おこしやす我が家

第5話

 

 せつない…。

 静留の指が意識してゆっくりと動き、なつきの張りつめた肌
の上でもの憂げに輪を描いていく。亜麻色の髪がなつきの顔を
くすぐり、なつきの唇を舌先がなぞっていく。

 もっと…っ。

 喉の奥から呻き声を漏れているのも自分では気づかないまま、
なつきは静留の悪戯な舌を捕らえてディープキスしようと空し
く顔を上げた。だが静留はクスクス笑いながら小首を傾げてな
つきの接近をいなしてしまう。

「我慢してや、なつき」
 紅潮したなつきの顔に静留が囁く。

 その時のなつきが、どれほど恋人を布団の上に押し倒し、何
もかも忘れてキスしたいと思っていたことだろうか。しかし、
静留がさっき言っていた言葉が頭の中にずっと引っかかってい
た。

 女の子は繊細な花みたいなもんどす。愛情たっぷりに慈しん
で扱わんとあかんのよ。

 何にも代え難い宝物である少女に苦しい思いをさせてしまっ
たことを考えれば、二度と失敗を繰り返すわけにはいかない。

 静留は恋人で、レスリングの対戦相手に悲鳴をあげさせるの
とは違うんだ。静留を押し倒してしまうわけにはいかない!

 なつきは目をギュッとつむっていたので、静留の目に妖しげ
な光が宿っているのにも気づいていなかった。静留がそっとか
すめるようになつきの乳房の下を指でなぞると、なつきはどう
しようもなくブルッと身震いし、全身に鳥肌を浮かべながら、
もっと強く触って欲しいという叶わぬ思いと共に背を弓なりに
反らせた。

「じ、焦らさないで…」
 なつきはもう涙目になっていた。静留の手をとると、なつき
はグイッと自分の胸に押しつけ、頬を激しく紅潮させながら言
った。
「いいから、触って」

「あら」
 静留の口元に寂しげな笑みが浮かぶ。

 なつきの反応は予期した通りではあったが、それなのに、静
留はちっとも楽しくなかった。何が本当になつきの求めること
なのか、確かめなくてはならないと静留は思った。
 かつて静留は、なつきを利用して怖ろしい過ちを犯してしま
った。同じ過ちを二度と犯すつもりなど無かった。

「うち、もうあかんえ」
 静留は首を振って、なつきの胸から自分の手を引っ込めた。

「どうしてっ?」
 なつきがまた静留の手をつかんだ。今まで二人で愛しあって
時に、こんなふうに静留がおあずけを食わせてくるなんて考え
られなかった。

 微かに溜息をついて、静留はなつきの手の甲に口づけし、そ
して顔に申し訳なさそうな表情を浮かべて答えた。
「なつき、うちを信用しすぎどす。うちは因業な女や。なつき
が単純にうちの好きにさせてくれはったら、うち、きっと自分
を止められなくなってまう」
 静留は苦笑しながら、まるで自分にはなつきを見る資格なん
か無いというふうに、視線を畳の床にさまよわせた。
「なつきがうちの身体に負担をかけてるとか、さっきうちが言
うたんはみんな嘘や。うち、なつきをからこうてたんよ。うち
の言うことなんかマトモにとったらあかん」

「静留の言うことをまともにとって、何が悪いんだ」
 なつきが微笑みながら訊いた。
「静留は年がら年中私をからかっているけど、でもそれがどう
だって言うんだ。わざと私を傷つけるつもりなんかじゃないだ
ろ」

「そやけどうち、なつきをからこうて…」

「エッチしようとしたんだろ?」
 キョトンとした顔の静留に、なつきが笑い出した。
「私は確かにニブチンかもしれないが、そういうことはニブく
ないぞ」
 力が抜けた静留の手から手を抜いて、なつきは静留の両肩を
つかむとぎゅっと抱き寄せた。
「お前が望むなら、私はいつだってその通りにしてやる」

「けど…」
 静留の胸に何かが詰まっていっぱいになってきた。

「静留、お前と一緒なら、どんなつらいことが待ち受けていた
ってかまわない」
 耳元に熱い吐息がかかるのを感じながら、なつきは続けた。
「確かに、女同士でセックスなんてどうすればいいんだかわか
らないけどな。どっちも男のアレなんか持ってないんだから。
何かで調べたらいいのかな。やれやれ、インターネットなら答
えが見つかるのかな?実際に人に訊いて回るのはもう御免…」

 もうそれからの言葉は激しいキスでかき消されてしまった。
 静留はなつきにこんなキスをしたことは今まで無かった。そ
れほど激しく、それほどまでに静留はなつきを求めていたのだ。
その時、なつきは悟った。どれほど静留が自分自身を抑え込ん
でいたかを。激しいキスで頭がクラクラしてはいたが、なつき
は静留の裸身を1インチ刻みで激しくまさぐっていった。

「な…なつきぃ…。うち、もう我慢でけん…」
 静留はなつきの首筋にキスの雨を降らしながら、歯を立てて
自分のキスマークを刻印していった。
「…辛抱でけん…」
 喘ぐ静留。

「じゃあ、我慢なんかするな」
 なつきが息を切らしながら、静留の栗毛の髪を震える手で撫
でた。

 なつきの許可がハッキリと出たことで、静留の自制心のたが
が欠片も残らず消え去った。
 すでにぐっしょり濡れていたなつきのピンクのパンティの端
に手を伸ばし、静留はゴムに親指を引っかけると、年下の少女
の身体を覆っていた最後の一枚を脱がせた。

「くうん…、わ、私だけ素っ裸なんてズルイぞ…」
 生まれたままの姿になって顔を真っ赤に染め、なつきは静留
の肩に回していた両腕に力を込めて呟いた。その反応に、静留
は危うく吹き出しそうになってしまった。

 そんなん、すぐに一緒や。

 互いの裸身を目にするのは初めてではない。でも、何の自制
心も無い状態で互いの全裸の身体を隅々まで味わい尽くしても
かまわないという時を迎えたのは、これが初めてだった。
 なつきは静留にあんまりジロジロ見られたくなかったが、そ
んな要求をする根拠など一つもなかった。なぜなら自分も全く
同じ事を静留にできるのだから。
 おかしなことに(?)、静留の股間は透明な液体ですっかり
濡れているのが目で見てとれた。静留は否応もなくなつきの視
線に気づかされた。その証拠に、静留の全身が信じられないほ
ど真っ赤にみるみる染まっていったからである。

「あ…す、すまん」
 慌ててなつきが目を逸らした。自分の血が耳の奥でドッと流
れていくのが聞こえるほどだった。

「いけず」
 そう呟くと、静留はなつきの鎖骨に沿ってキスを続けながら、
その間じゅうずっとなつきのしなやかな太股の内側を手のひら
で撫で回していた。

 静留にくすぐられている時と似てはいたが、その感覚はどう
表現したらいいかわからないほど異質な快感だった。だがそれ
が何であろうと、最高な気持ちであるのは確かだった。静留が
なつきのしこった乳首を舌で絡めとり、もう反対の乳首を親指
と中指でクリクリすると、快感はますます高まった。
 静留がまるで飼い主の食事をかすめ取った猫のように笑う声
を聞き、感じとれたせいで、なつきはもう口に出してせがむし
かなくなってしまった。

「もうおねだりどすか?」

 静留のハスキーな声が靄のかかった意識の中で微かに聞こえ
た。なつきの身体はますますジンジンしてきた。静留が続ける
言葉もかまわず、なつきはうっそりと両手を京娘の首に回し、
年上の少女に向かってもっとしてほしいとせがんだ。

 なつきのしぐさに後押しされて、静留はさらに激しく舐め、
舌先をなつきのおへそに突っ込んで、引き締まったお腹の滑ら
かな肌をしゃぶった。なつきの腰が静留のキスに反応してビク
ッと跳ね上がり、なすすべ無くのたうちながら大声で呻きだし
た。

「泣かんといて…」
 静留は身を起こして、涙だらけのなつきの顔を撫でた。
「もう、お終いにしますえ…」

「止めるなっ」
 なつきが手の甲で顔を拭い、言い切った。
「泣いてなんかないっ。勝手に出てくるんだっ。くそっ、止め
たら承知しないからなっ」

 涙だらけの少女のちょっとむくれた唇に慎ましいキスをして、
静留はなだめるように笑顔を浮かべ、中断していたところから
再開した。わなわな震えているなつきの太股の内側を舐めなが
ら、静留ははあはあっと息づかいを荒くしつつ、一寸刻みでな
つきの脚の付け根に向かって進んでいった。
 そしてついになつきは、静留が自分に微笑みかけるたびに自
分がいつも求めていたのが何だったのかをハッキリ悟った。そ
れからなつきが感じたのは、自分の胸にのしかかってくる重み
と、胎内でジンジンと疼く感覚だけだった。

 私は、静留が欲しい。
 なぜもっと早く、気がつかなかったんだろう。

 静留の口に向かって腰を使い、なつきはむせび泣きながら静
留の後頭部をぐっと自分に押しつけた。もしこの京娘がなつき
の両脚を手で押し広げていなかったら、頭越しにガツンと蹴り
を食らっていただろう。
 なつきが涙にむせんでいるので静留はひどく不安になったが、
なつきの手ははっきりと、これで止めてほしくないと示してい
た。自分の位置から見上げると、激しい快感に歪んだなつきの
顔が見えて、静留は自分の股間がジンジンしてくるのを覚えた。

 もうちょっと…もうちょっとで…もうちょっとで何を?

 なつきは混乱していた。なつきの意識は静留の舌が濡れそぼ
った肉襞を上下に舐めあげていく動きによってどこかにすっ飛
んでしまった。なつきの身体は危険を感じて硬直したが、静留
がゆっくりと指を膣内に押し入れてくるとたちまちふにゃふに
ゃになってしまった。妙なことに、ちっとも異物感は無かった。
上手い言葉が見つからないが、むしろ「満たされた」と言った
方が良かった。

 最初はゆっくりと、そして徐々に静留はテンポを早め、静留
は指をなつきの感嘆するほど柔らかく、そして焼けつくように
熱い秘肉の奥に抽送していく。やがて、さらにもう一本、指が
追加された。

「し…静留…お、お願い…」
 なつきは自分が何をお願いしているのかすらわからなくなっ
ていた。ただ、自分が今ひたすらに求めていることを与えてく
れるのは静留しかいない、ということだけはわかっていた。な
つきの全身はピンと張りつめ、全身の筋肉は今にも砕けてしま
いそうなほどに固くねじれあがっていた。
 そして、砕けた。静留がなつきの下の口の端に唇を当て、ピ
ンクの肉芽をそっとしゃぶりながら、愛する少女の胎内奥深く
に挿入した指を押し込んだのだ。


 たった今初めて体験した信じられないほどの高みからようや
く降りてくるまでは、なつきにはまるで永遠の時間のように感
じられた。絶頂の余韻にまだ全身をじんじんと疼かせたまま、
なつきは気怠く目を開けた。自分は恋人の腕の中に抱かれてい
た。二人が今なにをしたのかを悟って、なつきの頬がカッと熱
くなった。

 セックスって、思っていたような、危ないことじゃなかった
んだな…。

 妙に気持ちが楽になり、心の壁が取れて、なつきは最愛の女
性を抱きしめた。

 それに…静留って、キスが上手くて…舌もすごくて…こいつ
ったら。

「なつき、笑ろてる」
 静留も笑っている。
「良かったん?」

「何が?」
 なつきが相好を崩した。
「最初からそう言わせたかったんだろ?」

「なつき、うちのことようわかってはる」
 静留が畳みかける。
「で?」

 きょとんとしてしまったなつきだったが、やがて、なぜ静留
がこんなになつきの返事を引き出そうと急きたてられているの
か、その理由が呑み込めた。

「すごく良かった」
 なつきは静留の頬を両手で包み、唇に口づけした。
「愛してる」

 これ以上の幸せを、静留は感じたことはなかった。
「うちも愛してますえ」

 だがそれも長くは続かなかった。なつきがタックルをかまし、
布団の上に押し倒してきたので、静留はあっけにとられてしま
った。

「私が上になるから身体に負担がかかるなんてデタラメをぬけ
ぬけと…。ふん!もう勘弁しないからな!下になってた私がど
れだけ歯がゆかったか、わかるか?!」

 ニヤリと笑ったなつきの顔に、静留の背筋にゾクゾクするも
のが走った。
「あら、うちはなつきにずっとそのままでおってなんて言うて
まへんえ。なつきはどうしたいん?うちをピンフォールして勝
ちたいん?」
 静留がとぼけて訊いた。

「いいや」
 なつきが静留の両手首をとって、頭の上に押さえつけた。
「それ以上だ」

「いやあん、ほんならもしかして、くすぐりマラソン大会?」
 ひどくつらそうな顔でムッとする静留。
「うち、そないなお仕置き受けるようなこと、してまへんどす
え」

「どうするかな」
 なつきは静留の両手首を念のためにしっかり片手で押さえつ
けておきながら、もう一方の手を静留の脇腹に伸ばした。
「でも、それじゃ物足りないな。くすぐりまくる程度じゃ……
なっ!」
 なつきはさらに手を伸ばして、静留の片方の太股をつかみ上
げ、反対の太股の上にまたがった。
「さて、確かこうだったな、静留がこの前『発作』を起こした
時、こんなふうに脚を絡めてたんだった。あの時にお前がちゃ
んと言ってくれてたら、みんなにあれこれ訊いて回る必要なん
か無かったんだぞ。くそっ、何て恥ずかしい真似をしたんだ、
私は。いいか、この代償は高いぞ」

「だって、なつきかてわかってると思うてたんやもん、そんな
んイロハのイどすえ、なつきぃ」
 静留はキラキラ輝くなつきのエメラルドの瞳を見上げ、クス
クス笑った。なつきの「お仕置き」が、もう待ちきれなかった
のだ。

 言うても、なつきはほんまに物覚えがええどすからなあ。

***

 娘の部屋の前で秘かに様子を窺っていた静留の母が、愉快そ
うに首を振った。こみ上げてくる笑いを抑えながら、静留の母
は閉じた襖にぺたんと紙を一枚貼りだして、そそくさと立ち去
っていった。静留と、その可愛い恋人が部屋にこもっている間
に、外出して身を隠さなくてはならないのだ。

 なぜかって?
 朝になって二人が起き出して、この紙に書いてあることを目
にしたら、今の愉快な気分もたちまち絶体絶命に追い込まれて
しまうだろうから。


『入るな!ただ今、熱々レズプレイ中』
 
 

 

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