッと振り向いたウテナが、アンシーの手をとると、慌てて
言った。
「いや、アンシーはすごく綺麗なんだけど、ただ、初めてのデ
ートにしてはやり過ぎかなと思って…」
 アンシーの露わな胸元を見つめないようにと必死のウテナの
真っ赤になった顔に、二人のうちどちらかが何らかの反応を示
す、その直前に扉の呼び鈴が鳴った。
 アンシーが浮かべた何とも名状できない表情からこれ幸いと
逃れ、ウテナはどっと駆け出して扉を開けた。ウテナは幹の手
をとって、部屋の中に引き入れた。すばやい動きで予定表を壁
から剥ぎ取ると、ウテナはそれを幹の手に押し込んだ。そして
振り返ってアンシーの手を反対の手で握ると、二人を扉の外に
押し出した。

 唖然とする幹とアンシーの顔を向こうに、ウテナはバタンと
扉を閉めた。

***

 午前0時55分。
 手にした時計を見つめるウテナの顔に、表示板が反射して映
った。すでにパジャマ姿のウテナは部屋の中をうろうろ歩き回
っていた。

「予定表では間違いなく11時には帰るように書いてあったの
に。いったいどこにいるんだ?」
 ウテナは部屋をうろつきながら腹を立てていた。

 1時半。

 扉の外で音がして、ウテナは扉に耳を当てて様子を窺った。
 アンシーの押し殺したような笑い声に、幹がよくわからない
が何かを言っている。

 ウテナが扉から離れて、部屋の向こうまで走り、自分のベッ
ドに飛び込んだその時、扉が開く音がした。

 幹にお休みなさいの挨拶をして、ゆっくりと扉を閉めると、
アンシーは部屋に入った。ウテナが灯りを点けっぱなしだった
ことに気づくと、アンシーは灯りを消した。そしてアンシーは
そっと手を伸ばし、ウテナの前髪をかき撫でようとした…。

 その手を、ウテナがいきなり掴んで、アンシーはハッと息を
呑んだ。

「ウテナさまっ、おきていらっしゃったのですか」
 明らかに驚いた目で、アンシーはウテナを見つめた。

「いま何時だと思ってるんだ?」
 そう吐き捨てたウテナの鼻を、また薔薇の香りがついた。

 アンシーはじっと目を伏せ、答えた。
「私は予定通りにしたかったのですけど…幹さんが一緒にピア
ノを弾きたいって言って、『恋人たちの未来』っていうお店に
私を連れ出して…」

 アンシーの腕をつかむウテナの手に思わず力が入った。
「それで、君は幹の言いなりになったのか!?」
 ウテナは歯ぎしりして言った。溜まりに溜まった感情が表に
溢れかえった。

「どれだけボクが心配したかわかっているのか!?心配で、不
安で、腹が立って、後悔して、何もかも、ボクは思ったんだ!
もちろん、君たちがボクの勧めたところでどうしていたか確か
めるすべもなくてイライラしたさ。もし幹が君に何かしたらど
うなる?!少なくともこんなに遅くなるなら電話ぐらいするべ
きじゃないか!!」
 ウテナはベッドから降りて、アンシーの腕をさらにきつく握
ったまま、睨みつけた。
「それが何だって?幹が連れ出した店の名前が『恋人たちの未
来』だって!?どういう名前の店だよ!?初めてのデートでそ
んな店に男と行くなんてとんだアバズレだ!」
 憤然とするウテナ。

 アンシーはうなだれて呟いた。
「眺めが良いからって…そんな幹さんに、イヤだとは言えなく
て…」

「アンシーっ!!いつもの君らしく毅然として、幹に『イヤだ』
っていえばよかったじゃないか!自分の気持ちをハッキリ言う
ことのどこが難しいんだ!?なんだってそんな名前の店にノコ
ノコとついていったんだ!?」
 ウテナはますます激昂した。
「どうして君はいつもそうなんだ!?どうしていつも、そんな
に弱虫なんだっ!!どうして自分の本当の気持ちを表現できな
いんだ!?どうしてそんなに臆病者なんだ!!!」
 ウテナはいつのまにかアンシーをベッドに押しつけたまま怒
鳴り続けていた。

 アンシーが眉をひそめた。

「ウテナさま、私を弱虫だとお思いなのですか?私が何の決断
もできず、自分の意志で行動できない人間だと?」

 アンシーの肩が荒い息づかいに合わせて震えだした。その息
づかいがウテナの息づかいと同調した。緊張に空気が重くなり、
互いの鬱積した感情が爆発寸前になった。

「おわかりになりませんか?心から嫌っている人間への義務を
果たすために毎日目を覚ますことにどれほど勇気と力を費やさ
なくてはならないかを」

 アンシーはウテナの握った手を震わせ、一歩ウテナに向かっ
て進み出た。
 ウテナはたじろいで思わず一歩後ずさった。

「おわかりにはなりませんか?本当に愛しい人を傷つけないよ
うに、うわべを取り繕って外界から本心を隠すのにどれだけの
力を費やさなくてはならないかを。

「おわかりでしょう?愛する人を喜ばせるためならどんなにイ
ヤなことでも平気だって。

「おわかりでしょう?自分の気持ちをずっと封じ込めてしまう
方が、本心を明かすことよりもずっとたやすいことだって」

 一つの問いかけをするたびに、アンシーは一歩ずつウテナに
詰め寄った。ついにウテナの背後にはこれ以上後ずさる余地が
無くなってしまった。

「ウテナさま、貴女は自分自身を表現することに何の困難も無
さそうに見えますわ。でも、貴女と私のどちらが本当の臆病者
かは明らかです。どちらが自分の本当の気持ちを表現できない
でいるかは明らかです」

 言葉を切ったアンシーが身を寄せ、ウテナを壁に押しつけた。
「おわかりでしょう?最初の一歩を踏み出す方が、いちばん勇
気を必要とするのですわ」
 アンシーが顔を寄せた。

 困惑するウテナの目が曇り、アンシーのゆらぎないエメラル
ドの瞳をじっと見つめた。その刹那、ウテナは混乱した心でハ
ッと悟った。この光り輝く瞳がどれほど強靱で堅固だったかに、
今までどうしてずっと気がつかなかったのだろうか、と。

「ボ…ボクは…何て言えばいいか…そんなこと、考えたことも…」
 ウテナは弱々しく口ごもった。

 アンシーはさらに身を寄せ、触れ合わんばかりに顔を近づけ
る。
「今は考える時ではなく、一歩踏み出す時ですわ…」
 そう言って、アンシーはウテナの顔をぎゅっと引き寄せると、
その唇に口づけた。

 最初は軽くこわごわと。そしてゆっくりと、互いの唇からこ
わばりが抜けていくと、もっと想いを込めたキスを求めだした。
軽やかで人目を気にするようなキスは、やがてもっと情熱的な
キスにと変わっていった。恐る恐る初めて舌先が触れ合うと、
二人とも全身が震えた。
 とてもゆっくりと、アンシーは丁寧にウテナのパジャマのボ
タンを一つ一つ外していった。下まで外すと、アンシーはウテ
ナの胸に手を這わせた。小さな喘ぎがウテナの口から漏れ、初
めてウテナは言葉を失った。

 アンシーはウテナの唇にクスッと笑みを漏らし、そのイタズ
ラな両手でウテナの身体の繊細なラインをゆっくりとなぞって
いった。アンシーはウテナの引き締まった身体をまさぐり続け
た。
「ウテナさま、どれほどこんなふうに貴女に触れたかったか…」
 熱く囁くアンシー。
「こうして私の指で貴女の身体のラインを隅々までたどり、貴
女の身体がどんな反応をするかを味わい、貴女の温もりを感じ、
貴女の香りを吸いたかった…」
 アンシーが顔を寄せて、ウテナの首筋に鼻を押し当てた。
「ウテナさまの香りは、太陽の匂いがします。自信に満ちた活
力と強さの香り。でも、私たちが互いに求めていたものに一歩
踏み出すのには、とても大きな勇気が必要でしたわね」
 アンシーの囁きが、真っ赤に火照ったウテナの耳をくすぐっ
た。

 ウテナはアンシーの腕の中に崩れ、自分の足で立っていられ
なくなってしまった。そして最後の問いかけへの本当の答えす
らもわからなくなってしまっていた。
 アンシーはウテナを壁に押しつけると、上半身をすっかり脱
がせてしまった。そしてウテナの裸身を唇でなぞりだしながら、
軽く舐めたり噛んだりしてキスをちりばめていった。
 首筋、肩、腕、脚、指、足指…そして命と魂まで投げだした
ウテナは、アンシーが今していることを決して止めたりはしな
いと確信していた。アンシーが放った誘惑の蜘蛛の糸にウテナ
はもうぐるぐる巻きに絡めとられてしまっていた。

 アンシーはウテナの目をじっと見つめてから、そのまま唇を
ウテナの愛らしいピンクの乳首に這わせた。ゆっくり視線を外
しながら、アンシーは左右の乳首を交互に口に含んだ。ウテナ
はアンシーの燃えるような視線を受けとめきれずに目を閉じて
しまった。
 クスクス笑いながら、アンシーはリズミカルに歯を立て、し
ゃぶり、キスし、愛撫し、揉みしだくと、ウテナは聞こえない
ほどの喘ぎ声を漏らした。

 ウテナは着ていた服の最後の一枚を脱がされたことにも気づ
かないほどだった。ドレスを着飾ったままのアンシーの熱い身
体がウテナの裸身を覆った。アンシーの両手は時には荒々しく、
時には優しくウテナの全身を動き回った。そして熱く火照った
ウテナの耳に誘惑するような甘い言葉を囁いたり、ウテナの裸
身をたっぷりと愛撫したりを交互に繰り返した。

 ウテナは、こんなに強烈な体験をしたのは初めてだった。全
身に火が点いたように感じた。ウテナの身体の、自分では気づ
かなかった性感帯の全てが、アンシーの手によって一つ一つス
イッチを入れられていった。

 耳に聞こえる喘ぎ声が自分のものなのかアンシーのものなの
かすらわからなくなって、ウテナはアンシーに手を伸ばした。
まるで何か確かなものに必死ですがりつくかのように、ウテナ
がアンシーをギュッと抱きしめると、自分でもそれが何だかわ
からない欲求や渇望の激しい波に打ちのめされた。
 アンシーが囁く言葉の一つ一つにウテナは身震いした。ます
ます激しく舐め、キスし、歯を立ててくるアンシーに、ウテナ
は爪を立てて悶えた。

 だが、アンシーがその手をおずおずとウテナの欲望の「中核」
に伸ばしてきた時には、ウテナはどう感じたらいいのか心の準
備すらできていなかった。ウテナはアンシーの首元に顔を埋ず
め、もっと欲しいと思う一方で、何もかもに当惑しきってしま
った。

「…よろしいですか?」
 アンシーが囁く。

 アンシーの熱い誘惑に、ウテナはもう頷くことしかできなく
なっていた。

 アンシーの優しい手が、確実に、そして愛おしげにウテナの
熱く濡れたところに触れたのが伝わってきた。ウテナは喘ぎ声
が大きくなるのを抑えられなくなった。いや、声を出さずにい
られなかった。さもなければウテナの身体は破裂してしまって
いただろう。
 アンシーが指をそっとウテナの胎内に滑り込ませてくると、
その痛みにも似た快感にウテナは死んでしまいそうになった。
 アンシーの胸の中で全身をこわばらせるウテナに、アンシー
は息を詰めて手をしばし留め、そのまま待った。

「お願いぃ…」
 ウテナはそう囁くばかりで、アンシーを固く抱きしめ、アン
シーが自分の内奥にもっと入り込んでくるのを待ち受けた。
 突然、アンシーの身体がまるで矢を放った弓のように脱力し
たのを感じた。大きく息を吐いたアンシーの指が、ゆっくりと、
リズミカルにウテナの胎内で動き始めた。その指はウテナの欲
望の核をこね回し、ほぐしていった。

 あっという間に、ウテナは快感に我を忘れた。アンシーのそ
そるような囁き、耳打ちに駆りたてられて、ウテナは全身が悲
鳴をあげるような境地に登り詰めた。

 その時、唐突に、アンシーが愛しい人を傷つけることを恐れ
て身をこわばらせたと同時に、ウテナは欲望の高みに達して全
身を凍りつかせた。
 時間も空間も、そして肉体も全てがその存在を停止し、ウテ
ナはオルガスムの頂点を迎えた。

 力尽きたウテナの身体は完全にぐったりしてしまい、ベッド
から転げ落ちそうになった。慌ててアンシーが抱きとめようと
したが、自分自身も今の奉仕で力尽きてしまっていたせいで、
いきなりの落下の勢いに巻き込まれ、二人とも一緒にベッドか
ら転がり落ちることを防ぎきれなかった。

 アンシーはしばらく横たわったまま、自分の上にのしかかっ
たウテナの重みを堪能していた。その時のウテナは、動こうと
思っても動くことすらできないようだった。アンシーはニッコ
リ笑って、両手を伸ばしてウテナの背中や腕をそっと撫でた。
 しばらくすると、ウテナが身じろぎして、両手をついて身を
起こそうと動き出した。アンシーがウテナに微笑みかけた。ウ
テナも微かに笑みを返した。アンシーが顔をほころばせると、
ウテナは今しがたの出来事を思い出して顔を真っ赤に染めた。
 恥ずかしさのあまりにウテナが顔を背けようとすると、アン
シーは両手でウテナの顔を抑えると、そっと口づけした。微笑
んだウテナが、アンシーの瞳をじっと見つめた。その奥に見出
したものに駆られて、ウテナはアンシーの顔じゅうに甘く、柔
らかなキスをゆっくりと注いだ。

 ウテナはぎこちなくアンシーの横に身体を移すと、アンシー
のドレスのボタンを外そうとしたので、アンシーは手を停めた。

「そんなことなさらなくても…」
 アンシーが言った。

 ウテナはアンシーの手にキスすると、言った。
「ダメだよ、最初の一歩を踏み出して勇気を証明してくれたん
だから、今度はこの臆病な未熟者のボクにも勇気があるところ
を、せめて証明するチャンスをくれないかな」

 そして、ウテナが覚えの早い勇敢な挑戦者として自分のテク
ニックを披露すると、今度はアンシーが真っ赤に頬を染めて悶
える番だった。

***

 刻が過ぎ、互いの欲情をすっかり燃やしきって、二人は互い
の腕の中で抱き合いながら、そっと優しく互いの裸身を愛撫し
つつ、口づけを交わし合った。

 アンシーがウテナに顔を向けて、気取って訊いた。
「また幹さんか誰かとデートしてもよろしくて?」

 信じられないといった顔で、ウテナがアンシーの顔をまじま
じと見つめる。

「絶っ対、ダメっ!」
 ウテナはアンシーの肩に歯を立てながら、そう言いきった。

 ウテナは身を起こし、ピンクの髪を顔や肩に垂らしたまま、
うつ伏せになったアンシーの全身を見つめた。
 思わず笑いながら、アンシーは従順に目を伏せて頷いた。
「はい、ウテナ…おっしゃるとおりにいたしますわ…」

 アンシーの笑顔が消えた。ウテナが自分の誘惑に乗らず、逆
に厳しい顔を自分に向けたことに気づいたからだった。

 アンシーはウテナの頬にそっと手を当てた。
「どうかなさいました?」

 その手にキスして、ウテナが言った。
「いや、何でもない…。ただ、嬉しかったんだ。君が自分から
『さま』付けじゃなく『ウテナ』って呼ぶことを選んでくれた
のが…」
 ウテナはそのままアンシーの素手にキスの雨を降らせた。
 アンシーはウテナの顔に手をやり、そっと乱れ髪をかき上げ
た。

「…でも」
 ウテナが続けた。
「やっぱり君にはおしおきだっ。本性は何もかも全然違うくせ
に、ずっと今までおとなしいふりをしていたんだからっ!」
 そう言って脅かすウテナ。

 アンシーは息を詰まらせて笑った。
「あら…ふうん、それじゃどんなおしおきをしてくださいます
の?」
 微笑みながらそう訊いて、アンシーは眉を吊り上げながら両
手でウテナの乳房を撫で上げた。

 ウテナはその手を掴むとアンシーを押し倒し、そのイタズラ
な両手をアンシーの頭の上に片手だけで抑え込んだ。
「ようし、それじゃどんなおしおきをするか、見せてやるから!」

 ウテナは空いている手を下に伸ばし、大きく開いた恋人の秘
所の濡れ具合を指で感じた。
「ほら、なんてエッチなんだ!」
 笑いながらそう言って、ウテナはアンシーに口づけした。

「これから毎日、一生ずっと、君におしおきしちゃうからなっ!
ぜったいに!」
 
 

 
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